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「そ、そんなわけ…」
『残念だ』
ハルが無感情に言った
『航空機の事故という事になっている』
『1週間前に居場所が分からなくなった航空機の話は知っている!
でもそれは先生の行先とは無関係の便だろ
先生はまだアメリカから出る予定なんてなかった
こっちでの研究のために僕と来てるんだ
あれは確か国外便だ
第1そんな大きな事故に巻き込まれたのなら何も連絡が来ないのはおかしいし、僕だって気づくはずだ』
『ああ
それは吉岡啓司という名前で搭乗してなかったからな
本名だか偽名だか知らないが、佐々木恵一という名前で動いていたようだな』
『う、嘘だ
だって1週間前までずっと…』
『今の世の中、端末ひとつあれば活動は無限にできる
第1連れてきたお前を置いて動き回るのは腑に落ちない
しかも国外に行く時もお前を日本ではなくここに置いていっているのは不自然だ』
『それは…』
『ハル、その辺にしておけ』
ジャックがハルを止めた
『そうはいかない
事は急を要する』
『けどよ』
『あいつらのしっぽを掴めるかもしれないんだぞ
あいつらは馬鹿じゃない
察知した瞬間に煙より早く消えるだろうさ』
『…』
『先生は…本当に…』
『死んでるだろうな
いや、殺された可能性の方が高い』
『ハル!』
その時ドアが乱暴にバタンと開けられた
顔色と目つきの悪い男が入ってきた
『ハル』
その男はまっすぐハルの前まで来ると上から下まで睨め着けるように見下ろした
『相変わらずツラだけはお綺麗だな』
ハルは目すら合わせず無視している
それが気に入らないのだろう
盛大に舌打ちしたあと僕を一瞥してからニヤニヤと笑った
『こいつがねぇ
ハルが男を連れてきたってぇ聞いたから来てみればこんなあおっちろいガキか
こういうのが好みだったんだな』
『フランクリン、何の用だ』
ジャックが割って入った
『用?
他所もんが来てれば誰だって警戒するだろう?
それともお前のコレか、オーティス』
フランクリンと呼ばれた男は下品な仕草をしてみせた
『いい加減にしろ』
ジャックがいつもよりさらに低い声を出した
『では説明してもらおうか
このガキは何者だ?』
『お前には関係ない』
『関係ない、だぁ?
こちとら慈善活動でお前たちに手を貸しているわけじゃない
こちらの身の安全を脅かすようなことは控えてもらいたいね』
『こいつは』
ハルが突然話し始めた
空気がピリッとしたような気がした
フランクリンでさえニタニタ笑いが一瞬凍った
『リストには載っていない
銃撃戦が始まった時に隣にいたから連れてきただけだ』
『へぇ
アイスドールの異名を持つお前がねぇ』
『フランクリン!』
ジャックの額に青筋が浮いている
『まぁいいさ
今度全部話してもらうとしようか
こちらも慈善活動でお前たちに手を貸しているわけじゃない』
フランクリンはニタニタ笑いを顔に張りつけたまま立ち去った
外で微かに車のエンジン音がした
『とりあえず、マコトは今は休め
話は明日だ
ハル話がある』
ハルとジャックは部屋を後にしたが、残された僕は渦巻く思考でそれに気づかなかった