表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/115

第20話・興味が持てれば勉強だって

 残りの時間で何とか食事を終え、教室に戻ってきた。


 午後からは座学。


 正直、座学には何も期待してない。


 高校の時は教科書で隠してマンガ読んでたし、自習時間は友達と携帯ゲームで通信してたしな。


 自分に直接かかわってこない勉強はスルーすると言うのがオレの信念だ。多分ここでも同じ根性が出るだろうなあ。


 寝ないで済むかどうかの勝負だろうな。


 ……ていうか、そもそも勇者をするにあたって座学が必要なんだっけ。


 配られた時間割を改めて見直す。


 午前中は体力、魔法に二時間使って昼、そして、午後からは。


 『一般教養』『生態学』『世界史』『魔法座学』。


 ……魔法座学以外は、寝ろって言ってるようなもんだな。


 頼む、先生。友達ってことで見逃して……。


 くれないだろうなあ。先生だもんなあ……。


 ホワイトボードの上に掲げられている電波時計が、午後の授業の始まりが近いことを知らせている。


 ハルナさん、まだ来ないなあ。


 昼休み、魔法のことを言った途端ハルナさんはご飯も食べずに先生の所に行ってしまってそれっきり。


 多分、魔法のことについて相談してるんだろう。


 ていうか、ここの先生全員勇者経験者だろ? 素人のオレでも思いつくようなことに思い当らなかったのか?


 ……思いつかないものかもしれないけど。


 まあ、ハルナさんが少しでも元気になったなら、よかった。


 時計の針が動く寸前、ハルナさんが文字通り教室に飛び込んできた。


「うおっ」


 昼に平手打ちを食らったのを忘れていない那由多くんがハルナさんから位置を取る。


「先生は?」


「まだ」


 おもりを背負って走って来たのに、息切らしてないんだからすごいよなあ。


 ハルナさんはそのまま席に座る。


「那由多君、ほら」


 土田のおっさんが那由多くんに声をかける。


「あー、そのー」


 那由多くんは虚空を睨んで、床を睨んで、ハルナさんを睨んでから、言った。


「……ごめん」


 ぼそりと小さく、そう呟いた。


「魔勇者ともあろう者が、心無いことを言った」


「……構わない」


 また無表情になって、ハルナさんは言った。


「解決策はあるようだし」


「え」


「何那由多くん、今の「え」は」


「何でもない……」


「もしかして」


 またもやピーンと来てしまいましたよ。


「ハルナさんに勝てるの魔法くらいなのに、制御できるようになられたら勝ち目がない、と思っているとか……?」


「何でもないから黙ってろ!」


 またまたビンゴ。


「やっだー、心せまーい。クラスメイトの成長を喜んであげられないなんてー」


「ネカマか貴様は!」


「ね、かま?」


「ネット上で女性を演じる男のことをネカマね。ネットのオカマ」


 おっさんに教えて那由多くんの方を向く。


「オンラインで女性キャラ使ってるけど、別に女性を演じちゃいないよ。ただねーえ、魔勇者ともあろうお方がーあ、クラスメイトのーお、成長を喜んであげられないなんてーえ、ちょーっと心狭いんじゃないかなーあ?」


「……う……」


 と言ったっきり、那由多くんは黙り込んでしまう。


 そのジャストタイミングで、先生は入ってきた。


「全員揃ってますね。風岡さんも間に合ったようでよかったです」


 ハルナさんは無言で頷く。


「では、午後最初の授業は、一般教養から始めます」


 これは、絶対寝ちまうな、オレ。


「では、最初に聞きます。勇者が魔王を倒すというゲームをプレイした人は何人いますか?」


 オレと那由多くんが手を挙げた。


「じゃあまず、覚えなければならないことは、異世界に勇者派遣になった時、勝手に人の家に入り込んでタンスを開けたりツボを割ったりしないことです」


 土田のおっさんはきょとんとしていたが、オレには分かった。


 アイテムを集めるのに、タンスを開けたりツボを割ったりするのが常識だけど、家の人からすればたまったもんじゃないよな。大事に取ってある宝物かも知れないんだし。オレだっていきなり人の部屋入り込んできてお宝持ってかれたらキレる。


「勇者が白昼堂々泥棒をすると、勇者としての評判が落ち、他の勇者にも迷惑が掛かります。一般常識として、それは覚えておいてください。だったら夜だったらいいのかと言われても、当然ながら泥棒は犯罪ですので、捕まって刑罰を受けることになったとしても他の勇者も日本国も助けません。自業自得、その世界の法律で首をはねられることになっても文句は言えませんので」


「ふ……魔勇者はそのような真似はせん」


「する人がいたから説明してるんです」


 いたのかよ、泥棒勇者。


「一人は謝り倒して、本来の任務であった国を襲うドラゴン退治に派遣されました。もう一人は勇者を名乗る不届き者として処刑されました」


 処刑。


 一人、泥棒で死んだ勇者が確実に居るんだ。


「ちなみに、ドラゴン退治に派遣された勇者も、持ってきた武具は取り上げられ、与えられたのは銅の剣と革の鎧、逃げようにも見張られて、ドラゴンが出て来た時点で見張りは逃げて、その勇者は結局ほとんど何も出来ずドラゴンに食われたそうです」


 二人いたんだ。


「その後、改めてドラゴン退治を依頼されましたが依頼料をひどく値切られて、結構な赤字が出たそうです。皆さんも勇者であり特別国家公務員であるからには、国や国民の名誉を守るため、勇者に相応しい言動をお願いします」


 ……だよなあ。勇者ってのは日本を代表して送られてるんだから、それがまずい行動したら日本って国の名誉を落とすことになるんだろうなあ……。


 こんな調子で始まった一般教養は。


 今自分たちがなろうとしている勇者は、いわゆるRPGや小説や漫画、アニメで出てきた勇者ではなく、現実に日本から依頼を受けて派遣された、世界を守る切り札である。世界が勇者にかける期待はあまりにも大きい。それを裏切らないように言動に気をつけろ、ということを、過去例を挙げて学んでいった。


 ……これが結構面白かった。


 生態学は、異世界のモンスターなどの典型的な倒し方などだったし、世界史はとある世界において勇者が果たした功績を。魔法座学は今まで魔法を使える人たちが編み出してきた魔法を系統だてて教えてくれた。


 ……ヤベ、マジ面白い。


 この勉強嫌いのオレが一度も眠気を感じなかったほどに、面白かったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