8
『え?』
その時僕のお腹が鳴った
しかも結構大きい音だった
そういえば昨日から何も食べていなかった
『あぁ、なんか食わねぇとな』
ジャックはそういうと奥のドアへと消えていった
さっきのはどういう意味なのだろう
もしかして、女の子、とか?
でも15歳は超えていそうだし、それにしては―
その時機械的にノックする音がして、僕の思考はそこで止まった
『は、はい』
ハルだった
手にパンとコーヒーの乗ったお盆を持っている
「食え」
「あ、ありがとう、ございます」
僕がパンに口をつけるのと同時にドアが豪快に開いてジャックが戻ってきた
コンソメスープだろうか
美味しそうな匂いが部屋に充満した
『何だよ
食べ物持ってくるなら先言えよ』
『どうせ全部食べる』
僕の空っぽのお腹はすごい勢いでパンとスープを吸収した
温かくて美味しかった
「ご馳走様でした」
『美味しかったです』
『ごち…ああ、日本人よく使うやつか…
うまいのは当たり前だ
俺が作ったんだからな』
え、ジャックが?
見た目によらず繊細なのかもしれない
『ああ、5時間も何をしてるのかと思えば料理してたのか』
『誰のせいだと思ってるんだ
お前が何も言わずに5時間も消えちまったせいでそうせざるを得なかったんだ』
ハルはしれっと無視すると僕の方を見た
『で、刻田誠君
君が着いてきた教授は今どうしている?』
ジャックにも分かるようにだろうが、ハルが英語で話しかけてきた
いや、それより
『な、なんで…』
『なるほどな』
ジャックは1人で納得している
『5時間もあれば大体のことは分かるってか』
ハルがこちらをじっと見ている
先を促しているようだ
『えっと…
先生は、学会の発表の関係で僕より先にここに来ているはずなんだけど…』
『その吉岡啓司‘先生’は1週間前に死んでるぞ』