ノワル#1
鬱蒼とした森の中にポツンと一つのボロ家があり中に茶髪の少女が一人ブツブツと喋っていた
師匠がいなくなってから一週間程度が経った、たった一つの書置きを残して
「『アンタも一人で生きられるようになったのでアタシは旅に出ます』ってねぇ…」
どこに行くのかもいつ帰ってくるのかも言わずにどっか行くのはあの人らしいけどさぁ
「さすがに朝起きたらいないとは思わなかったな」
独りぼっちで誰も聞いていないが愚痴は数日たってもやむことはなかった
「師匠もいないしここにいる意味がないんだよなぁ」
ここの地域、人間以外は迫害されてるし魔術書も少ないからなどうしようか
「アタシも出るかここに師匠が帰ってきたときにいなくてもいいでしょ」
そうと決まれば善は急げだ、師匠の残した書置きの余白にペンを走らせる
「師匠へアタシも旅に出ます…とこれでいいか」
そしたら旅の準備と…水も火も魔法で出せるから必要なのはナイフとかかな?あと必要そうなのは…針と糸とか一応薬も持っていくか重くなるから自分で作ったやつだけで
「よしこんなもんかな」
荷物を入れたウエストバッグを腰に結びつけて上から自分のローブを羽織って外に出る
「さてどこへ行こうかな」
行き先も目的すら決まっていないしとりあえず方角だけでもきめますか、こっから南は魔王領に近くなるしなぁ…魔族の魔法も興味があるけどさすがに命の方が大事だし北の方に向かおうかな?
「まあ出発するか」
特に目的も決まっていない気ままな旅の始まりだ、一人で生きていた時もあるしあの頃より私も成長してる
「ここから私の旅の始まりだ」
~~~~~
………と思ってたんだけど
「私はブラナ、龍神教の聖女……」
今これどんな状況?魔力補給にちょうどいい魔力だまりがあったから吸収しようと思ってたら急に全身真っ白な女にタックルされて説教されてるんだけど…
めんどくさいなぁ…この白女はアタシが普通の人間だと思ってるしこのまま隠しててもいいんだけどコイツの白い肌は北の人間の特徴だし龍神教ってことはこのあたりの奴らみたいに人間以外に対する迫害は無かったはずだしもういいか
私が魔女だってわかればコイツもおとなしくなるだろうし
「はぁ…わかったよ、とりあえずこの魔力だまりをどうにかすればアンタら龍神教は満足するんだろ」
魔力だまりに手を触れ一気に吸収する
「ちょっ…」
「アタシは魔女だ、魔女のノワル」
指に炎を灯し突き付ける、魔道具を使わずに魔法を使うのが一番わかりやすい証明方法だろ
「わかった?」
「……なら先に言ってくれてもよかったではありませんの」
ちょっと恥ずかしそうな顔をしただけで特に大きな忌避反応はない、やっぱりここいらの人間じゃ無かったな
「えっ!?」
横に顔をそむけた白女はいきなり叫んだ、その顔の方向に目を向けると子供が倒れていた
「大丈夫ですか?」
速っ、さっきまで目の前にいたよね一瞬で子供のところ行ってんだけど…しかもなんだあれここら辺の人間より明らかに黒い肌をしてるし髪の色も見たことがないぞ…
「……呼吸はしてるわ」
「おいアンタ」
まったく迷いもせずにそれを抱き上げた白女に声をかける、なんだかその子供から何か只者ではないというか不安になる何かを感じた
「そんな得体のしれないモン拾って大丈夫か?」
「ええ、困っている人を救うのが聖女ですわ」
「そういうことじゃなくって……」
この不安感をうまく言葉にできずに悩んでると子供が光りだす
「龍神様よ私に力をこの者に奇跡を…ヒール」
どうやら龍神教の祈りの魔法らしい、目立った魔道具は見えないし身体に刻んであるのか?それとも……
「ギャアアアアア」
「はぁ!?ドラゴン」
空から大きな咆哮が響きわたる、まじかよあの赤い鱗の身体はレッドドラゴンか!?
「下竜ですわね」
ん?呼び方が違うのか?…ってそれはどうでもいい、流石にここまで近づかれてると逃げきれないよな、しかも獰猛とされているレッドドラゴンだし絶対に追いかけてくるよな
「炎を吐かれる前に仕留めます!この子を頼みますわ」
「え、えっ?」
はぁ!?この白女子供を投げやがった!しかも仕留める?あのドラゴンを?魔道具も武器も持ってるようには見えないのに?
