プロローグ 始まりの朝
「ふぁ~」
穏やかな春の陽射しを浴び、俺は目を覚ました。
まだ少しの眠気を残しているが布団から出て、洗面所に向かうため階段を降りた。
今日から新学期が始まるということなので、寝てるわけにはいかないのだ。
階段を降りて洗面所に向かおうとすると真新しい制服を身に纏う妹の結衣とすれ違い、声をかけられる。
「兄さん、おはよ。トーストとコーヒー、準備しといてあげる。」
結衣の言葉に俺は
「おーありがと」
と返す。
そのまま洗面所へ向かおうとすると、結衣は目を細め、少し低い声で
「朝の挨拶は?」
と挨拶を促してきた。
結衣はあまり物事にうるさくないのだが、朝の挨拶だけはうるさい。きっと結衣のポリシーなのだろう。
俺は結衣の方をみて、
「おはよ結衣」
と、朝の挨拶をする。
満足したのか、
「うん!おはよう兄さん」
と明るい笑顔が返ってきた。
そんな妹に眩しさを感じながら、俺は洗面所に行き、顔を洗った。
顔を洗い、少しすっきりしてリビングにいくと、トーストとコーヒーが用意してあった。
「トーストとコーヒー用意したから。」
「私もう行くけど、兄さん新学期から遅刻したらダメだよ。」
「あぁありがと。いってらっしゃい」
「いってきます」
と残し、結衣は家を出ていった。
しっかり者の良き妹だと感心しつつ、用意してもらったトーストとコーヒーを一口ずつ口に入れる。
軽い朝食を済まし、「いってきます」と挨拶をして、誰もいない家を出た。
俺は今、妹と二人で暮らしている。両親は健在だが、俺が中3になる頃から仕事で国内外を飛び回るようになり、家にいないことが日常となっている。
結衣はどうかわからないが、俺には寂しさとかそういうものはない。むしろ好都合とすら思っている。
俺は高1の冬にラノベ作家デビューを果たしているからだ。
昔から趣味程度で絵を描いたり、ラノベを読んだりしていることは家族も知っているが、まさかラノベを書いてデビューしているなんて思ってもいないだろう。
この事は面倒なので家族や知り合いには誰にも伝えていない。
家の外に出るや否や
「春先なのに、もう暑いなぁ」
と言葉が漏れてしまった。
デビューもしたし、今年は明るくなればいいなと思いつつ、義之は学校へ足を進めるのであった。