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僕は声も出せずに固まった
動けたとしても少年から逃げられるとは思えないが
『お前何してる』
抑揚のない声でそう言った
本当に瞬きさえしてなければ人形のようだ
暗いところで見ると余計にシルエットの綺麗さが際立つ
僕より一回り小柄だ
「ぼ、僕は」
つい日本語で言ってしまった
『ああ、日本人か』
そう呟く
「あああああの!いや、えっと…」
慌てて話そうとするほど自国の言葉でないと上手くいかない
「日本語は分かる」
流暢な日本語が返ってきた
「お前何してる」
今度は日本語で聞いてきた
「僕は、何も知らないし、き、昨日のことは誰にも言っていない!
殺すなら、僕だけにしてくれ
お願いだ!」
少年は瞬きした
パチパチと音がしそうだ
まつ毛の長さがよくわかった
「は?」
そして心底分からないという顔をした
「だって、昨日、君…ひ、人を…」
少年は即座に納得したようだった
元の無表情に戻っている
「あぁ…
その必要があったからだ
別にお前を殺す理由は今のところない」
「で、でも…」
「あの場所ではよく人が死ぬ
いちいち騒いでいてはこの街は毎日火事騒ぎだろうよ」
「そんな…!
人が死んでるんだぞ?!
そ、それに僕だって人に話すかもしれないじゃないか」
「なんだ?
お前死にたいのか?」
少年はまた不思議そうな顔をした
「ち、違うよ!」
「何度も言うが、ここではよく人が死ぬ
そしてお前はなぜ2日も続けてこの辺りをうろついているのかと聞いている」
「は?」
僕はキョロキョロと見渡した
「ここは昨日の場所とは違うだろ?」
「…その調子だとただの迷子か
ここは昨日の場所から2本奥の通りだ
お前の様な平和ボケしたやつは先に死ぬぞ
さっさと家に帰れ」
少年は呆れたように言うと手袋をつけ直し踵を返した
それとほぼ同時に弾かれたかのように跳んで退いた
僕と少年の間に何かが横切り壁に穴を開けた
首の後ろの方が嫌な感じにゾワゾワした
その瞬間少年は舌打ちをすると僕の手首を掴んで走り出した