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第105話・開き直った相手は怖い

 相変わらず博は何を考えているか分からない。余裕の笑みを浮かべてこっちを見ている。


「よかったな、雄斗」


 喉の奥で引っかかったような笑い声。


「この学校の授業中に亡くなった場合は、国家公務員の労災扱いになる。お前の母親も厄介な息子が死んで金が受け取れるんだからありがたいだろう」


「くっそ……博……」


 あの夢でオウルが言っていたのはこういうことか。


 博こそが()()()なのだから、オレが悩み苦しむのは当然。悩み苦しむのを避けたいからこそ、オウルもおっさんも()()()の正体を言わなかったのだ。


 そして、博の狙い通り、オレは今、悩んでいる。


 オレは知らない間に博に殺される程憎まれたことがあるのか。それは小学校の時か、それともその後か。


 思い出そうとしても、博との思い出はゲームと少しヤバい遊びをしていたことばかり。子供の悪戯、やっていたのは楽しい悪さ。


 なんで……なんで。


「だからっ」


 急に大声を上げられてオレは我に返る。


「油断しないでっ!」


 今度は針のようなものが飛んできたのに気付いて、オレは咄嗟に逃げた。


「不思議だろう? 悩んでいるだろう?」


 博の声は邪悪な喜びに満ちていた。


「友達と勝手に思っていた相手が、突然ラスボスとして現れる。ククッ……そうだ、そう言う顔が見たかった。悩み苦しみ、戦闘に集中できないほどにもがくお前の顔が……」


 ニヤニヤと笑う博は、しかしやっぱりオレの幼馴染で担任で何度も相談に乗ってもらった顔をしていて。


「そう、悩み、苦しんで、死ね。死んだあと、お前の死体にその恨みを込めて隷死スレイブ・デッドとしてやろう……」


 隷死スレイブ・デッド


 おかしい。


 隷死スレイブ・デッド不死王ノーライフキングが魔力を吸われて成り下がる存在。強靱にして不滅の肉体を持つ、魔力を吸った不死王ノーライフキングに絶対服従の死霊。


 つまり、オレを隷死スレイブ・デッドにしたいなら、まず不死王ノーライフキングにしなけりゃいけないはず。人間からいきなり隷死スレイブ・デッドってのは不可能なはずだけど……。


 いや、できないこともないのか? 博は不死王ノーライフキングから魔王になったキールを倒した。本によれば、不死王ノーライフキングは人間に倒された場合でも核ともいえる魔力を倒した人間に奪われてその言うことに逆らえないようになるという。キールの魔力を持っているはずの博なら……?


「一つ聞きたい……」


 オレの声は予測以上に震えた声だった。


「俺がお前を襲う理由なら教えないね。死ぬ寸前まで何故殺されるのか分からないまま……それが一番お前に相応しい」


「違う……」


 オレはよろめく足で立ち上がって、博を見た。


「お前は……キールの魔力を……手に入れたんだな」


「本を調べていれば当然そのことは分かるだろう?」


「その魔力で……オレを隷死スレイブ・デッドにして……何が楽しいんだ?」


「お前がもだえ苦しむ姿が見たい……それだけだ」


 金色の目は、ラウントピアで出会った不死王ノーライフキングアドニス以上にイカれていた。アドニスも、()()()……博が自分より強いと断言していたから、そんな風に見えても仕方がない。


「それも、俺の気が済むまでな」


 隷死スレイブ・デッドの運命はよく分かってる。オレが封じてアドニスから解放した隷死スレイブ・デッドたちは、自分の意志など無視して駒として操られ、望まぬ命令に従わされる。肉体は強健だけど、傷付けられたりすれば痛みを感じる。不死王ノーライフキングは自分に逆らった末に自分の命令以外のことができなくなった隷死スレイブ・デッドの苦しみや痛み、悲しみ、憎悪を終わりなき命の楽しみとして感じるのだ。


 博はオレをそうしたいという。


 永遠に等しい命で、いつか不死王ノーライフキングが自分の苦しみに飽きるまで駒兼玩具として使役されるのが隷死スレイブ・デッドなのだ。


 だから、まだ五感がアドニスと同化しているとはいえ自分の魂を地上に刻みとめる闇の力を浄化できるようにしたオレに、隷死スレイブ・デッドたちは自由意志で従ってくれるのだ。いつか天に昇れるその日が来るまで。


 いや……と、すれば……。


 オレは黒水晶モリオンの腕輪を握りしめた。


 この中の隷死スレイブ・デッドたちに魔力は残っているのか……? ライオンアリを実体化させるだけの魔力がオレに残っているのか……?


「う……」


 くらりと立ち眩みがする。やっぱり魔力はほとんど残っていない。


「ふん」


 唐突に博は鼻を鳴らした。


「面白くない」


 オレがおっさんの肩にすがって何とか意識を保っているのに気付いたのか、博は唐突に言い出した。


「無駄な抵抗をして、あがいてあがいて、その末に殺すのが夢だったのに。ろくに意識も保てない状況で殺しても、隷死スレイブ・デッドにしても面白くない」


「ひろ……」


「シッ」


 おっさんが片手をオレの前に出す。


「時間をやるか」


 さっき、時間をやらないと言ったのに、いきなり矛盾したことを博は言い出した。


「微かな希望にすがって戦い、その結果敗北した魂こそが隷死スレイブ・デッドに相応しい。今のお前にそれはできそうにないから、少し外の連中の魔力を奪ってくるとするか。余計な勇者たちが来ても俺の目的を果たせるように」


 ふっと、博の姿が消えた。


「どう……し」


「恐らくは」


 おっさんは震える声で言う。


「教室の外……一科や二科、職員室や工房を狙っているんだろう。あるいは、魔法の塔も」


 オレは真っ青になってしまった。


 オレは……一体何をしたんだ? 友達だった博にそこまで恨まれる程のことをしたのか?


「……時間稼ぎに乗ろう」


 那由多くんが言った。


 キールを遥かに超える強さの博を前に、何も出来なかった那由多くんが。


「最も勇者に力を与える場所に行こう」


「そこって……」


「そう」


 那由多くんは頷いた。


「本当は一人で行かなきゃいけないだろうけど、この緊急事態には最早神仏にすがるしかない。ましてやこの山一のパワースポットなら、何か力を与えてくれる可能性もある」


「それは?」


「ハザマ神社」

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