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第30話・悔しさはバネにするべし

 足音が小さく消えていくのを感じて、博は那由多に尋ねた。


「実際、彼は貴方を危険な目に合わせましたか?」


「合わせた! 危険な道を歩かせた! 死体の前に出した!」


「そうしないと、君一人が危険になるからでしょう? それとも、君一人が危険な目に合うようなことをさせましたか?」


「違う! あいつは僕を馬鹿に! 馬鹿に、馬鹿に馬鹿に!」


「馬鹿にしていれば、君を残して行ったでしょう」


 涙をぼたぼた垂らしながら、那由多は俯いた。


「だって、彼には君を助ける義理なんてなかったんですから」


「……でも、僕は……!」


「助けてほしいなんて、一言も言っていない、ですか?」


「…………!」


「でも、助ける義理がなくても助けてしまう人がいる。それが、勇者です。誰かを助けるために面倒ごとを引き受けてしまう者」


「じゃあ……僕は……勇者に相応しくない人間……」


「いいえ、違います」


 博は小さく首を振った。


「入学式の時、貴方は聞いてはいなかったでしょうけど、校長は言いました。勇者とは勇気ある者。誰かを助けるために命をかけてしまう者」


 那由多はくったりと首を垂れてしまった。


「貴方にもその勇気があると私は思っています。教員も全員判断しました。そうでなければ、ここには入学できていません」


「ないよ……そんなの……」


 ぼたぼたと涙がこぼれる。


「風岡みたいに強くもない! 土田みたいに話し上手でもない! 神那岐みたいにりいだあしっぷとやらもない! そんな僕に! 僕に!」


「魔法の……特に闇魔法の才能は、学校始まって以来のものだと思いますよ」


「そんな……気休め……」


「気休めではありません」


 博はきっぱりと言い切る。


「君は君の得意を伸ばせばいい。もし彼に意趣返ししたいと思うなら、闇魔法を伸ばし、それこそ君の言った魔龍降臨コール・ダークドラゴンも使えるようになればいい。そうすれば彼は間違いなく君を頼るでしょう」


「あいつが……僕に……?」


「ええ」


 博は微笑んだ。


「勇者が頼る相手は、勇者の他いない。平均点で超えられたのが悔しいなら、闇魔法を伸ばし、他の教科を頑張ればいい。悔しさはバネにしてこそ、伸びることになるのですよ」


「……できる……か……」


「できますとも」


 博は那由多の肩を叩いた。


「そのために、君は、そして私は、今、ここにいるんですから」



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



「くあああああ……」


 部屋に戻って、オウルを思う存分モフってから、大欠伸をしたら、こん、こんと窓を叩く音。


 多分来るな、と思ってたから、驚かず窓を開けた。


 博がガラスの向こうでひらひらと手を振っていた。


「おう。お話すんだ?」


 窓を開けると、博はおもりを背負っているとは思えない程軽々と窓枠を飛び越えて入ってきた。


「最後まで聞けばよかったのに」


 博はオレと同年代らしいニヤニヤ顔で言った。


「聞かない方がいいと思ったからな」


「せんせい! せんせい!」


 オウルがバッサバサと飛んできて、博の手の中に飛び込んだ。


「おう! よーしよし、言うことはきちんと聞いてるな?」


「うん!」


 モフられながらオウルが頷く。


「返せ。オレの」


「相変わらずモフ好きなのな」


「たりめーだ」


 オレはモフ玉オウルをひっつかみ返してオレの肩に乗せた。


「何喋ってたんだよ。オレにリーダーシップがあるなんてでたらめを。いたたまれないってのはこういうことだ」


「だから逃げたのか?」


「お前のでたらめを聞いてたら耳が死ぬ」


「でたらめじゃねぇぞ?」


 博はニッと笑う。


「俺は、入試の時から、お前はそっちの才能があると思ってたよ。教員もみんな、そう言ってたし」


「ないない、そんなの」


「ま、そのうち分かるさ。リーダーシップの才能なんて、ついてくる人がいなければ目覚めない才能だ」


「りいだあしっぷって、なに?」


 博は先生っぽく少し考えてから、言った。


「人を率いる能力、かな」


「うん、おにいちゃんはそういうちからがあるとおもうよ」


「オウル~」


「あのおじさんもいいひとだったけど、おともだちのために、かきおき? をしようっていってくれたのはおにいちゃんだもん」


「オウル~」


 ここはなんだ。ほめ殺しの殺人現場か?


「ま、実質第3科はお前がまとめてるようなもんだ。土田さんも大沢君も風岡さんも、お前を通じて成り立ってるようなもんだし」


「おっさんはそれほど大変でもないぞ?」


「元営業マンの才能を引き出したのもお前だよ。交渉事一切任せようって言ったの、お前だろ?」


「ニートのオレには無理だと思ったし、那由多くんは不可能、ハルナさんはこれまた交渉事苦手そうだし、任せきるしかないだろ。おっさんならやってくれると思ってただけ」


「それが任せるって才能、しいてはリーダーシップだよ」


「またまた」


「いやいや、本気」


「正気か? お前、十年合わないうちになんか気持ち悪い能力身につけた?」


「勇者の能力身につければこうなるよ」


「あ~勇者になるってそう言うこと~?」


「そう言うことだよ。人を見る目は自然に磨かれる」


「……冗談だったんだけど」


「ま、大沢君のいいお手本になれるよう頑張ってくれ」


「大沢……あ、那由多くんか」


「勇者の通り名を作るってのもあるけどな」


「あ~それまた那由多くん喜びそ」


「あんまり責めてやるなよ。中二病って言うけど、彼の意識は結構それに近い線で止まっちまってるんだぞ?」


「オレだって引きこもり型ニートだ」


「威張ることかそれは」


「威張れないな」


 笑いあって、博は窓枠に足をかけた。


「じゃあ俺行くわ」


「結局今日は何しに来たんだよ」


「大沢君結構メンタル弱いからフォローしてやってくれって頼みに来たんだよ」


「マジかよ」


「マジだよ」


 博は窓枠に足をかけ、ひょいっと飛び越え、軽く手を振ると闇の中に消えていった。


 オレは姿が消えたのを確認して、窓を閉めて鍵をかけ、カーテンを閉める。


「ねるの?」


「ああ寝る。生きてるのはみんな休憩をとらなきゃやってけないんだ」


「じゃあ、ねてね」


「そう言う場合は、おやすみなさい、ね」


「じゃあ、おやすみなさい」


 ベッドに転がって、オレは本日二度目の眠りについた。

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