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第27話・名前を呼んで

「で、この特別点ですが……」


 見下ろして、安久都先生はオレを見た。


「どうしますか?」


「どうしましょう」


 オレも悩んでいた。


「貴方はどうしたいですか?」


 聞かれたフクロウは、机の上に飛び降りて首を傾げた。


「ぼく、おにいちゃんといっしょにいたい」


「自由に空を飛べるのに?」


「あのむらのひとたちと、おにいちゃんだけ、だったんだ」


 フクロウは呟くように言った。


「ぼくのおはなし、きいてくれたの」


「うん、それで?」


「それで、ぼくはあったかくなった。あったかいのがうれしいって、わかった。しらないから、いままでつめたいひとたちといっしょにいたんだ。つめたいひとたちが、あったかいばしょにもどりたいってわからなかったんだ。だから、おにいちゃんといっしょにいたい。おにいちゃんなら、ぼくのしらないあったかいを、いっぱいおしえてくれるとおもうから。……ダメ?」


「神那岐さんが良いというのなら」


 先生は笑った。


「もっとも、使い魔を作り、その肉体を与えたのですから、答えは既に出ていると思いますが」


「嫌だったら連れてきてないよ」


「ほんとう?」


 フクロウは翼を広げた。


「ああ」


「本当だって」


 フクロウは興奮してバサバサと翼をはためかせた。


「ところで、名前は?」


 名前?


「そういや聞いてなかったなー。名前はなんてんだ?」


「ないよ?」


「ない?」


「だって、ぼくがしんだのずっとずっとまえなんだから、それからだれもぼくのことよんでないから、おぼえてない」


 うわ、そう言うこと言われると。


「おにいちゃんがぼくをつかんでるから、おにいちゃんがすきななまえつけてくれるとうれしい」


 うう……参った……。


 ゲームキャラにはキラキラネームつけて戦場無双してはいるけれど、オレは基本的にモフモフが好きで可哀想な話には弱いニートなんだ。フランダースの犬のラスト場面を見て何回でも号泣するタイプなんだ。目の前にいる幼い子供の魂が宿ったフクロウなんてもうオレの弱点ストライクなんだよ。なんだよ名前がないって。今まで名前で呼んでくれる人がいなかったなんて。そんなヤツに名前を付けるなんて、責任重大じゃないか。ゲームキャラと違って、相手は今まで一人きりだった迷子だ。その迷子に名前をつけるって……。


「おにいちゃん、かお、つめたくなってる」


「な、なんでもない、なんでもない、はは……」


「名前つけてあげなさいよ」


 ハルナさんが言った。


「彼なら、貴方がどんな名前を付けても喜んでくれるわ」


「そうだねえ。魔法的には君の使い魔だし、魂は君の許可で宿っている。君が名付け親になってあげればいい」


 おっさんも畳みかけてくる。


「だだだって、そいつの人生一生左右するようなことだぞ、名前って!」


「ぼく、もうしんでる」


「そーいう意味じゃなくって! オレが簡単に名前つけられるなら苦労しないんだっての! あとからこんな名前つけてって恨まれるのも嫌だし、名前のセンスがおかしいって言われるのも嫌だし!」


「……いいよ、なまえ、なくても」


 フクロウは。


 フクロウに表情があれば、必死で笑顔を作ろうとしているんだろう。


「おにいちゃんがいやなら、なまえ、なくてもいいよ。おにいちゃんが、よんでくれるなら、おいとかおまえとかでもわかるし」


「ああああそう言う意味じゃないんだて言うかオレ名付けのセンスないぞそんな名前で一生……って言うか成仏するまで呼ばれるって辛いぞ!」


「おにいちゃんがこまるのが、いちばんさびしいから」


「うー……あー……」


 必死で考えるが。


「オウル……」


 この程度しか思いつかない所にオレのセンスのなさが光る。


「オウル(OWL)って、まんまフクロウじゃない」


「だから言っただろ、オレに名づけのセンスがないって!」


「オウル!」


 フクロウ……オウルは飛び上がった。


「オウル! ぼくのなまえ! ぼくの、ぼくだけのなまえ!」


「いいの? オウルって、こっちの世界でまんまフクロウって意味よ?」


 さすがにハルナさんが念を押してきた。


「でも、おにいちゃんがオウルっていったらぼくのことだよね?」


「……そうね」


「おねえちゃんも、オウルっていったらぼくのことだよね?」


「そう、なるわ……ね」


「だからこれはぼくのなまえ! ぼくだけのなまえ! ぼくのだいじななまえ!」


「センスがない」


 それまで平均点最下位だったオレにあっさり抜かれて最下位に没していた那由多くんがケチをつけてきた。


死霊使役者ネクロマンサーの魂の宿った使い魔に、僕ならもっといい名前を渡せる」


「……例えば?」


常闇エブリラスティング・ダークネス。あるいは死者王ノーライフ・キング。または死眷属デス・キンドレッド


「……なんでそんな物騒な名前ばかり」


「相応しいだろう」


「ぼく、オウルがいい」


 那由多くんの演出過剰な名前を一蹴して、オウルは言った。


「オウル! ぼくはオウル! これからは、オウル!」


 ……よかった、オレよりセンス最悪のヤツがいて。


「くそっ、今度の魔法の時間で、僕に相応しい使い魔を作ってやる……!」


 それって二番煎じって言わないか? と思ったがやめた。那由多くん相手に厄介事を起こすと厄介が倍増すると分かってたからだ。


「はい、ではオウル君。これから職員室で、使い魔のルールを教えます。君は神那岐さんの使い魔で、君がおかしな行動を取れば神那岐さんの責任になりますから、しっかり覚えてください」


「おにいちゃんはこないの?」


「お兄ちゃんは多分今眠くてたまらないと思いますから」


 事実その通り。ゲーム連続完徹なら何度もやったけど、アンデッドに囲まれてその遺言を書きとるのはかなり疲労した。その後に使い魔契約、使い魔にオウルの魂を宿したりなんかして、精神的にぐったり。


「おにいちゃん、どっかいっちゃわない?」


「いきませんよ。安心して下さい」


「行って来いオウル」


 オレはあくびを噛み殺しながら言った。


「オレはオレの部屋で寝てるから。お前ならオレの居場所はどれだけ離れてても分かるだろう?」


「うん」


「そんな心配な顔すんな。安心しろ、その人はいい人だから」


「はい、では皆さん、今日の授業はこれまでです。抜き打ちテスト兼初任務お疲れさまでした。寮に戻って寝てください」


 オウルは安久都先生の肩にとまって、何度も何度も振り返りながら視界から消えていく。


 少し心配ではあったけど博だから大丈夫だろう、と、四人で教室を出て、部屋のベッドにダイブして、そのまま寝てしまった。

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