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第107話・鷹の導く先

 巨大な対の鷹は、翼を広げて降りてきた。


 オレの目の前、翼を広げればオレよりデカい鷹は、地面に降り立つとこちらをじっと見る。


「多分、我々を……と言うか、雄斗君を待っていたんだろうね」


 おっさんは小さく呟いた。


 巨大な鷹は存在自体が神々しい。おっさんは神の使いと言っていたけど神そのものだと言われても信じてしまいそうな生き物。いや、普通に生きている生き物じゃないな。神鷹っておっさんも言ってたし。


「……オレを、待っていたのか」


 阿の鷹が高く鳴き、吽の鷹が身を伏せる。


「待っていたようね」


 ハルナさんも小声で言う。


「雄斗、行って来い」


 那由多くんがオレの背を押した。


「え、でも」


「多分、この神鷹は雄斗を待ってたんだ」


「どうすれば」


「ついて行け」


 那由多くんはピッと神鷹を指した。


「鳥は昔から行先案内人の役を担うんだ、多分この二羽も雄斗をどこかに案内するために来たんだ」


「……分かった」


 正直、対の鷹が何をしたいのか全くわからない。


 ハザマ神社に行け、と言われて来たものの、何が起きるかも分からない。


 ただ、博を何とかするにはハザマ神社に行くしかない、と言う篠原先生の言葉を信じただけで。


 だったら……。


「案内してくれ」


 オレは一歩前に出て、そう言った。


 次の瞬間、阿の鷹が高らかに鳴き、飛びあがり。


 吽の虎が翼をはためかせると宙に浮いて、オレの両肩を脚で掴んだ。


「うわぁっ?!」


 思わず悲鳴を上げてしまう。


 鷹は軽々とオレを抱え上げると、神社の上空へと昇り出した。


 多分、こいつらは、案内するつもりなのだ。オレを。


 何処へ?


 多分、博を倒す何かが分かる所へ。


 博を倒す……それは考えられない。十年間連絡も取ってなかったけど、それでも友達なんだ。


 スサナ先生の予言を思い出す。


『あなたのまみえる敵もまた、あなたを憎み、恨んでる。それに気付いたその時に、あなたは一体どうするのかしら。この先はわたしにも何も見えはしない。あなたの判断、それこそが、あなたの未来を変えていく』


 オレは一体どうするんだろう。スサナ先生の予言ですら分からない未来。少しでもマシな方に行くのに、多分この神鷹たちは手をかしてくれるんだろう。


 だけど……どうしてオレを憎み、恨んでるんだ?


 鋭い声が聞こえ、俺は我に返った。


 神社の上空。


 そこに、()()があった。


 邪悪な歪みじゃない。何か、ねじれているのは、空間。でも、キールのような邪悪が封印されているわけではない。少なくとも神鷹の案内する先で邪悪はないだろう。


 神鷹はオレを抱えたまま、歪みに突っ込んで行った。



 薄暗がり。


 肩を掴んでいた神鷹の爪の感覚もない。


 雲の中を進むかのような浮遊感。


 その時、光が差して、さあっと薄暗がりが晴れた。


 目の前に広がったのは、スカイブルー。


 鮮やかな青色が、オレの目を焼く。


 眩しくて目を細めようとして……自分に肉体がないのに気付いた。


 なんで?


 意識だけの存在になっている……のか? 死霊状態になっているのか?


 一面スカイブルーのまま、空気が流れるような感覚だけがある。


 ざあっと音のような振動のような感覚がして、すぅ、と落ちる。


 眼下……オレがそう思っている方向に、別の青が見えた。


 マリンブルー。


 ……海?


 空の下の海……二つの青に包まれて進む。ゆっくりと海の青の方に移動していく。


 青以外の色を視界にとらえた。


 緑。


 大地?


 青い空の下、青い海の中に浮かぶ島。


 ここはなんだ?


 ゆっくりと、緑色が広がってきた。


 そこにあるのは、茨で固く硬く守られた島。


 オレの意識が近付いていくと、茨の棘がこちらに向けられた。


 明らかに俺を警戒している。


 この茨に守られているのは一体なんだ?


 ふっと、浮遊感が消えた。


 重力に引き寄せられ、海の青、茨の島に真っ逆さまに落ちていく。


 悲鳴を上げる口もない。ただ落下感だけがある。


 茨の島が目の前まで迫る。


 地面に叩きつけられるような感覚。


 痛みはないけど、衝撃はあって。


 一瞬途切れかけた意識はすぐに戻って、オレは茨の島に上陸していた。


 島と海の僅かな境目、辛うじてオレ一人がいられるくらいのスペース。


 そこ以外は、茨同士が硬く絡み合って、誰も寄せ付けまいとしている。


 そして、オレのいる傍の茨は、全て棘をオレに向けていた。


 やっぱり、オレを警戒してる。


 そして、神鷹がこれをここに運んできたということは、この茨の中に今回の事件に関する何かがあるってことだ。


 今のオレには手足の感覚や喋る口はない。肉体がないって言うのはこういうことなんだろう。ただ、動こうと思えばその意思に合わせて視野は移動する。


 肉体がないってことは棘に刺さらないってことか?


 意識を進めて、棘のすぐ傍まで行く。


 棘がざわざわと蠢く。明らかにオレの存在を認識している。あとは棘が効くかどうかなんだけど……。


 意識を更に進めて、奥に入り込もうとすると。


 ずくり、と激痛。


 オレの意識に、棘が刺さっている。


 意識に棘が刺さるなんて初めてだけど……地味に痛ぇ……。


 意識を引っ込めると、棘も引っ込んだ。


 こんな所にオレ一人残してどうすんだよ……。


 その時。


「ひーろーしー。あーそーぼー!」


 聞き覚えのある声。


 意識をそちらに移して、オレは心臓が止まるかと思った。


 ……オレだ。


 鏡やアルバムとかでしか見たことがないけど、間違いなく子供の頃のオレだ。


 ざわざわざわと茨が道を開ける。子供……つまりオレ一人分入れる道を。


 子供のオレは何のためらいもなく入っていく。


 オレも即座に意識を移し、子供のオレの肩の辺りに宿って茨の中に突撃した。


 何層もの茨の壁にぱっくりと口を開けた道があって、子供のオレは真っ直ぐに駆けていく。


 この先に、()()がある。


 神鷹が見せたいもの、恐らくは博に何か関りがあるものが。


 オレはオレの肩に乗ったまま、茨の道を進んで行った。

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