"第一章 弐幕"
一幕からだいぶ期間が空きましたがこれからはもう少し早い投稿を試みます。
「ちょっと!! お爺ちゃん早く!!」
「これこれ、そう慌てんでも大丈夫じゃて」
「そんな悠長な事言ってる場合じゃないってば〜。早くしないと"ヴェリーナ"さんVSゼルドッガ元騎士団長の模擬試合始まっちゃうでしょ〜!?」
活気溢れる都市、【アドゥベロエ】
ここは巨大闘技場の栄える、戦う男たちの聖地である。
月の初めには模擬試合と称し冒険者や騎士団といった交わる事の無い力のぶつかり合いを開催していて、多くのファンを中心に、今日もアドゥベロエの住人たちが闘技場へ足を運んでいた。
しかも、今回はグランドゼル地方のサマファ王国元騎士団長のゼルドッガと、元冒険者ランク『SSS+』且つ勇者パーティで賢者を担っていた、『ヴェリーナ・ドラグリィチ』との模擬試合だ。
この模擬試合には周辺地域だけでなく国境を越え海を越え様々な国から特使等が賢者ヴェリーナとコンタクトを取る為訪れていた。
-×××-
「どうしてあんな弱者と模擬試合なのかしら? SSS+と騎士団長なんて天と地以上の差があると言うのに...この国の王は何がしたいのか分からないわ...」
闘技場控え室にて窓の外の観客を見ながら不満の声を漏らしているのは賢者ヴェリーナ。首から提げているロケットを弄りながら彼女は、ふとテーブルの上に広がった新聞の記事に目をやる。
"凶暴化焔竜は何処? 焔竜は鎮められ謎の男により連れ去られる!!"
「.....焔竜といえばあの子の事かしら? でも凶暴化は穏やかでは無いわね...それに、いくら子竜でも凶暴化をどうにか出来るなんてあの人しか..........もしかして!?」
ヴェリーナは思い立ち控え室を出る、とそこへ模擬試合開始を告げる為に現れた兵士数名が現れ立ち止まる。
「ヴェリーナ様? 何処かへ行かれるのですか? 間も無く模擬試合開始となりますので此方へ」
「.....(速攻で終わらせてやるわ)」
ヴェリーナは兵士たちを追い越し試合会場へと早歩きで向かう。彼女は新たに出来た目的の為に想いが先走る。
-×××-
試合会場ではすでに大盛り上がりを見せていた。
歴戦のキズがそこかしこに残っていて、地面も凸凹し闘いにはもってこいの場になっている試合会場に大剣を地に刺しゼルドッガ元騎士団長は仁王立ちで対戦相手を待っていた。
「お待たせしたみたいね...早く始めましょ」
「そう急くな...元とはいえ騎士団長が冒険者を軽く捻ってしまってはこの高鳴り...到底収」
「早く!! .....始めましょう?」
「!? ...う、うむ。だ、誰か合図を頼む!!」
賢者の圧力に押され元騎士団長は立ち合い人に声を掛ける。余裕の態度だったゼルドッガ元騎士団長は大剣を構え、2、3歩背後へ下がった。
「皆さま、長らくお待たせ致しました!! これよりサマファ王国元騎士団長ゼルドッガ選手と、言わずと知れた元勇者パーティ・賢者のヴェリーナ・ドラグリィチ様の模擬試合を始めさせて頂きます!!」
観客の熱気は最高潮に達し、緊張が高まる。
立ち合い人はヴェリーナの「早く始めなさい」という無言の圧力を見に受け、両者の詳細を話そうとする司会者を制し開始の合図にと腰の剣を手に取り上へ投げる。それが地に落ちたら試合開始だ。
剣が地に落ちたと同時にゼルドッガ元騎士団長の鎧が砕け、背後の扉へ激突し勝敗が決す。
「はい...これでお終い」
会場は一瞬の出来事に言葉を失う。
元騎士団長は泡を吹いて倒れ、立ち合い人も開いた口が塞がらない。
ヴェリーナはそそくさと会場をあとにし闘技場から姿を消した。コンタクトを取ろうとしていた特使たちはあまりの強さに腰が抜けそれどころでは無かったという。
「それにしても掌底一つでどうにかなる騎士団ってマズくないかしら? .....世も末ね」
