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第104話・最強の敵

「馬鹿……な」


 その篠原先生の呟きは、オレたちの呟きでもあった。


 篠原先生はこの地球の人間と、アスタラベク鉱山のドワーフとの間に生まれたワールドハーフ。ハルナさんはまだ未熟だけど、スサナ先生は予言者として名高く、篠原先生も超一線級の勇者だ。


 その攻撃を、片手で止めた?


「ふふ……甘く見ないでくださいよ、篠原先生」


 金色の目をした博は、斧の刃を片手で止めながら笑う。


「ワールドハーフだけが勇者の条件じゃあない。俺だって色々な世界を救ってきたんだ。簡単に倒せるだなんて思わないでくださいよ……」


「なんだ……なんだこの力!」


 博は笑って、斧を掴んだ手を軽く挙げた。


「な?!」


 斧は篠原先生事持ち上げられる。足が宙に浮いた篠原先生を、博は斧ごと振り払った。


「ぐあっ」


 篠原先生は何とか空中で受け身を取ろうとしたが、それもかなわず壁に叩きつけられる。


「篠原なら俺を止められると思って、追加の監督に選んだんだろう、土田さん?」


 ニヤリと笑って博はおっさんを見る。


「残念だったな」


「博!」


 俺は思わず叫んでいた。


「何で……なんでお前が!」


「分からないか? ああ分からないだろうな。お前は昔からちょうどいい具合に物分かりの悪いヤツだからな」


「雄斗君さがって」


 おっさんが魔力を使い果たしたオレの前に出て、弩を構える。那由多くんとハルナさんも、驚愕から

解き放たれなくてもオレを庇おうと前に出る。


「無理ですよ」


 博は一瞬教師の顔に戻っていった。


「篠原さえ敵にならない俺に、君たちが何人がかりでも敵わない」


 分かったら、と再び狂気の笑みを浮かべる。


「そこをどきなさい。また君たちは死にたくないでしょう?」


「あいにくですけど」


 予想だにしなかった敵の正体に、かすかにハルナさんの声は震えていた。


 だけど、ここをどかないという固い決心が宿っていた。


「私たちは仲間を見捨てません」


「そう言うことだよ、雄斗とオウルには結構助けられてるんだから、先生が相手でも逃げるわけにはいかない」


「ですが、理由はお聞きしたいところですね」


 おっさんは警戒しながらも、まだ口を閉じない。


「貴方と雄斗君が幼なじみと言うのは分かった。ですが、何故そこまで……殺そうとするまで雄斗君を憎むようになったのか」


「ククッ……」


 金色の目をした博は分かる。


「相変わらず大した交渉術だ。しかし俺は分かっている。土田さんがそいつの魔力を回復するために時間稼ぎをしようとしていることを」


 オレに背を向けているおっさんの顔色は分からなかったが、一瞬震えたのを見ると、どうやら博の発言は当たりだったらしい。


 オレはそっと腰の無限ポーチから魔力ポーションを取り出そうとして……。


  ずくんっ。


 右手に強烈な痛みが走った。


「ぅあっ」


 右手を見下ろすと手の甲から掌に向けて、何かが突き抜けている。


 ぎっと歯を食いしばって悲鳴を堪えながら、オレは右手を串刺しにしたものの先を見た。


 爪の先程の幅の、白っぽい何か。長いものが、おっさんを迂回し、突き抜けて……。


 まさか?


 その先端にあったのは。


 爪の先程の幅なんて当たり前だ。


 それを貫いた先にあるのは、博の指先。


 爪が伸びて、オレの右手を貫いたんだ。


「雄斗君っ?!」


「だい、じょぶ……」


 歯を食いしばって、何とか返答する。


「言わなかったのですが」


 博は口を不気味に歪めながら続ける。


「回復魔法の使い手は二人以上いた方がいい。回復役が一人しかいなくて、その一人がやられてしまえばもうパーティーは全滅したのと同じだから」


 確かに。


 このパーティーではオレが回復専門だった。そのオレは今、魔力を使い果たしている。このケガを治すだけの力は出せない。


「神那岐くんっ」


 ハルナさんがミスリルのダガーを抜いた。


「ちょっと我慢して!」


「あ……う」


 ハルナさんはオレの右手を貫く爪をギッチリと握りしめると、博の近い方の爪を、ダガーで叩き斬った。


「ぐっ」


「もう少し!」


 ハルナさは叫んで爪を強引に引き抜いた。


「あああっ!」


 思わずオレは悲鳴を上げた。それ程の激痛だったのだ。


 ハルナさんはすかさず腰の無限ポーチから素早く回復ポーションと魔力ポーションを引き抜いて栓を抜き、オレの口に突っ込んだ。


 オレはそれを一気に飲み干す。


 少しばかり魔力を回復できたので、右手のケガを治癒キュアー・ウーンズで治した。


「ありがと……ハルナさ……」


「どう致しまして、戦闘準備」


 オレは何とか立ちあがり、頷いて槍を構える。


「理由を聞きたければ倒して聞け、そう言うことですか」


「そう言うことだ」


 おっさんの言葉にあっさりと博は返して、ゆらりと身構えた。


 金色の目で、髪の毛も逆立って、人間には見えない威圧感。


 何があってこうなったのかさっぱり分からない。博は言う気は一切ないという。


 倒す、しかない。


 だけど、何でだ?


 勇者だった博が、どうしてオレをそこまで恨んで……。


 子供の時、オレ、お前になんかした? いつから、オレを殺そうと狙っていた? もしかして求職活動中に出会ったのは偶然じゃなくて、いつ誰が死んでもおかしくないこの学校に誘き寄せるため?


 聞きたいことは盛りだくさん。だけど、その時間稼ぎはさせないと博は言っていた。


 倒す……しかないのか?


 幼馴染を……オレの相談に何度も乗ってくれた先生を……?


 考え、ぼんやりしていたんだろう。


 突然右側に身体が引きずられたのに驚いてそちらを見ると、ハルナさんが俺の右手を引いていた。


 そして、左には。


 小さな刃らしきものが、さっきまでオレの頭のあった部分を行き過ぎていた。


「油断しないでって!」


「あ、ああ」


 ハルナさんに叱られて、オレはやっと博を見る。


 人間の姿、人間の形をしているのに人外に見える幼なじみを。


 何度もオレの命を狙い、オウルを痛めつけた敵。


 だけど……。


 どうしてだ?

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