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第114話・お休み

 戦輪チャクラムが当たる度に、博の肉体が吹っ飛ぶ。


 肉体的に強い不死王ノーライフキングの、肉体を封じようとすれば、その肉体を封じるだけの強い封印でなければならない。


 だから、今のオレの力で封じるには、まず肉体を潰さなきゃならない。


 あいつの肉体を殺すのはオレだ。あいつの精神を封じるのもオレだ。


 それが、あいつを倒す勇者として選ばれたオレの選択。


 ハザマ神社の神鷹が尋ねた、オレの責任の取り方。


「お前が……俺を封じて」


 博はほとんど肉体を失いながらも、オレを見て笑う。


「俺と一緒に居続けられるのか?」


「いてやるよ、お前が満足するまで」


 最後の一投を投じる。


 ぼしゅ! と音を立てて博の姿が消えた。


 だけど、恐ろしいまでの執着と憎悪は、オレの内にある。


「スサナ先生……」


 オレはスサナ先生に声をかける。


「先生、頼む」


「……後悔する、と言っても無理よね」


「覚悟は決めた」


「……分かったわ」


 スサナ先生はゆっくりと歩いてきて、光る小さな石を手渡した。


「これは」


「持って行って」


 スサナ先生の目は赤く潤んでいた。


「浄化の石……光の力を込めた石……貴方の内の死霊を浄化する力があるわ……。少しずつ、ゆっくり、ゆっくりと」


 そして、スサナ先生は背を向ける。


(いいじゃないか、逃げろよ)


 心の内で博が笑っている。


(俺と一緒にいると、近々にお前がおかしくなるぜ?)


(覚悟の上さ)


 オレは首を竦めた。


 歩いていく先に、魔法の塔がある。


 博の派遣したゴーレムたちは倒され、先生たちがあちこちで肩で息をしている。


「神那岐」


 篠原先生が走ってきた。


「安久都は」


「ここに」


 オレは親指で俺の心臓の辺りを指した。


「!」


 歴戦の勇者である篠原先生には、それだけで通じたらしい。


「……何週間、何か月間、何年……何十年かかるか分からんぞ」


「覚悟してる」


「持ってけ」


 篠原先生はオレに向けて小さな何かを放った。


 空中でキャッチする。


 ミスリル……? 蹄鉄?


「昔から、魔除けとして使われているものをミスリルで造ったんだ。俺のオヤジが」


「篠原先生」


「使え。多少なりとも時間は短縮されるだろう」


「……いいんすか」


「構わん。その代わり、何十年かかってもいいから、必ず返しに来い」


「オウル君は助かったわ」


「本当ですか」


 スサナ先生はこくりと頷いた。


「貴方を封じることによって、どんな影響が出るかは分からないけれども」


「いいんです。……よかった、まだオレの欠片が残るんだ」


「では……異世界に封じます」


 スサナ先生が水晶球を手に、オレの前に来た。


「ありがとう、先生」


 水晶球を手に精神を集中するスサナ先生。


 最後に会いたかったな。


 もう会えない可能性があるなら、最後に一目、会いたかった。


「雄斗!」


 叫び声、呼び声、三人の。


「待て、雄斗君!」


「何をする気なんだ!」


「早まらないで、お願い!」


 向こうから走ってくる三人。


 この学校の入試の時から、四人でパーティー組んでたのな。


 おっさん。那由多くん。ハルナさん。


 多分、博の他で友達って言えば、あんたらしか思い浮かばない。


 ほんの半年ほどの付き合い。だけど、命賭けての友情だった。


 だから、オレは。


 笑って、手を振った。


「じゃあな」


 スサナ先生の水晶球が光を放つ。


 オレは突き飛ばされたような感覚を受けながら、暗闇の中へと吸い込まれていった。



「スサナ先生……」


 辺りを見回すけど、雄斗の姿は見えない。


 三人はスサナを取り囲んだ。


「雄斗は……!」


 スサナと篠原は顔を見合わせて、自分の知る限りの情報を教えた。


 雄斗と博は古い知人で、かつて雄斗が博を深く深く傷つけたこと。


 その報復のために博が雄斗をこの学校に導き、殺そうとしていたこと。


 その憎悪と執心を世界から断ち切るために、雄斗が自分の肉体を封印の場として使い、更に自分の肉体を封印させたこと……。


「そんなこと、あんたらは了解したのか!」


 那由多が声を張り上げた。


 スサナも篠原も沈鬱に顔を俯かせるのみ。


「相談してほしかったねえ……」


 土田はそっと雄斗の槍を拾い上げた。


「四人で考えれば、何か別の手段があったのかもしれないのに」


「薄情だわ」


 ハルナも肩を落とす。


「仲間を信用してほしかった。……止められるって分かってても、相談してほしかった」


 そこへ、ぱさぱさと力ない羽音が聞こえてきた。


 ハルナが真っ先に見上げて、声を上げる。


「オウル君!」


 ぱさぱさぱさ、と降りてくるフクロウ。


「おねえちゃん! おにいちゃん! おじさん!」


 ハルナが差し上げた手の中に降りてきたオウルは未だ本調子ではなさそうだったが、それでもちゃんと飛んで、掌に着地した。


「大丈夫、オウル君?!」


「うん、ぼくは」


 でも、と続きそうな声に、ハルナは首を振る。


「神那岐君の繋がりはあるの?」


「……すごく、薄い」


 オウルは困ったような声を上げた。


「せかいとせかいのはざまにいるから、ますたーがなにをかんがえてるのかぜんぜんつたわらない。だけど、いきてるのはつたわる」


「生きては、いるのか」


「ぼくはつかいまだから、ますたーがいきてるあいだはいきてる。だから、ぼくがただのふくろうにもどったら、それがますたーのにくたいがしんだとき」


「…………」


「バカヤロ……」


「雄斗君……」


 オウルを中心に、三人は泣いていた。

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