「仰る通り、冒険者に比べると騎士団は弱い...僕の父でも貴女には手も足も出ないでしょう...」
「.....誰かしら? 私急いでいるのだけど...何処かの騎士か何か? もし、私へ依頼があっても受けないわよ? 私はもう...冒険者を辞めたのですから」
「いえ、僕は冒険者ですよ。父が騎士団長をしている...ね。僕は貴女に依頼ではなくお願いがあって参りました」
「何? サインくらいならしてあげるけど...」
「僕は.....貴女に、手合わせして欲しいんですよ」
剣を抜き構える冒険者。しかし、一瞬で背後を取られ首に爪を突き立てられる。
「.....ダメね。もし貴方が本気で私と手合わせしたいなら今の構える時間だけで貴方の負け」
「..........(ゴクリ)」
「キツい言い方だと思うけど、って...チョット待って.....(クンクン)貴方の剣からあの人の匂いがする。その剣...あの人に、ヴァルツに打ってもらったものでしょ?」
「.....あの鍛冶屋の方の御名前は存じませんが、元勇者パーティにて無敵の強さを誇るSSS+ランクで勇者をも赤子の如く遇らうあの伝説の竜騎士、『ヴァルツ・カーゼイツェル』と同じ方で間違い無いと言う事ですか?」
「他に居ないでしょ。それに勇者は私より弱いからあまり参考にならないわよ。そ・れ・か・ら、ただの竜騎士じゃなくて竜王神様に唯一認められた【竜騎士※※※※】って、竜語は分からないわよね。まぁ、最上位の竜騎士って事よ。竜族では無いヒトがその名を授けられたのはあの人ただ一人.....いや、それよりも貴方...ヴァルツと何処で会ったの!?」
「.....僕がこの剣をいや、初めてあの方に会ったのは10年前で、協力を仰ごうとした僕の故郷にあるエジピュ王国が騎士団を向かわせたところ、忽然と姿を眩ませてしまい」
「ふぅ〜ん...じゃあ、焔竜騒ぎの時は?」
「お会いしました。しかし手合わせどころか共に焔竜の元へも行かせてもらえず...」
「...やっぱりあの人だったのね.....分かったわ。手合わせくらいならしてあげる。その代わり、あの人の情報を聞きつけたら私に必ず報告なさい」
「えぇ、分かりました。取り敢えず闘技場に戻りますか?」
「嫌よ! あんなムサいところ。向こうに隠れてる貴方のお仲間も連れてここから北西にあるダンジョン、【タイダルウェイヴ】にいらっしゃい。あそこの最下層に今私は住んでるから」
「タ.....タイダルウェイヴに!?」
「じゃあ、私は先に行ってるから...」
そう言うとヴェリーナは転移魔法を唱え去って行った。
「.....さっきの転移魔法...無詠唱だった。あんな芸当私には出来ない...」
「今は、でしょ? 出来る様になるって!!」
「しかし...タイダルウェイヴか。厄介じゃのう」
ダンジョン【タイダルウェイヴ】とは、冒険者ランクS+以上にのみ進入を許される超絶高難易度ダンジョンであり、彼らでさえ最下層である地下50階にたどり着いた事は無かった。
そんなダンジョンに単身で乗り込み最下層に住む程の強者に対して手合わせを願い出た事を彼は少々恥ていた。
「しかしやっと掴んだチャンスだ。元とはいえSSS+ランクの冒険者にそうそう挑める訳ではない」
「じゃがのう...タイダルウェイヴはまだ地下32階までしか辿り着いておらぬ。儂らのレベルで最下層は無茶ではなかろうか?」
「.....前行ったのは3年も昔。今の私たちなら楽勝...」
「まぁ確かにのう。レベルも3年前より遥かに上昇はしておる。嬢ちゃんもあの時はまだ30くらいだったかのう?」
「.....42。今は96。チャレンジすべきだと思う」
「孫は...レベル101。まだ儂の半分以下じゃが行けるのかのう?」
「ジジイは心配症だなぁ。確かあのダンジョンって最下層適正パーティ平均レベル100以上でしょ? だったら行けるって!!」
