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勇者フェイトと人類至上主義

 二人の剣士に案内され、公都郊外の宿屋へやって来たフェイトたち。

 辺りは暗くなり始めていたが、なんとかギルドの集まりには間に合った。


 宿屋は一階にバーが併設されていて、というよりバーの二階に宿屋が併設されているといった表現が合うような場所で、郊外に建っていることもあってか公都では見られないような小汚い鎧に身を包んだ冒険者たちが詰めかけていた。


「みんな、彼は『フィーンド』殺しのフェイト・シェイファー二世だ。僕らを救ってくれた、その名前通りの大勇者だ!」


 ウォルターからの紹介が終わると、たちまち拍手と歓声がフェイトを包んだ。

 これほどの歓待を受けるのは十年ぶりだった。


「助けてくれたお礼だ。好きなだけ飲んでくれ。しかし、あんたの戦いぶりは本当に見事だった。モンスターを殺すのに慣れているのか?」

「魔王軍と何年も戦ってきたんだから当然だ。あまりに殺しすぎて、最終的に何人殺したか覚えてないね」

「それは凄い。モンスター以外の魔族も殺したか?」

「戦争だからな。オークやゴブリン、他にも色々な。誇って良いのか分からないが……」

「いや、誇るべきだ。君はメルティアの人間としてやるべきことをやったんだ」

「この時代、そう言ってくれる奴は少ない。このギルドは良い場所だな」


 楽しそうに歓談するフェイト。

 スティナはそれをジトッとした目で見ながら小声で非難する。


「この人たち、何かおかしいですよ。仲間になって大丈夫なんですか?」

「何、心配するな。俺が首輪のことを上手く取り繕ってやるからさ。……ああ、気にするな。この子はシャイなんだよ」


 忠告を無視されて腹を立てたスティナは、フードを深く被ってふて寝した。


「ハハハ、そのようだな。……さてと。君たちは合格だ。ギルドの一員として認めよう。僕らは君の本名を詮索しない。どんな身の上であろうが、『思想』で通じ合うことが出来ると確信したからね」


 ウォルターはフェイトに拍手を送った。


「合格か、やったぜ! ……で、一体何が試験だったんだ?」


 フェイトは戸惑いながらも拍手に浮かれていた。

 

 こうしてフェイトとスティナは、冒険者ギルドの一員となるにふさわしい適性を見出されたのだが、彼らは知らない。この十年で社会が変わったように、ギルドも大きく変わったのだということを。



 夜が更けた頃。フェイトとスティナは「帰化の儀式」に参加すべく、ギルドの所有する馬車に乗っていた。

 森の暗がりをひた走る中、スティナは心配そうにフェイトの腕にしがみ付く。

 しかし当のフェイトは酒に酔って頭が働かず、まるで気にもかけない。


「ヒック。俺は彼此三十年冒険者をやっているが、昔は良かった。誰もが俺たちを慕ってくれた。それなのに魔王が死んだ途端厄介者扱いだ」

「そうそう。俺たちは社会のあぶれ者で再就職先も見つからないってのに、亜人は種族採用枠のおかげで仕事を選びたい放題だ。やりきれないよ」


 先輩ギルドメンバーたちのそんな愚痴を聞きながら、フェイトは馬車の上でも酒樽から注いだ蒸留酒を浴びるように飲み、周囲の歌に合わせてバンジョーを弾いた。「綿花の国に帰りたいものだ、忘れ難い古きあの時代へ」、そんな歌を。


「着いたぞ。よしシェイファー二世、この儀式用の衣装に着替えてくれ」


 馬車が森の奥にある開けた場所で停まり、ウォルターは衣装を手渡してきた。

 馬車の荷台に剣を置いて、早速フェイトはそれに着替える。

 白いローブに円錐状のフード、そして目の箇所に穴が二つ空いただけのマスク。ヘンテコな衣装だった。特にフードの形はまるで道化の帽子みたいだ。


「ご、ご主人さまっ。この服の刺繍見てくださいっ」


 子供用のローブを抱えたスティナが神妙な面持ちで刺繍を見つめる。

 赤い円の中に白いロングソードがあしらわれた紋章。フェイトは息を飲んだ。

 

 奴隷オークション会場に張られていたものと同じだったのだ。


「よし、十字架を立てるぞ。お前たちは例の物を用意しろ」


 白装束に着替えたギルドメンバーたちが木製の巨大な十字架を地面に突き刺す。

 続けてこれまた白いローブを被せられた馬たちの引く馬車が現れたかと思えば、男たちはそれを背の高い木の下に止め、木の枝にロープを結びつける。

 何やら様子がおかしい、ようやくフェイトは気づいた。


「新入りの二人は『大魔法使い』からの指示があったら彼の前で跪け。そして彼から言われたことに対してひたすら頷いていれば良い。分かったな?」


 確たる証拠は無いが、彼らの正体に察しがついた。


「まさか、人類至上主義結社? こいつらが奴隷商人なのか?」


 その日は身体の芯まで凍りそうなほど気温が低かったのにも関わらず、フェイトはマスクの下から冷や汗を流していた。


「集まれ! 十字架の元へ集うんだ!」


 誰かの掛け声を聞いて、彼らと共に十字架を囲む。各々が持つたいまつの火は不気味なほど明るく彼らの白装束を照らす。

 そこに白装束の上から青いマントを羽織った男が現れると歓声が上がった。彼が「大魔法使い」なのだろう。感覚的に理解した。


「今夜もこの偉大な夜を迎えられたことを神に感謝しよう。今夜は我らが『見えざる帝国』へ新たに加わる者がいると聞いている。帰化の儀式を始めよう」


 大魔法使いはわざとらしく声を低くして言った。

 内心馬鹿らしいと思いつつもフェイトは呼びかけに応じ、彼の前で跪く。スティナも一生懸命にその仕草を真似る。

 大魔法使いはサーベルを手に取り、二人の肩の上にそっとそれを当てた。

 そして簡単な質問、要するに「純血の人間であると誓うか?」といった内容があり、無言で頷く。

 幸運なことに、スティナのマスクを取って事実を確認されずに済んだ。


 帰化の儀式はざっとこんなところで終わり、大魔法使いの演説が始まった。


「醜いデミ・ヒューマンどもが、我々人類の『血と土』を脅かしているのを感じるか? 奴らは人類から誇り高き伝統を、正しい宗教を、そして将来のビジョンを奪い取ろうとしている。奴らの好きにさせるな。『我々は、我々の種族の存続と人類の子供達の未来を守らねばならない』のだ。戦列に加わる者は十字架に火をつけよ。聖なる十字架の炎が我々を、この国を浄化する」


 十字架が燃え上がると、聴衆は興奮したように右腕をピンと伸ばして叫んだ。


「ヒューマンパワー! 全てはギルドのために!」

「デミ、異教徒、同性愛者、そしてリベラル派の連中に裁きを‼」


 十字架の炎に照らされた彼らの姿は、これまでフェイトが見たどのモンスターよりも恐ろしかった。

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