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勇者フェイトと都市の吟遊詩人

 昔は良かった。

 

 今でも鮮明に思い出せる。凶悪なゴブリンの巣食う村を焼き払って回った日々。ドラゴンから奪った卵で祝った復活祭。モンスターや魔族の問題はあったものの、自分たち勇者には関係ない。

 命を賭して戦う代わりに正当な評価を受け、報われたからだ。

 人々の反応も違った。あの頃は鎧姿の勇者たちを見ると、誰もが安心して縋り付いてきたものだ。あの頃は人生の頂点だった。


 フェイトは馬上から寒空を見上げる。

 昔は温かい太陽が自分を照らしていたのに、今はこのザマ。気のせいか、年々寒くなってきている気がする。

 リベラル派や環境保護活動家が、気候変動による温暖化を警告しているが、やはりあれは嘘だ。気候は神が決めるもの。連中の警告は偽善に満ちた陰謀に過ぎない。


「おいっ! 勇者さまじゃねぇか。この街に何の用だ、この亜人殺しが!」


 フェイトの馬に並走する若い長髪の男がいた。

 よくある嫌がらせだ。もう慣れている。


「言い返す言葉も見つからないってか? 情けねぇ勇者さまだな!」

「うるさい! 俺から離れろ、このイ○ポ野郎!」


 フェイトは鎧から足を伸ばし、並走する男の馬を蹴った。

 馬は興奮して速度を上げ、進行方向を変える。


「お、おい、言うことを聞け! クソッ、覚えてろ!」


 男はそんな安い捨て台詞を吐いた。もう会うことは無いだろうが。

 それにしても最近はああいう輩が増えてきた。ラブ・アンド・ピースを訴えて暴力的な言動を繰り返す輩だ。

 時代は変わった。確かにそうかもしれない。

 だが受け入れられない。受け入れたくないのだ。


「見えてきたぞ。あれが『公都』、文明社会だ」


 フェイトは遥か遠方の城塞を見つけ、感慨深そうに呟いた。

 そう、彼は約十年ぶりに故郷のエスペを離れたのだ。

 スキー場の一件以降、ジークムントの息子がフェイトから「性的悪戯」を受けたという虚偽の主張が町中に流布された。

 これ以上悪評が広がれば、住民たちから襲われかねない。

 熱りが冷めるまでの数日、山を離れることにしたのだ。


 彼の目指していた場所は「公都」。

 シュタイナー山脈の東麓に築かれたルートリッヒの首都であるこの街は、十年前の時点では単なる田舎町に過ぎなかったが、近年急速に発展を遂げたと聞く。

 人を隠すには人の中、身を隠すには最適の場所だと判断した……のだが。


「こ、これがあの公都なのか? まるで別の街だ!」


 長いこと時間をかけてようやく街の入り口にたどり着いた時、フェイトは街の姿を見て思わず感嘆の声を漏らした。

 果てしなく続く舗装された道に建物の群れ、行き交う馬車。金色に輝く巨大な半球状の屋根と高級そうな材質の壁が特徴的な辺境伯の宮殿。

 十年前の街の姿を知るフェイトには信じられない変貌ぶりだったのだ。


 馬を繋ぎ止め、賑やかな並木通りを歩いてみた。

 服屋やカフェが軒を連ね、あちこちにアート作品が展示されている。

 街の人々は小綺麗な衣装に身を包み、誰一人として鎧や剣を身につけていない。

 聖典に「杯の内側を綺麗にせよ。そうすれば、外側もきれいになる」とあるが、この街の人々はその逆を実践しているのだ。なんと愚かしいことだろう。

 戦争が終わって十年、これが愛する祖国の現実か。


「例の吟遊詩人が来ているんだって。新作を聞けるなんて今日は運が良い」


 道路脇の人集りの中から聞こえた吟遊詩人という単語を聞き、フェイトは幼少期を懐かしく思い出した。

 彼の故郷エスペにはある著名な吟遊詩人が住んでいた。

 流れるような心地よいリュートの音色に合わせて歌われる、エスペの自然を讃える詩。

 そんな詩に奮い立たされ、「勇者になって美しい故郷を守る」と決意した。

 つまりフェイトにとって吟遊詩人は、勇者を志すきっかけを作った憧れなのだ。

 是非聞きたい。そう思い立ったフェイトは人の波を掻き分け、人だかりの最前列に出ると、中心に立っていたのは若い黒人男性だった。

 くたびれたシャツの上からジャラジャラとチェーンをぶら下げている。

 なるほど、最近の吟遊詩人はああいう衣装を着るのか。わくわくするな。


「今日は勇者たちの生き様に関する詩を用意してきた。宮廷音楽家どもみたいな上品さは無いかもしれないが、本物の音楽を、本物の詩を聞いてくれ」


 吟遊詩人がリュートを担ぐのを見て、フェイトは物語に入り込もうと目を閉じた。


『ヨー! 十二勇者が魔王をファッ○! 犬みたいに喘ぐ魔王にバック! コンプトン上がりのアウトレイジ! 奴らを舐めるな、飛んでくるぜ、十二ゲージ‼』


 唖然とした。耳障りな声、酷い詩、そしてリュートを全く弾かないことに。

 上品どころかただの下品ではないか。絶望のあまりその場で声に出してしまった。


「あんな奴は本物の吟遊詩人じゃない。カマ野郎だ!」


 すると、エセ吟遊詩人は演奏を切りやめてフェイトに詰め寄る。


「ちょっと待った、そこのオメェ。俺の『異世界』流歌唱法に文句があるってのか? 俺はこれで世界を取るんだ、自分の価値観に合わねぇからって邪魔すんなジジイ」

「言いがかりでもジジイでもない。もっとマシな詩を作れって言いたいだけだ」

「その考え方がジジイなんだよ、メーン」

「何が『メーン』だ! それが客に対する態度か!」


 昔から転生だの転移だの言う胡散臭い輩をフェイトはよく知っていた。

 異世界なんて、リベラル派が煽っている「気候変動による温暖化」と同じだ。

 全て嘘に決まっているのに、なぜ人々は嘘を信じて嘘に熱狂するのだろう。


温暖化の否定は、あくまで主人公の意見です!

因みに私は会社でエコ推進プロジェクトも担当しています!

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