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耳なし錬金術師の遠吠え  作者: 黒鉦サクヤ
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機械じかけの鳥

 先延ばしにしたレントンからの忠告を聞き、その気持ちは受け止めたものの、私はつい反論してしまった。


 心配してくれる気持ちはありがたいし、言いたいことも分かるのだけれど素直に頷くことができない。

 貧しい者たちが盗みを犯さなければならなくなっているのは、そこを統治しているカーシュ公爵家の責任だ。本来ならばそんなことをしなくても良い暮らしを送れるようにするのが私たちの役目。

 もちろん他の選択肢もあった中、その選択肢を選んでしまったのはその者たちの落ち度だけれど、だからといって見捨てる理由にはならない。ましてや子どもたちなんて選択肢など無いに等しいのだから。


 昨日のことはカーシュ公爵家の私がやることに意味があるのでは、と言ったらレントンは黙ってしまった。やり込めたかったわけではないので申し訳ない気持ちになったけれど、私は間違ったことは言っていないと思う。


 解放された私は侍女のエミリアを連れて、温室兼作業場へとやってきていた。ここでは私が錬金術で使用する植物などを栽培したり、温室の一角にある作業場で研究を行っていた。

 国に仕える錬金術師には王都に作られた研究室が与えられるけれど、私はそれを辞退している。権力争いに巻き込まれるのはコンラッド様の婚約者としても避けなければならないし、堅苦しいのは性に合わないからだ。

 私はのんびりとここでお茶を飲みながら研究したり、現場に出ている方がいい。


 先程のことを思い出しながらため息を吐いていると、エミリアに笑われる。エミリアは紺色の髪を肩口で揃えた、笑顔の優しい可愛らしい女性だ。仕事はできるし、世の中の動きに敏感なところも素敵だと思う。小さい頃からの付き合いなのでエミリアとは秘密を共有しているし、本音を話せる気の置けない友人だった。


「レントンさんの気持ちも分かりますよ。たまに私も同じことを思いますから」

「待ってちょうだい。エミリアからも同じ話をされるのはたまらないわ」

「しませんよ。気持ちはわかるって話です。でも私はシルヴィア様のしたいことも分かりますから」


 応援してしまいますよね、と微笑まれる。温かい言葉に少し照れながら、目の前の薬草を摘む。摘んだばかりの薬草は、独特の香りを放ち鼻をくすぐる。むず痒さを感じながら必要数を摘み振り返ると、テーブルの上に金属でできた機械じかけの鳥が一羽とまっていた。

 換気口から入ってきたのだろう。この鳥は友人である錬金術師との連絡に使っている。

 友人であるユーリ様は、私と同じように変人扱いされている錬金術師で、研究を邪魔されるのが死ぬほど嫌いなので誰とも連まないと豪語している。でも何故か私とは気があったので、研究結果の発表や王都で聞く噂話などをよく私にしてくる愉快な人物だった。


「あら、ユーリ様からのお手紙ですわね」

「何かあったのかしら。……これ、前より細かくなってるわ。あの方は本当に何をしているのかしら。暇なの……」


 鳥が持ってきた小袋を開けると、キメの細かい粒子が溢れ出る。私が妖精の目で崩れたものを前と同じ状態に戻せることを知っている彼は、毎度挑戦するように手紙を粒子状にして寄越すのだ。万が一誰かに見つかったとしても、ここまで細ければ私以外に復元できる者はいないので、安心できる連絡手段だった。

 ただし、手紙が届くたびに難易度が上がる。暇なのかとツッコミを入れてしまうのも仕方がない。

 ちなみに、私からの手紙は彼に渡している私の魔力を込めた石以外では読めないように細工してあるので、こちらも安全だった。


 彼がここまで手間をかけて細かくしたことに苦笑しながら、苦労することなく細かな粒子を手紙の形へと戻す。紙の状態になったそれを眺めれば、王都にいる錬金術師たちの間でよからぬものを作っているものがいるらしいとの話だった。


「またガーネット男爵たちなの……」

「懲りませんね。この間も怒られてましたよね」

「だいぶ絞られたはずだけれど……」


 お金に目が眩み、先日発狂させる石を開発して摘発されている。発想力はあるため、国民のためにその力を使用するならと錬金術師の地位を剥奪されていなかった。しかし、実際は手元においておいたほうが、監視しやすいからだろうと私たちは見ている。


「他人を操る石ねぇ……軍事運用されたら怖いわね」


 手足となる者にその石を与え、自分の思うまま操る。色仕掛けやスパイ活動も行えるし、危ないと思ったらその人物だけ切り捨てることも簡単に違いない。自分の意志に関係なく、特攻を仕掛けさせ自爆させることだって可能だ。


「……ガーネット男爵ならやりかねないわ。完成間近なのもまずいわね」

「完成間近って、この間もその状態でどこかの組織に持ちかけてませんでした?」

「そうなの。ただ、前より嫌な予感がするのよね。コンラッド様に頼るのは申し訳ないのだけれど、また男爵たちが何かしそうな時は連絡をと言われているから……」


 エミリアはその瞬間、私の両手を握り言う。


「絶対にコンラッド様にご相談を。シルヴィア様が一人で行動されたら悲しみますし、胃痛で倒れておしまいになるかも」

「まさか、そんなわけ」


 あります、と食い気味に言われ、私は素直に頷いた。エミリアの真顔がとても怖い。

 私は早速ユーリ様にもっと詳しいことが分かれば教えてほしいと手紙を綴り、コンラッド様にも手紙を認めた。どちらも私の魔力でなければ読めない仕掛けを施す。

 そして、ユーリ様へは先程の鳥に、コンラッド様へは私の作り出した白銀の鳥に渡す。

 どちらも一声鳴き、温室を旋回してから飛び立っていった。

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