「あぁ。それに僕もあの頃とは違います。レオ殿には及びませんがレベル180まで到達しました。自身を持って行きましょう」
「そうじゃの。せっかくじゃし、ちょっくら挑むとするかのう」
「「「おう!!」」」
勢い付いた4人はダンジョン【タイダルウェイヴ】へ向かった。心配していたのが嘘かの様に4人はダンジョンを突き進む。
そして.....4人は地下49階のボスの間へと辿り着いた。
「...簡単でしたね」
「そうじゃのぅ」
「ここの階層ボス倒したら最下層なんでしょ? 早く行こっ!!」
「.....道中の戦闘で私のレベルも100を超えた。準備は万端...」
「じゃあ、ヴェリーナさんをこれ以上待たせない為にもボスを倒しましょう」
ボスの間の扉を開けて階層ボスと対峙...しなかった。
ボスがいたであろう場所には大きな魔石が沢山転がっていて、辺りにはドロップ素材やアイテムが大量に積まれていた。
「えっと...これは一体?」
「あら、早かったじゃない。レベル100くらいだと思ってたからもう少し掛かると思ってたけど...」
最下層へ続く奥の階段からヴェリーナが上がってくる。着替えたのだろうか...少々ラフというか、露出度の高い服装へ変わっていた。
「そう言えば、名前聞いてなかったわね」
「は、はい!! 申し遅れました!! 僕はこのパーティのリーダーを務めている、『キール・ジェスティー』と申します」
「.....『シアナ・アリーテ』...です」
「私は〜、『レニャ・ルゥツバス』で〜す♪」
「儂は、この娘の祖父で『レオ・ルゥツバス』じゃ」
「私は.....知ってると思うけど一応名乗っておくわね。『ヴェリーナ・ドラグリィチ』よ。竜族最強のドラグリィチ家の次女。元SSS+ランクの冒険者で今は.....暇人をしているわ」
「模擬試合は見事でした。目にも留まらぬ速さで相手の懐に潜り込み掌底を一発。一般的な賢者の戦い方ではありませんでしたが...」
「あれ見えてたんだ...まぁあの元騎士団長よりは強いと思っていたから当然でしょうけど...」
「あの〜、ヴェリーナさんってぇ...レベルはいくつ何ですか?」
「これっ、失礼じゃろう!?」
「別にいいわよ。えっと.....いくつだったかしら...」
ヴェリーナは自らに鑑定魔法を掛け、ヴェリーナの目の前へ文字が並ぶ。
「え〜っと.....少し上がっていたわね。レベルは7049。けどまだあの人より遥かに低いわね」
「「「「7049!?」」」」
「簡単に終わっても面白くないからレベルと力を一時的に10分の1に下げてあげるわ。これなら少しは楽しめるでしょう」
「この世の最高レベルは999とばかり思っておったが...まさかその遥か高みがあったとは」
「SSSランクになれば冒険者協会が説明してくれる筈よ。神の如く強さを持つモンスターの住まう魔界にはレベル1000を越える魔族がウジャウジャいたの。その魔族に対抗する為に冒険者協会は...って、今この話をしても仕方ないわね。その魔界はもう...魔王の消滅で無くなったからね」
「.....手合わせですが、全員ではなく...先ずは僕一人でも宜しいでしょうか?」
「別にいいけど...20分の1くらいに落とした方がいいかしら? ちょっとそこまでの調整は難しいのだけど...」
「いえ...10分の1で大丈夫です。ちゃんと強者という存在を知っておきたいので」
「そう.....じゃあそろそろ始めましょうか? 最下層の方が頑丈だからついてきて」
「は、はい!!」
キールとその一行はヴェリーナの後を緊張した面持ちでついていく。
そして最下層に着いた一行が見たものは...?
"第一章 弐幕" 完
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