「うわっ!投げんなよ危ないじゃねぇか」
「はぁああ……」
なんか初めて見るよくわからん構えだが両手に魔力がこもっていいてるのだけはわかるが、ドラゴンはもうブレスを吐こうとしてるんだぞ
「お、おい逃げねぇのかよ」
「グルルルル」
ほら、ドラゴンの口の奥が赤く光ってるじゃん
「ガアアッッ!!!」
「せ~い~じょ~波ぁ~~!!」
白女の両手からビームが放たれドラゴンのブレスごと頭を吹き飛ばした
「ふぅ、やりましたわ」
「……は?」
なんだアレ魔法じゃねぇ…ただ単に濃縮した魔力を放っただけだ…どんだけ並外れた魔力量と高出力してるんだ……?
「化け物かよ…」
「はぁああああ~~!?化け物ですって!?こんなに可愛いうら若い乙女を見て化け物とは一体どういうことですか!?」
「はぁ?いきなりなんだよ!胸倉を掴むなy…」
おいおい、そんな怒るところか?それよりアンタのそのおかしい魔力について聞きたいんだけど
グウウウゥゥ
はぁ?またなんかの魔物か?聞いたことのない鳴き声だ
「次はなんだ!?ドラゴンに続いてまた何か来るのかよ」
「…………のおと…す…」
「え?」
白女の顔が赤くなっていってる、どうした?さっきのドラゴン倒した時のアレのせいか?
「私のお腹の音です!!!」
は?あのでかい獣の鳴き声が腹の音だったのか、ということは魔物はこねぇのかよかった
「なんだでかい音だったから魔物かと思ったよ」
「……ご飯にします!」
「へ?」
「ご飯にすると言っているのです!準備しますからあなた達は少し待っていてください!」
と言うと白女はカバンから巻物を出したと思ったらそれが一瞬で家になった?なんだその魔道具初めて見たんだけど
「この建物は私の作った特別な物です中にシャワーもありますからその子をきれいにしてあげてくださいね」
それだけ言い残して白女は森の奥へと消えていった、シャワーってあれだよなお湯で体を洗うやつだったよなそれがこの中にあるのか
「とりあえず中に入るか」
子供を抱っこしながら家の中に入る
「中までちゃんとできてるのか…」
それこそ絵とか花とかはないけど暮らすのに必要な物はそろっているように見える
「…シャワーってどこだ?」
とりあえず片っ端からドアを開けて確認していく、いくつかドアを開けてやっと見つける
「初めて見るしちゃんと使えるかね…それに」
腕の中でぼうっとしてる子供を見る、眼は開いてるが体に力が入ってないしな
「おい、お前自分で立てるか」
「…………」コクッ
うなずいた?意思疎通はできるのか?とりあえず下におろすとちゃんと立った
「使い方確認してくるから服縫いで待っとけよ」
シャワー室に入って確認すると説明文はなかったが色や道具の形で何となく察することはできた
「よし入っていいぞ」
ドアの外に声をかけると子供が入ってくる
「…………」
やっぱり見たことのない肌の色だなこんな人間いたのか
「ほらここに来い洗ってやるから」
「…………」コクッ
頭からお湯をかけてやる、特に嫌がる様子もなくすんなりと浴び、適当に頭を洗ってやる
「ん?」
指に硬い感触が当たる、なんだこれまさか…髪をかき分けて確認すると小さい角が二本生えていた
(マジかよ…)
角があるってことは魔族じゃねぇか…なんか変な感じがしていたがそういうことかよ…どうする?これ、魔族ってあれだろ魔王領に住む高い知能と魔力を保持し特殊な魔術を行使するという魔物の一種……
……ってコイツが?
なんかやたらおとなしいし本当に魔族だったらコイツをいろんな魔術の実験に使えるんじゃね?うまくいけばの話だけどさ
「…大丈夫か?」
「…………」コクッ
とりあえずあの白女には知らせないほうがいいよな龍神教では魔物は絶対悪だったような気がするし…勘違いさせたままでも特に問題なさそうだしな
「うんもういいでしょ」
シャワー室から出て近くにあったタオルで体を拭いてやりとりあえず気休めだが最後に頭にタオルを巻いてやり不意に角が見えないようにする
「自分で服着れるか?」
「…………」コクッ
さっき脱いだボロをまた着た、新しい服でも作ってやるか?布があれば作れないこともないしこのボロのままだと変に目立つしな
「じゃあアイツのことを待ちますか」
「…………」
…待ち時間にコイツのことでも聞いておくか?喋ってくれるといいけど…
「自分の名前はわかるか?」
「…………」
「親はどうしたんだ?」
「…………」
やっぱり駄目か…何となくわかっていたけどさ…
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