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私は1度死んだ
生きるために死ぬのか
死ぬために生きるのか
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雨が降っている
傘を忘れた僕は途中で降り出した雨の中を走った
少し特殊な留学をしているため、各地を転々とする生活を送っている
ここには来たばかりで土地勘などまるでない上に方向音痴であるにもかかわらず、前もろくに見ずに走ったせいか見慣れた景色は一切なく、僕は迷子になったことを悟った
防水仕様が前より改善したとはいえ、雨が降り仕切る中携帯を触るのはあまり気が進まないが、致し方あるまい
この辺りは大通りを1本外れると薄暗くて入り乱れた場所になる
あまりいい話も聞かない
ここは日本じゃないんだ
雨などに焦らず落ち着いて歩くべきだった
雨が弱まってきて、ついに止んだタイミングで携帯を出そうと手をポケットに入れた瞬間
凄まじい破壊音がした
音の方向を見ると、男が1人壁に叩きつけられて伸びているところだった
男が飛んできた方向から音も無く人影が現れた
漆黒の髪、色素の薄いほっそりした身体
国籍は不明な顔立ちで少年のようだった
とんでもない美貌だったが、僕はそいつの目を見て背筋に冷や汗が伝うのを感じた
どこまでも深く深く暗い金に近い茶色の目
色だけならばかなり鮮やかなのだろうに、感情というものが抜け落ちているかのようだった
美しい人形
僕は咄嗟にそう思った
そいつは無表情のまま、鮮やかな足の一撃で伸びている男にとどめを刺した
骨が碎ける音がした
一連の無駄のない動きはまるで舞のようで僕は目が離せなかった
ふとそいつがこちらを見る
あ
目が合った瞬間僕は死を悟った
先生、ごめんなさい
僕はまだ恩返しはおろか、お礼だってきちんと言えていたのかも分からないのに