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第35話・倒すためには

 今のオレたちでは魔王を倒せない。


 それがはっきりしたオレたちは、授業により一層熱が入った。


 ランニングも、オレや先生が魔法をかける回数が俄然減った。


 それほど、全員必死でランニングしたのだ。


 今までちょっと授業を舐めてた風のあった那由多くんも、座学・実技どっちも真剣にやっていたし、ハルナさんは大剣を力任せで扱うのではなく、扱い方をものすごく勉強していた。おっさんもクロスボウの扱いに、肉体強化・弱化魔法を学び、今まで主武器を特に決めていなかったオレは、武器の先生と相談して、槍を選んだ。リーチがあるし攻防に優れた武器だから、と先生が進めてくれたのだ。


 回復魔法と槍の扱い方、両方がまだまだ足りない。


 第1科と第2科が、食事も大急ぎで食べて昼休みの自習に走り、夕食も食べ終わってから訓練場に向かうオレたちを見て、何事かと目を丸くしていたけど、こっちは足りないものが分かってるんだ、増やさなきゃいけない。



「たあーっ!」


「ふっ! はっ! ほっ!」


 オレとハルナさんは、それぞれの武器で模擬戦闘を行っていた。


 最初に出会った時、ハルナさんは滅茶苦茶強いという印象だったけど、そのハルナさんと、手加減してくれているとはいえ、やり合えることになるとは思わなかった。


 と、油断していて。


「はあっ!」


 下から救い上げるようなハルナさんの一撃を受けて、オレは長槍を弾き飛ばされた。


「てぇ~っ……」


 手がジンジンする。


「やるじゃない」


 ハルナさんは大剣を背の鞘に収めた。


「まだまだだ」


 しびれる手で槍を手に取って、オレは呟く。


「筋力が足りない」


「筋トレするしかないわね」


 ハルナさんの言葉には相変わらず迷いがない。


「…………」


「少し休憩するかい?」


 おっさんがドリンクを持ってやってきた。


「あ、ありがと」


「助かるわ」


 冷えたドリンクを二人して一気飲みして、ぷはあ、と息を吐きだす。


「おっさんの方はどうだい?」


「ああ、随分当たるようになってきたよ。もっとも、魔王に効くかどうかは分からないけどね」


 おっさんは今までドローンのように上下左右に動き回る的をクロスボウで狙う訓練をしていた。


「那由多くんは?」


「あそこ」


 おっさんが指した先は、地面に直に座っている那由多くん。目を閉じ、足を組み、集中している。その頭にはオウル。


 もちろん、ただとまってるわけじゃない。


 集中している那由多くんの内の闇の力を闇魔法の一種である死霊使役ネクロマンシーの力を導き、引き出している。


 魔法を初めて使う時、先生にその力を送り込んでもらって、そこから魔法を引き出す訓練をしたけれど、那由多くんはその時のことを、先生以上の力で操ってもらっているのだ。


「死霊の死霊使役者ネクロマンサーに、頼るのはどうかと思ったけれど」


 ハルナさんが小声で言った。


「オウルは悪いヤツじゃないよ」


「分かってるわ」


 ハルナさんはぶっきらぼうに言った。


「ただ、勇者の力を死霊が引き出せるとは思わなかったから」


「闇の力だからね」


 おっさんが自分もドリンクを飲みながら答える。


「魔法専門は那由多君だけだからね、強ければ強いほどありがたい」


「だね」


「それで、相談があるのだけれど」


 珍しい。


 ハルナさんからオレたちに相談なんて、初めてなんじゃないか?


 あ、勇者の子供だってことを黙っててって言われたことがあったか。


 それにしても珍しい。


「何?」


 オレが聞くと、ハルナさんは真剣な顔で言った。


「そろそろ装備を揃えなきゃいけないんじゃないかしら」


 装備。


 その言葉を聞いて、オレもおっさんも顔を引きしめた。


 今オレたちが使っているのは、学校から支給された装備だ。


 運動着を始めとした学校支給の装備は無料だけど、その分弱い。ゲームの主人公の初期装備って言えば分かるだろう。それに、いずれは学校に返却しなきゃいけない。無限ポーチも、勇者になって学校を卒業したら、いると言っても返さなきゃいけないのだ。


「確かにね……」


 おっさんは呟く。


「そろそろ装備のアイテムを増やしていった方がいいとは思っていた」


 オレも頷く。


 装備を作ってくれる職人は学校にいる。頼めば、武器や防具、道具を作ってくれる。


 だけど、それに必要な材料は自分で集めなきゃいけない。


 自分の実力に見合った装備しか持てないのだ。


「しかし、何から揃える?」


 おっさんの言葉に、ハルナさんとオレはう~んと悩む。


「防具ね」


「防具だな」


 ほぼ同時に応えて、思わず顔を見合わせた。


「防具。何故だい?」


「生きて帰れなきゃ困るでしょう」


「とりあえず全滅してアイテム没収されるのは痛い」


 授業の一環として、材料探しの課外授業がある。基本的に、先生はついてこない。自分の力で手に入れなきゃ装備に相応しい自分になれたとは言えないからだ。全滅したら先生が助けに来てくれるけど、その場合集めたアイテムは一切合切問答無用で没収される。だから、死ぬ覚悟でアイテムを集めて死んで持ち帰るという力技が使えない。


「そうだね」


「僕は宵闇のマントが欲しい」


 唐突に聞こえた声に、三人でそっちを見ると、那由多くんがこっちに向かって歩いてきていた。


「集中は終わったのかい?」


「終わった。雄斗、オウルをありがとう」


 オウルは羽根を広げてオレの頭に着地する。


「役に立ったか?」


「ああ。闇の力をかなり引き出してくれた。後は僕が操れるように制御するだけだ」


「そっか」


 戻ってきたオウルをモフりながら、オレは呟いた。


「宵闇のマントか。あー、あれ、いいな」


 宵闇のマントは、受けた魔法を自分の魔力に変えるという、魔法系勇者にとっては是非とも手に入れたい装備である。


「でもあれに必要な闇烏の羽根はS級だろ?」


「無理?」


「無理でしょ」


 う~んと那由多くんも悩んでしまった。


「そもそも、今のオレらで集められる装備って、どのくらいだ?」


「ミスリル」


 ハルナさんが断言した。


 聖銀とも呼ばれる、神聖なる鉱物。


「無理なんじゃ?」


 オレは首をかしげる。


「無理っぽくても、最低ミスリル装備がないと、役に立つと言える装備を手に入れる世界には行けない」


「確かになー……」


 武器防具はおいとくとしても、便利な装備は絶対必要。無限ポーチがあればいくらでも荷物は運べる。身軽なのはそれだけで仕事が楽になるのだ。そして無限ポーチは支給品の中でもランクがトップクラスに高い。


 やっぱり、それを自分の所有物にするには、相当ランクの高い防具が必要で。


「今のオレたちでミスリル採集できると思う?」


「やってみなくちゃわからない」


「そう、だな」


「じゃあ、ミスリルを採れる装備材料の世界に行って、ミスリルを大量に持ち帰る。それでいいかい?」


 おっさんがまとめて、全会一致でミスリル採集に行くことが決まった。

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