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第33話・やってみようよ

 マッド・ゴーレムが出現した、次の日。


「やってみようよ」


 そう言いだしたのは、那由多くんだった。


「マジか?」


「本気だ」


 那由多くんは胸を張った。


 那由多くんが何を言い出したかというと。



 結局、昨日の授業は五時限目で終わって、先生は戻って来なくて、スマホで授業中止・寮待機となった。


 で、朝、通常通り授業を再開するという連絡があったので、相変わらず全員(強制的に)ゆっくりのんびり朝食中、那由多くんが言い出した。


「神那岐と土田さんで、マッド・ゴーレムを倒したんだよな」


「倒したっちゃあ倒したけど……」


「倒したと言うか自滅を狙ったんだよ」


「僕の魔法は結界を貫いた」


 そう、那由多くんの闇精霊ダーク・スピリットは、昨日、ついに結界を貫いたのだ。


 そのおかげで平均点もあがり、那由多くんは浮かれていた。


「風岡さんの剣術も専門の先生に合格点をもらった」


「何が言いたいの?」


 単刀直入に聞いてきたハルナさんに、那由多くんは思わぬことを言いだした。


「やってみようよ」


「何を」


「キールとの勝負だよ」


 おっさんが思わず立ち上がり、オレは水筒から飲んでいたお茶を噴き出しかけ、さすがのハルナさんも目を丸くした。


 オレたちの知っているキールと言えばただ一人。教室のホワイトボードから繋がった異空間で封印されている魔王……先生の言うには、魔王の卵。これを倒すことが卒業の条件。入学一日目の時顔合わせをしたが、威圧感と殺気はとんでもなかった。


「マジか?」


「本気だ」


「おいおいおいおい、それはまずいよ」


 おっさんが割って入ってきた。


「魔王キール打倒は卒業課題だよ? 一ヶ月と少ししか訓練のできていない私たちが叶う相手じゃないよ」


「別に勝てるとは思ってないよ」


 那由多くんは胸を張っていた。


「だけどさ、いつかは戦わなきゃいけない相手だろ?」


「まあ、な」


「なら、一度戦ってみて、相手の強さを試してみるのも、いいんじゃないか?」


「んー…………」


 ハルナさんは悩んでしまった。


「おいおいおいおい、絶対まずいよ」


 おっさんが止めに入った。


「入学の時、あいつを見た時、分かったじゃないか。今の私たちじゃ、到底敵わないって」


「入学した時は、僕たちは何もできなかった」


 いきなり、那由多くんのワンマンショーが始まった。


「魔王の威圧感と殺意に負け、勇者たることを諦めようとすら思った」


 ……まあ確かに、オレも初対面の時は絶対に勝てない相手だと思った。これを倒さなきゃ卒業できないってんならどうしろっつーんだって思った。


「でも、できることが増えた。少しだけど」


 おや?


 オレの知ってる那由多くんなら、「闇の世界から全能の力を与えられた」とでも言いかねない状況だったのに。


 ちょっと引くことを覚えたのかな?


 安久都先生……博の言葉は、彼の中の何かを変えたのか。


「今僕たちにできることが、最終目標にどれくらい届くか、試してみるべきじゃないか」


「絶対勝ち目ねーぞ」


「それなら逃げるよ。先生だって言ってたろ。勇者候補が簡単に倒されると困るのは学校だって」


「そりゃあ……言ってたけど」


 交渉と記憶力では頼りがいのあるおっさんが、もごもごとくちごもった。


「つまり、安全なのは分かっているから一度戦って相手と自分たちの差を確認するって言いたいのか?」


「まさにその通り」


 那由多くんはわが意を得たりと笑った。


「僕も魔勇者としてのレベルが上がった。もちろん相手を見下しているわけではないが、試してみなければどうなるか分からない」


「ん~……」


 オレは悩んだ。


 正直、あのキールとは会いたくない。ていうか、相手がヤバすぎて願わくば二度と顔合わせたくない。


 だけど、卒業するには絶対に戦わなければならないヤツ。


 どうするか……。


「わたしは賛成」


「風岡さん?!」


「ハルナさん」


 手を小さく挙げたハルナさんの意思を確認するために、オレは視線をハルナさんに向けた。


「一度戦ってみないと、相手の戦力が分からない。初心者の内は先生が止めてくれるって言うのであれば、やってみる価値はあると思う」


「雄斗君は?」


「んん~……」


 土田のおっさんがこっちを向いたので、たっぷり五分、悩んで、オレは顔を上げた。


「じゃあ、やってみようか」


「反応が遅い」


「相手が悪い。オレはあいつとはやりたくないと思ったことを忘れてない」


「おにいちゃんはたたかいたくないの?」


 肩にいるオウルに、オレは頷いた。


「できれば顔も合わせたくないってのが本音」


「そんなにこわかったの?」


「怖かった」


 オレは正直に言った。


「多分オウルも会いたくないって言うよ」


「じゃあ、君は反対なのかね?」


「反対ってわけでもない」


 オレは足を組んで宙を睨む。


「一度戦ってみないと、どれだけ強くならないと戦えないかが分からない」


「じゃあ文句言うなよ」


「ヤバい相手だってのを忘れてないんだよ、オレは」


「……で、結局いいのかい? ダメなのかい?」


 確認をとってくるおっさんに、オレはしぶしぶ頷いた。


「戦ってみないと分からない。だから先生の監視下であれば戦ってみる価値はあると思う」


「なるほどね」


 おっさんがまとめた。


「では、先生に申請することでいいかい?」


「ああ」


「ええ」


「それでいい」



 先生が入ってきた時、おっさんが第3科を代表してこの意見を言った。


「ほう」


 先生は目を細めた。


「戦ってみたいと」


「でないとどれくらい強くならなければいけないか分からない」


 那由多くんが胸を張る。


「では、分かりました。時間は十五分後……でいいですか?」


 オレたちは頷くと、速やかに戦闘の準備を始めた。


 抜き打ちテストで装備の必要性を思い知らされたオレたちは、即座に装備を準備して、十五分後。


「準備は、いいですね?」


 先生の確認に、オレたちは緊張の顔を隠せないまま頷く。


「では」


 先生はホワイトボードを押し込む。


 白から黒のグラデーションで渦ができて。


 首の後ろの毛が逆立つのが分かる。


 威圧感はそのままに、亜空間の向こうに、()()がいた。

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