第100話・決定
オレは、魔法の塔の入り口で三人にスマホをかけて集合をかけた。
魔法の塔、と言うことで重要事項と考えた三人は、すぐに駆けつけてくれた。
そんなみんなに、オレはスサナ先生から聞いたオウルの容体を言った。
オレが闇の力をこれいじょう伸ばすとオウルに悪影響が出ること、オウルにこれ以上負担をかけずに事態を解決するには、オレが光の力を伸ばす、あるいは今の力でキールを倒すほかないと言うこと。
「え?」
「マジか」
「そんな」
オレの話を聞いた三人は、顔色を変えた。
「……だけど、光の力を伸ばすには、オレの魔力キャパが足りないかもって」
「じゃあ、選択肢は一つじゃないか」
「ああ」
オレは頷いた。
「今すぐに、キールを倒すしかない」
「確かに、それは一つの手かも知れない」
おっさんが腕を組む。
「復讐者の裏をかくことになるかもしれない」
「裏?」
「今、復讐者は動けない状態だ」
「何で」
「学校中に教師の目がある今、教師全員が復讐者かその協力者でない限り、動けない」
おっさんは腕を組んで続ける。
「そして、キールと戦うには教師の監督が必要、だったから、二人以上の教師に監督を頼み、魔力の流れに敏感な教師に監視を頼めば、復讐者も動けない。今倒すのが一番かな……」
「ただ」
オレは付け加えた。
「復讐者が後先考えなくなるってこともある」
「……ああ」
「オレは自分で言うのもなんだけど、結構強くなったと思う。スサナ先生も、厳しい戦いになるとは言っていたけど無理だとは言わなかった。そしてこれ以上魔力を上げれば、オウルの魂が肉体から引きはがされるという。なら、オレはこれ以上オウルを苦しめたくはない」
オレはゆっくりと言った。
「キールを、今、すぐ、倒す」
そして、恐る恐る切り出した。
「……付き合って、くれるか?」
「当たり前じゃないの」
即答したのはハルナさんだった。
「わたしたちもオウルくんが好きなのよ。その危機なんだから、何でもやるに決まっているでしょう。わたしたちも、あなたが魔力を高めている間に訓練しているのよ」
「そうだ。僕だってただ雄斗に魔力を流していただけじゃない。色々な魔法も使えるようになった」
「そうだとも。私も復讐者を当たっている。正体を知らないで襲撃されることを防ぐために」
「やっぱりまだオレたちには言えないのかおっさん?」
「ああ。私一人の頭に収めておいた方が今はいいと思う」
「つまり、おっさんが警戒してくれるってことだな?」
「ああ。戦闘であまり役に立たない分、そう言うことは任せておいてくれ。復讐者が倒しやすくなるかは微妙な所だが、それでもキールを倒した直後に奇襲を受けるよりはマシだろう」
「……ありがとう」
「言っただろ、オウルの為だって」
「そうよ、オウルくんを助けたいだけなんだから、あなたが色々悩む必要はないわ」
「……ありがとう」
オレには、感謝の言葉しかなかった。
オレたちはそのまま職員室に行った。
相変わらず広い職員室に行って、博の席に行く。
「安久都先生」
「はい」
パソコンをいじっていた博は、先生の顔で見上げてきた。
「魔王キールとの戦闘許可を下さい」
博は一瞬目を点にして、それから目を丸くした。
「魔王キールと本気で戦うつもりですか」
「はい」
「今、別の相手から狙われているのは承知の上ですか」
「承知の上です」
「入学後半年で倒せる相手ではないということも承知の上ですか」
「承知の上です」
「封印された不死王の実力から、まだまだ敵わないと自覚していると思っていましたが」
「先生」
おっさんが割って入ってきた。
「今、キールを倒さなければ、オウル君が危ないんです。神那岐君も、私達も、オウル君を助ける為なら命を懸ける覚悟はあります」
博はオレたち全員の目を見て、頷いた。
「分かりました。戦闘監督をします。で、何時」
「明日にでも」
そしておっさんは付け加えた。
「ただ、神那岐君が狙われているのを考慮して、監督をもう一人増やしてほしいのですが」
「戦闘監督を、ですか。……確かに戦闘中に別の敵に狙われては危険ですからね。いいでしょう。どの先生がいいですか?」
「篠原先生を」
なるほど。
おっさんの判断は、多分正しい。
ワールドハーフでドワーフの血を引く篠原先生なら、復讐者にも対抗できる。
博も幾つもの世界を救ってきた勇者だ。
この二人がいれば、復讐者もそう簡単に奇襲はできないだろう。
「では、校長の許可は私から得ておきます。明朝十時、キールの封印を解きましょう。ただ……死ぬ可能性もあると言うことは、視野に入れておいてください」
「分かりました」
だけど、死にはしない。
オレが死んだら、オウルも死ぬから。
だから、絶対に生きて帰る。
オレと一緒に来れて嬉しいと言ってくれたあの死霊を助ける為なら、オレは何でもできる。
そして、そのオウルを苦しめる復讐者を倒す覚悟もある。
だから。
「明日はよろしくお願いします」
「分かりました」
「戦闘準備をしておいてください」
博はそれだけ言うと、校長への申請書を書いて校長室に行った。
「篠原先生の許可が得られてよかったよ」
おっさんは寮への帰り道、ほっとしたように言った。
「篠原先生は信用してるのか? ……ていうか、篠原先生は復讐者じゃないのか?」
「その可能性は低いと思ったから、篠原先生に頼んだんだよ」
「そうなんだ」
ハルナさんだけでなく、ワールドハーフは強力だ。篠原先生は伝説級の力を誇っていて、転移門の守護も任せられている。あの先生と博の監視があれば、オレたちを完璧にガードしてくれる。
「それより、雄斗君のライオンアリ召喚は大丈夫かい?」
「魔力は高まったと思う。あと、スサナ先生が、隷死が使えると言っていた」
「隷死」
おっさんは感心したように頷いた。
「元・不死王の死霊を使えれば、魔王と呼ばれる力の持ち主もなんとか行けるだろう。キールは一人で倒すくらいの覚悟を持ってもらうよ」
「分かってる。オレの魔力で隷死とライオンアリを実体化し、キールの肉体から魂を引きはがして浄化する」
「私たちは君のガードをする。復讐者が現れた時に対応できるように。いいかい、君が一人で魔王を倒すのが、復讐者を倒す一手なんだ」