人間が怖い錬金術師
二人に手紙を出した翌朝には、もう二人からの手紙が届いた。朝目覚めると、ベランダの手すりに私の白銀の鳥とユーリ様の鳥が仲良く並んでいた。機械じかけの鳥たちは、緊急性が高いときは寝ているときでも起こしてくるけれど、特に問題ない場合は大人しく待っているとても賢い子たちだ。
これまでで最速なんじゃないかしら、と思いながら、まずはコンラッド様の手紙から目を通す。
王都での捜査は秘密裏に進めるから心配いらない、前回みたいに一人で片付けてしまわないようにと書いてあって私は首を傾げる。
この間とは、ガーネット男爵たちの証拠をおさえ捕まえたことだろうか。おそらくそれで間違いないと思うけれど、あれは仕方がなかったのだ。気付いたときには売られてしまう段階で、止めていなければ発狂を促す石が世に出回ってしまうところだった。
相談する時間も策を練る時間もなくて、手っ取り早い方法で止めようと実力行使に出てしまった。コンラッド様の怪我をしたらどうするんだから始まり、淑女としても自覚が足りないとクライヴお兄様にも叱られた。
確かにそうだったのだけれど、実際のところ私は男で本当の淑女とは言えず、護身術どころかお兄様たちと一緒に鍛えていたので荒事にも対応できる。筋肉がつきにくい体質だから、ドレスを着てもしなやかな体つきにしか見えないのが幸いだ。
だからあれは仕方が無かったとしても、今後は緊急性がない限りしないと心に決めているので心配しなくても良いのだけれど。
とにかく王都のことはコンラッド様たちに任せよう。私はここでできることをする。
そして、大人しく順番待ちをしていたユーリ様の鳥から、首から提げている小袋を受け取る。開いてみると、今回の手紙は急いでいたのかいつもよりも細かくされておらず、それぞれの大きさも適当だった。珍しい、と思いながら指を鳴らし手紙の形に戻して読み進める。しかし、読んでいく内にユーリ様が気の毒になってしまい、私の眉も下がる。
ユーリ様の元に私の手紙を読んだコンラッド様とお兄様が突撃したらしく、人付き合いの苦手なユーリ様が二度と来ないようにいってくれと泣きついてきていた。どうやらガーネット男爵たちの話を根掘り葉掘り聞かれたようだ。どちらも王都にいるのだし情報源を直接訪ねた方が早いものね、とは思うものの、ユーリ様の性格で突然王子が研究室に乗り込んできたら卒倒するだろうなと想像がつく。あと、お兄様の圧が多分強かったのだと思う。あとでお詫びの品を贈ろうと思いながら手紙を閉じた。
青空が広がり今日も良い天気だ。
窓の外を眺めながらエミリアに着替えを手伝ってもらい、身だしなみを整える。耳は寝ているときも付けたままでいるので、位置調整と毛並みを揃えたりする程度で良い。耳は成長度合いで大きさが変わるから、その都度新しいものを作ってもらっている。尻尾は自前なのでそちらをブラッシングしたときに出た抜け毛や揃えた時に出た毛が材料だ。少しくたびれ気味なので、そろそろ新しいのを作ってもらわないといけないなあと考えながら、コンラッド様からもらったウエストバックを腰からさげた。
ガーネット男爵たちのことも気になるけれど、誘拐事件の方も気になる。どちらかと言えば私にできるのは誘拐事件の方だと思うので、教会に顔を出してみよう。あの三人のことも気になっていたし丁度良い。
「ねえ、今日は教会に行こうと思うのだけれど、レントンの予定は空いてるかしら」
「今日は非番ではありませんし、車も空いてます」
「そう、それならよかった。途中、街によってユーリ様にお詫びの品も買いたいの」
「あら、どうかされたんですか」
「コンラッド様たちが押しかけたそうよ。訪ねてくるのは絶対拒否ですって。かわいそうに、泣いてるわきっと」
本当にお気の毒、と溜息を吐くと、エミリアも苦笑する。私がしばらく王都に居たときにエミリアもついて来てくれていて、ユーリ様に会ったことがあるのだ。
ユーリ様の見た目は猫耳を持つ線の細い儚げな美青年なのだが、口を開けば研究のことを早口でまくし立てる専門家気質だ。金髪の長い髪を後ろで一つに結び、憂いを称えた青い瞳が美しいとまで言われているのに、話し始めた途端に雰囲気が変わるためそれに皆が引いてしまう。そして本人は皆のそんな態度に悲しみ、人間不信に陥っているらしい。自分ではコントロールが利かないし、悲しくても本人に直す気がないため私のできることはない。
私も他人が少し怖いけれど、おそらく怖さの質が違う。
エミリアも小さくため息を吐きながら言葉を紡ぐ。
「あの方ならそうですね。泣いてるでしょうね」
「周りには邪魔されるのが嫌いと言ってるけれど、人間嫌いどころか人間怖いーですものね。女性から人気もあるけれど、人間が怖いなら仕方ないわね」
そうなると、私は人間にカウントされていないのかもしれない。面白い方だから私は別にそれでも良いのだけれど、女性からの嫉妬の感情が煩わしいとは思う。弱みを見せるのは良くないと、人間が怖いということは公にしていないからそんなことになっているのだけれど。ただ、私は王子という婚約者がいる身だし、ユーリ様がただの友人だとお兄様たちも広めているので陰口をたたく人も少ない。少ないけれど、嫉妬の感情は隠せないから仕方ないのだろう。あと、私は本当は男なので、本当なら嫉妬の対象にもならないと思うのだ。見た目だけは公爵令嬢なので仕方がない。
いくら考えても仕方のないことは置いておいて、私は今日の予定を立ててエミリアに告げる。
「朝食を食べて温室の確認をしたら、街へ出るとレントンに伝えておいて」
エミリアは頷いて私を見送った後、レントンの元へと向かうのだろう。私は朝食を食べるために食堂へと向かった。




