ブラナ#3
「さあ行きましょう、ノワルさんヴィオさん」
「うんわかった」
「…………」コクッ
朝ごはんのあと片づけをして家をスクロールに戻して再び森の中へと出発する
「さて次の魔力だまりはどっちの方向かしら」
カバンから取り出した水晶の靄を見る
「ふむこちらの方向ですわね」
「ねぇブラナそれちょっと見せてもらっていい?」
ノワルさんが私の水晶を指さして訪ねてくる
「別にいいですわよ」
「あっ、ありがと」
すっと手渡すとまるで万華鏡をのぞき込むかのようにノワルさんは顔を近づけていた、そんなに珍しいものなのかしら?
「行く方向はわかりましたし行きましょうか」
「んー…」
「…………」コクッ
ノワルさんは水晶に夢中ですし、ヴィオさんは戦えませんし私がしっかりいたしませんと
「…待って」
歩き始めてから数分後、急にノワルさんが呼び止めてくる
「どうかしました?」
「あそこの木、赤い木の実が生っているヤツ多分魔物のトレント」
指の先を見ると確かに美味しそうな瑞々しい果物をつけた木が生えていた
「本当ですの?」
「…………」オロオロ
「うん、魔力が見えたし何より悪意を感じる」
魔女であるノワルさんのことだから本当にそうなのかもしれない、それに嘘をついているようには見えませんね
「なら先手必勝ですわね」
カバンから戦棍を取り出す、シンプルに硬く重く作られた私の武器だ、そして全身に特に脚へと魔力を巡らせる
「行きます!」
「ちょっ…待っ」
地面を蹴ってトレントまで跳び、その勢いのまま腰をひねり幹へとフルスイングする
その一撃は幹を割り、叫び声を上げながら木が倒れる
「グギャアアァァ」
「よっしゃあ!」
確実な手ごたえを感じつい気持ちよく声が出てしまった、昔のような言葉遣いで少し恥ずかしいですわね
「馬鹿!トレントは根っこが本体!油断すんな!」
「えっ」
ノワルさんがこちらに走りながら忠告してきたがそれに気が付いた時には地面からトレントの根っこが伸びてきていた
「きゃあぁぁ」
片足に絡まれ宙づりにされその際に戦棍を落としてしまった、殴ろうにも私の手が届かないように持たれていてすぐに振りほどけなかった
「ああもうしかたないなぁ!」
ノワルさんが私を吊り上げている根っこを掴むが背後からもう一本の根っこが鞭のように振り下ろされようとしていた
「危ないですわ!」
「はああっ!…ッ痛アッッ!!」
ノワルさんの掌とトレントの間から炎が噴き出し根っこが燃え始めるがノワルさんは背中を根っこで打ち付けられてしまうが、私を締めていた足の拘束が緩む
「感謝します!」
空中に放り出されるが体を丸めて前に一回転し、残っていたトレントの株に怒りを込めてかかと落としする
「死になさい!」
轟音と共にトレントは地面ごと粉砕され、うごめいていた根っこが動きを止める
「…やりましたわね」
「おー…やったー」パチパチ
根っこに吹き飛ばされたノワルさんが倒れながらこちらを賞賛してくださる
「ああっすいませんノワルさん!今、治療しますね」
「お願い…」
ノワルさんの背中に手を当ててにヒールを施す
「…大丈夫ですか?痛みは引きましたか?」
「うん、ありがと」
「…………!」ダダッ…ガシッ
ヴィオさんが走ってきて私たちを抱きしめる
「あれ?心配だったの?」
「心配させてしまったみたいですわね」
「…………」
顔をうずめているヴィオさんの頭をなでる
「大丈夫ですわ怪我は治りましたし魔物も倒しました」
「…………」
「安心してください」
グウウウッッッ
「…また?」
ノワルさんがニコニコしながらこちらを見てくる
「……ええ…」
「…………」ニコッ
なんでこう私のお腹は締まりませんわね、ヴィオさんにも笑われたではありませんの
「はい」
ノワルさんが良い匂いのする赤い木の実を差し出してくる
「これってトレントのですか?」
「うん、美味しく食べられるよ」
確かに私の勘でも食べられそうな気はしますわね
「トレントの実は獲物をおびき出すための罠なんだよね、チョウチンアンコウのアレと似たようなモンなの」
「へぇそうなのですわね」
「だから美味しく作られているし匂いも強め、皮も薄いからそのまま食べれる」
言われたまま皮ごとかじりつく、口の中に甘い果汁が芳香と共にはじける
「確かにとてもおいしいですわね」
シャクシャクとした触感が更においしさを引き立ててくれる、気が付くとお二人も果実にかじりついている
「あら?この実には種がありませんのね」
食べすすめると普通だったら種と芯がありそうなところも食べられる
「うん、トレントは種で増えないしそもそも動けるしね」
ずいぶんノワルさんは魔物に詳しいですわね、なにか勉強していたのかしら?
「どう?いっぱい食べてたけどお腹いっぱいになった?」
「少しはましになりましたけど、やはりお肉が食べたいですわね」
「…………」コクッ
ご飯はやっぱりお肉を食べてこそですわね
「えー…まだ食べるの?」
「そうですわ!この実は罠なのでしょう?それでしたらこの実で何か誘き寄せられませんか?」
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