赤髪の女の子
「そうだわ、教会に行く前にちょっとだけ待ってもらえるかしら」
壊してしまった鳥の像をこのままにしておくのが忍びなくて、先に直して車に置いておきたかった。私は子どもたちに悪戯な笑みを浮かべてみせる。
敷き布に包んだガラクタを広げると、不思議そうに双子は顔を見合わせ首を傾げた。何が起きるか分かっていないのだ。
「よく見ていてね。これが素敵な形をとるから」
私が声をかけながら指を鳴らすと、崩れる前と同じ、美しい鳥の像ができあがった。何度崩しても私には妖精の目があるから、つなぎ目が線で繋がれて設計図のように頭に入る。それを思い浮かべながら力を流すだけで、完成したものが現れる。
初めて見たそのパフォーマンスに、子どもたちは声を上げてはしゃいだ。
「すごーい! パチンてしたら、あっという間に鳥さんができたぁ」
「きれい」
「なっ、壊すのも直すのも自由自在なのかよ……」
小さく呟いたグレンには、人差し指を唇に当てて黙っているように笑いかけた。グレンは聡い子なのか、その仕草だけですぐに口を噤むと、先ほど手を出そうとしていた鳥の像をまじまじと眺める。
その間に私たちを遠巻きに眺めている人々にも笑顔を振りまき、教会のことを伝えておいた。広まってくれないことにはどうにもならないのだから。
「さてと。私はそこまでこれを置いてきてしまうから少し待っていてね」
鳥の像を抱えると、もう目の前に見えている車まで私は駆け出す。背後のお兄様からこっそりと吐かれた溜息に、ごめんなさい、と胸の内で謝りながら、車で待っているレントンの元へと向かった。
「少し寄るところがあるから、もう少し待っていてくれるかしら。あと、こちらコンラッド様からいただいたので車で保管をお願いね」
渋い顔をしたレントンは、鳥の像をしっかりと受け取りながら言う。言いたいことは分かるので、私も甘んじてそれを受ける。
「像の件はかしこまりました。あともう聞きたくないでしょうが、子どもだったから良かったものの、またあのような危なっかしいことを……」
「そうね。でも、コンラッド様にはちゃんと許可をいただきました」
「許可をいただいたからといって、何でもして良いわけではございません」
「彼らを罰したくはなかったから、あれで良かったのよ」
きっと、と告げながらこの後の予定を手短に話す。待たせているのでお小言は後に回して欲しい。屋敷に戻ってからしっかりと聞くと言えば、レントンもその場は引いてくれる。
「コンラッド殿下たちがご一緒ならばシルヴィア様も無茶なことは……皆、寿命が縮まるのでお止めください」
「ええ、約束します」
教会までの道のりで危険なことなど早々起きはしないだろう。
私は待っている五人の元へと戻り、双子に手を差し出す。
「私にも二人みたいな可愛い妹がいるのよ。教会まで手を繋いでいきましょう」
「お姉ちゃんなの?」
おっとりとした口調のレイラは、グレンのズボンを握りしめながら上目遣いに尋ねる。カイラは人見知りするのか、グレンの影から出てこようとはせずに片目だけを覗かせていた。
二人はグレンと似た赤い髪の毛をしていたが、猫っ毛なのと栄養が足りていないからか艶がない。しかし、手入れをすれば魅力的な容姿になるに違いない。二重のぱっちりとした瞳は愛らしい。私は、そうよ、と答えて微笑んだ。
許可を得るように顔を向けるレイラに、グレンは小さく頷き返す。出会い頭にペースを乱され毒気を抜かれたグレンは、私への警戒心はなくなったようだ。
「おてて、つなぐ」
レイラの小さな手が私の手を握る。空いている手をグレンに差し出せば、首を横に振られてしまった。まぁいいかと思い歩き出すと、空いた手を優しく握られた。
「では、こちらの手は私と」
「まぁ、コンラッド様!」
悪戯が成功したような表情のコンラッド様に、私はかける言葉を失い嬉しさから笑みを浮かべる。こうして手を繋ぐのはいつ以来だろう。繋いだ箇所から伝わる熱が頬を赤く染めていく。普段離れていることが多いからか、こうした些細な触れ合いにも嬉しくなってしまう。
「さあ、行こうか」
「えぇ」
私たち三人を先頭に、お兄様とグレンたちも続く。教会へと私たちは車を背に歩き出した。
道すがら、レイラといろいろな話をする。コンラッド様が会話に混ざっても、レイラは臆することなくのんびりと話してくれた。
「そう。他にもそういう子がいるのね」
「うん。でもねぇ、いなくなっちゃった」
その言葉に、コンラッド様と私は顔を見合わせる。いなくなったとは言葉通りなのだろうか。
「いつぐらいから会えなくなったかわかる?」
「うんとねぇ、お月様が見えなくなった頃から」
今日が満月ということは、だいたい半月ほど前からということになる。新月のときは闇に紛れやすく犯罪も多い。親のない子どもを狙う者もいるだろう。犯罪に巻き込まれた可能性が高い。
表情が暗くなってしまったレイラを励ますように、私は小さな手を軽く握って意識をこちらに向けさせた。見上げてくるレイラに柔らかな笑顔を向ける。
「そう、それは心配ね。でも、あなたがそんな顔してると、きっとそのお友だちも心配になってしまうわ。私も心配になるわ。お友だちには笑顔でいてほしいものよ」
レイラの繋いでいない方の手が、私のスカートに縋るように触れる。不安そうに揺れる瞳が私を見上げていた。
「えっと、あたしお姉ちゃんとお友だちなの?」
「そうね。そうだと嬉しいわ」
「ふふっ、お姉ちゃんとお友だちぃ」
満足そうな笑顔になったレイラに優しい眼差しを向けていたコンラッド様は、繋いだ手を大きく振っていたレイラに尋ねる。
「そうだ、そのお友達の名前はなんていうのかな」
「アメリアだよぉ」
金色の髪でふわふわなのぉ、とレイラが笑う。
「アメリアちゃんね。私も金色でふわふわの子に会いたいわ」
「すっごくかわいいの。また遊びたいなぁ」
「そうね。今度会ったら、その子にも今から行く教会のことを教えてあげてね。きっと、あなたたちの力になってくれるわ」
レイラが愛らしい笑みを浮かべながら頷く。手を伸ばしたコンラッド様が頭を撫でると、気持ちよさそうに尻尾を勢いよく振り、声を上げて笑った。




