"第一章 壱幕"
冒険者組合の喧騒の中、少年は大剣を携え3人の仲間を連れ受付嬢の元へ歩いていく
「カルナさん、たった今『蛾龍討伐任務』から帰って参りました。此方がその証拠である蛾龍の触手と牙になります」
「.....確かに。此度の討伐任務お疲れ様です。本日は長旅の疲れを癒しまた明日お出で下さい。報酬を用意してお待ちしておりますので」
「お気遣いありがとうございます。では我等はこれで...」
「彼が最強の再来と呼ばれるエジピュ王国騎士団長の息子かぁ」「一緒にいる仲間も貫禄あるぅ」「俺も一緒に旅してみてぇ」「いや、お前じゃ5秒と持たない」「何だとー!?」「やるかー!?」
などと言う感じで少年は冒険者として着実に成長していた
かつてのあの鍛冶屋が云われていた最強の再来などと噂されるまでの存在になりつつあった
「リーダー、私もう宿で休んでいい?」
「あぁ、ゆっくり寝て疲れを癒してください」
「やったー、いつもの宿屋でいいよね?」
「勿論。先に行って僕達の分の部屋も取っておいてください」
「りょ〜か〜い♪」
「まったく...儂の娘はいつまでも勝手な奴じゃ。まぁ、そこが可愛ええところでもあるがのう」
「私は...羨ましい。私も...あんな風にはしゃぎたい」
「いや...嬢ちゃんもあーなってしまっては儂と坊主だけでは手に負えなくなってしまうわい。只でさえ、孫の制御に苦しんでおると言うのに...」
「まぁ、まぁ。僕は一先ず街を一回りして来ますのでお2人は先に宿へ向かっていて下さい」
「...また例の御仁探しか?」
「えぇ...もしかしたら僕達が居ない間にあの方がこの街にいらっしゃっている可能性はありますから」
10年経って冒険者の地位も向上し、各地に名を馳せる様になってはきたが、依然あの鍛冶屋とは会えずにいた
「この街は冒険者も多いから見分けが難しいけど...」
一通り回って、最後の酒場へ入る少年
まだお昼時で客も少ないお陰で直ぐに全体を確認出来た
「..........今日も、居ないか」
そう言って、少年は宿へ向かおうと踵を返した瞬間だった
隣をあの鍛冶屋が通り過ぎ酒場の奥の席へと座る
あまりの衝撃に全く動けないでいた
.....
しばらくして少年は彼の元へ向かう
徐々に近づくにつれ鼓動が高鳴るのを感じる
そして...
「ん? 何か用かな?」
「.....以前、貴方にこの大剣を打って頂いた最初の客です」
「.....あー、そう言えば居たねぇそんな少年が。それが君か!! いやー、久しぶりだねぇ。流石に10年も経つと全く分からなかったよ。生きていて何よりだ」
「はい...貴方に打って頂いた大剣を今でも使っています。この通り今でも刃毀れ一つしていません」
「流石俺!! ふむふむ、良い感じで成長してるねぇ。感心、感心。で、何の用?」
「はい。実は折り入ってお願いがあってここにやって...」
「てぇへんだー!! 焔の洞窟に住んでる焔竜が目覚めちまったぞー!!」
「なっ、馬鹿な。まだ起きる時期には早い筈...」
「...あー、焔竜ね。前に眠らせたチビか。でも何でそいつが起きたのがマズイんだ?」
「ご存知無いのですか!? 焔竜はこの10年で眠りながら急成長を遂げ、今ではこの街を覆い尽くす程の大きさになっています。息吹一つで街が更地になる程の強敵ですよ!!」
「ふぅーん。そうなんだぁ。まぁ頑張って」
「あの、もし宜しければ一緒に行っては頂けませんか?」
「え、嫌だけど...」
「それはどうして...?」
「俺には関係無いからだよ。だから頑張って」
「そんな...分かりました。では、この大剣で勝利をお見せしましょう。あの焔竜に勝てば僕の冒険者ランクも上がる事でしょう」
「冒険者ランクかぁ、懐かしいねぇ。今はいくつなんだい?」
「僕は今《SS+》ランクを認められています」
