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第32話・意外な弱点

「何やってんだ、おっさん!」


「君を……君一人残して」


 小さく震えながらも、おっさんはマッド・ゴーレムに狙いを定めて叫ぶ。


「逃げられるほど、私は卑怯者じゃない!」


「馬鹿、おっさん一人加わったところでどうなるってんだ!」


 おっさんはずんぐりむっくりした人型のゴーレムを狙いながら、オレの横に並ぶ。


「弱点は知っている!」


 え、マジか。


「その前に相手を弱らせないと……!」


「どうするんだよ!」


「方法はある」


 おっさんは呪文を唱え始める。


 敏捷強化ヘイスト


 オレの素早さを上げてどうするってんだ?


 しかし、おっさんがかけたのは。


 青い光がゴーレムに浮かぶ。


「なんでゴーレムに敏捷強化ヘイストかけんだよ!」


 おっさんはそれに答えず、引き続いて敏捷強化ヘイストを。


 連打、連打、連打、連打!


「おっさん、おい、おかしくなっちまったのか?!」


 おっさんが呪文を止めたのは、顔色が青ざめて、もう限界というくらいだった。


「こ、れで……」


「だからなんで!」


「逃げるよ!」


 だん、とオレを突き飛ばして、おっさんが下がる。


 いや、逃げるよと言われても逃げるしかないだろ、動きの素早いゴーレムなんて!


 オレとおっさんは反対の方向に逃げて、ゴーレムは動こうとして……。


「うお?!」


 ゴーレムが盛大にすっころんだ。


 思わず足を止めてそちらを見る。


 ゴーレムは起き上がろうとして、そのまま後ろにそっくり返った。


 そっか!


 動きの鈍いゴーレム、素早い動きに慣れてないんだ!


 速過ぎて自分の身体をコントロールできず、あちこちにぶつかったり転んだりを繰り返す。


 しかも相手は泥製。何処かにぶつかる度に泥が飛び散る。


 動くたびに身体が削られていく!


「雄斗君!」


 おっさんが叫んだ。


「ゴーレムの弱点は、顎の下の符だ! それを何とかすれば!」


 顎の下の符?


 オレは転がりながら小さくなっていくゴーレムに走って近付く。


 おっさんの敏捷強化ヘイストは効果が弱く、もうかなり遅くはなっていたけど、オレの三倍はあったゴーレムは、子供以下の泥の塊になってじたばたしていた。


 べしょべしょになった符が、そこにあった。


 それに手を伸ばし、引っぺがす。


 動く泥は、ただの泥の塊になって地面に伸びた。


「はー……どうなることかと思った」


 びりっと符を破って、オレは息をついた。


「おっさん、大丈夫か?」


「ああ、精神力を、かなり、使った、からね」


「びっくりしたぜ、ゴーレムに敏捷強化ヘイストをかけた時は」


「相手が泥だったら、動きについて行けないと思ってね」


「土田さん! 神那岐さん!」


 バサバサバサッという羽音と、声。


 オウルが安久都先生を連れて戻ってきた。



「マッド・ゴーレム」


 先生は深刻な顔をして呟いた。


「何故こんな場所に」


「オレだってわかんねーよ」


 地面に座り込んでオレは言った。


「だいじょうぶ? いたくない?」


「大丈夫だよオウル」


 大きく息を吐いて、オレは頷いた。


「でも、オウル君が先に気付いたのなら」


 おっさんが声をかけた。


「学校か、その中の誰かに敵意を持っている相手に違いないと思います」


 先生は深刻な顔で爪を噛んでいた。……イラつくと爪を噛む癖は直ってないのな、お前。


 やがて、気付いたように先生は指を歯から離して、オレたちの方に向き直った。


「マッド・ゴーレムを良く倒しました。しかし、今度からは迷わず逃げて通報してください。何のためにスマホを渡していると思っているんですか」


「あ」


 おっさんとオレで思わず顔を見合わせた。


「忘れてた」


「忘れないでくださいね」


 先生は思わずため息をついた。


「二人は教室に戻って下さい」


 学校の方から何人かの先生が走ってくるのを確認して、先生は深刻な顔をして言った。


「私が戻ってくるまで自習で」


「はい」


「分かりました」


「では、行ってください」


 バサバサバサッとオウルがオレの左肩に乗っかる。


 おっさんとオレは歩きながら顔を見合わせ。


 ある程度離れた場所で、つい手を出し。


 ぱん! とハイタッチした。



 それからしばらく先生は戻ってこなかった。


「マッド・ゴーレム?」


 ハルナさんの声色が微かに驚いていた。


「あれは誰かが作らなければできないものよ。それがこんな日本の山の中に現れるなんて、あり得ない」


「有り得なくてもあったんだよ」


 オレはぐたりと机に突っ伏して答えた。


「出っくわした時は一巻の終わりかと覚悟した」


「でしょうね」


「でもおっさんのおかげで助かった」


「いやいや」


 おっさんも机に突っ伏しながら手をひらひらさせた。


「私も上手く行くかどうか分からなかったから……」


「僕がいれば、魔法で何とかできたのに」


「そうだなー。闇精霊ダーク・スピリットで符を破ってもらえれば一撃だったもんなー」


 返ってくる声がなく、オレが顔を上げると、得意げな那由多くんの顔が見えた。


「ああ、オレとおっさんじゃ攻撃魔法が使えなかったからな」


「そ、そっか。そうかそうか」


 那由多くんは嬉し気に何度も頷く。


「そうだな。そうだよ。うん」


 那由多くん、にまにま顔、隠しきれてないよ。


「そう言う機会があったなら、僕の魔法を、使ってやるよ」


「うん、その時は頼むわ」


 ふん、ふふん、と那由多くんは嬉しそう。


 まあ、こんな感じでやっていければいいのかなあ。


 それにしても、あのマッド・ゴーレムは、誰が作ってここまで連れてきたんだろう?



     ◇     ◇     ◇     ◇



「マッド・ゴーレム」


 教師たちはただの泥と化したゴーレム構成要素を見ながら、唸った。


「何処のどいつが作ったんだ」


「今、勇者の名簿を調べて、ゴーレム創造者クリエイターのスキルの持ち主を当たっていますが」


「簡単には見つからないだろうな」


 博も深刻な顔で呟く。


「こんなことが起きるとは」


「小畑先生」


 校長が声をかけた。


「学校周辺の結界を強化。今回はマッド・ゴーレムでよかったが、アイアンクラスが出て来たら生徒たちが危ない」


「分かっています」


「絹井先生と安久都先生は作り主を探ってください」


「はい」


「分かりました」


 教師たちはそれぞれの場所に素早く走っていく。


 校長は深刻な顔で、マッド・ゴーレムだった泥を見下ろしていた。

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