5
どこをどう走ってきたのか分からない
暗くて視界が悪い上僕は方向音痴だ
身軽な少年に引っ張られて僕は足をひたすら動かした
強い力で掴まれている訳じゃないが、この手を離したら僕は死ぬだろうと本能が告げていて逆に僕の方が必死に掴んでいる
1度はこの少年に殺されるかもしれないとすら思ったのに
彼のあの身のこなしなら僕がいない方が早く安全に逃げられるに違いない
この手を離せば彼は確実に助かるだろう
僕でも時間稼ぎはできるかもしれない
そんなことを考える傍ら酷く神経が尖っているのを感じる
不意に何か嫌な予感がして腕を強く引っ張った
少年がバランスを一瞬崩してよろける
そのタイミングで手が離れた
その時僕たちの右前から爆発音と閃光が走って少し前の道が塞がった
爆発には巻き込まれなかったものの、風圧で前が見えない
来た道の方を振り向くと黒ずくめの格好をした人達が追ってくるのが風塵の先にぼんやり見えた
「早く…ッ!!早く、行け!!」
僕の肺と足が悲鳴をあげている
このままでは僕はただのお荷物だ
僕のせいで誰かが傷つくなんて絶対にダメだ
ここで奴らを僕に引きつけることが出来れば彼を逃がすことは出来るかもしれない
少年が元々大きな瞳を見開いて一瞬僕を見た
が、次の瞬間僕の腕をガッチリ掴んで方向転換してまた走り出した
走って走って―気づいたら僕達は薄暗い倉庫のような部屋に転がり込んでいた
僕は呼吸が乱れて肺が爆発しそうだったのに少年はまゆひとつどころか汗すらもかいていないようだ
周りを警戒してから僕を見る
僕はしゃがみこんだ
もう一歩も動けない
「何のつもりだ」
「…ゼェ…な、何が?…ゼェゼェ…」
「行けって言っただろう」
「ぼ、僕がいたら、逃げ遅れるかもしれないだろ…ゼェ…」
「は?」
頭がクラクラしてきていた
「君だけなら…もっと…早く…逃げれたろ…」
『ハル』
奥から低い声が聞こえてきた
息が苦しい
『ジャック
よせ、必要ない』
抑揚のない声が頭上から降ってくる
何だろう
なんか…もう…いいや…
誰か来たけど多分大丈夫そうだ
だからもう…
『おい!』
低い声が何か言っていたけれど僕は意識を手放した