「おっ、じゃあ俺が冒険者やってた時の3つ手前じゃん」
「.....やはり貴方があの最強の冒険者だったのですね」
「.....いや、違うよ」
「それは流石に誤魔化せませんよ!? 歴代の冒険者で《SSS+》に到達したのは何処を探してもお一人しかいらっしゃいませんし、焔竜を、それも子竜だとしても眠らせる程の力を持っているのは...」
「.....じゃあ君の用ってそれ絡みなのかい?」
「...はい」
「じゃあ他を当たってくれ。俺はもうそういう事から離れたくて鍛冶屋になったんだ。だから...もういいかい?」
「どうしても駄目ですか?」
「...あぁ」
「分かりました。今回は諦めます?しかし、焔竜を倒した後お話したい事があります」
「どうせ同じ様な内容だろ? だったらお断りだよ。10年前にお前んとこの王様が言ってた件も了承しないからそのつもりでな」
「最強と謳われたあの頃の冒険者様はもういないのですね?」
「あぁ、いない。というか、最初からそんな奴は存在しない。最強はいたかもしれないが、何でも屋の様なそんなお人好しはもういないのさ」
「.....では一つだけ宜しいですか?」
「何だい? 武具を一つ使ってくれってんなら引き受けるが?」
「...手合わせをお願いしたいのです」
「...じゃあ武具は要らないの?」
「はい。僕にはこの大剣だけあれば満足です」
「ふぅーん.....じゃあ少しだけ付き合うよ。俺も最近はモンスターしか相手してないからヒト相手に剣を振るうのは久しぶりだ」
「では...この街の東にモンスターも殆ど出没しない高台があります。そこで...」
「良いけど...君がそんな状態じゃ直ぐに終わっちゃうよ? 恐らく依頼か任務から帰って来たばかりなんだろ? 手負いを相手にする趣味は俺には無いよ」
「分かりました...では焔竜を倒し帰って来たその翌日でお願いします」
「何日掛かることやら...まぁいいや、そのくらいは待っててやるよ。ほれっ、行ってこい!」
「はい!」
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宿屋で一泊後、馬車に揺られながら少年と仲間達は現在、焔竜の棲む洞窟へと向かっていた
「僕達に倒せるのか...?」
「坊主が弱腰でどうするよ!? いつまでもしょげていたんじゃ儂らも不安になってしまうわい」
「焔竜...絶対...倒そう...ね?」
「竜の一匹や二匹私のキックで吹っ飛ばしてやるんだから!!」
「...あぁ、そうだな。4人で必ず焔竜を討とう!!」
「おう!!」「う...ん」「ガッテン!!」
しかし4人のヤル気は削がれることとなる
馬車が急停止したかと思いきや、馬に乗った騎士風の男が前方から向かって来る
「今しがた、焔竜の棲まう洞窟にて焔竜を退けたとの情報が入った!! しかも、其の者はたった一人で焔竜と対峙し拳一つで焔竜を討ち倒し自らの従僕とし何処かへ消えてしまったとの事!! 何か、其の者の情報を持っている者は居ないか!?」
「「「「.....!?」」」」
少年は心当たりが無いわけでは無かったが、黙っておくことにした
馬車を方向転換させ、街に戻る
他の3人はこのヤル気をどうしてくれると言わんばかりに馬車で騒いでいたので、町に戻った際適当な討伐依頼を受け...
「3人で行って来るといいよ。このくらいの相手なら僕が居なくとも大丈夫だと思うから」
「良いのか!? ならば3人で行って来るぞい!!」
ということで少年は3人を見送り酒場へ行くと酒場のマスターが少年を呼ぶ声がする
「あ、君、君! 君に言伝を預かっているよ」
「マスター、それは誰から!?」
「鍛冶屋らしいけど...『分かると思うけどもう俺はここには居ないよ。ゴメンね。また何処かで出会ったら君の願いを叶えてあげるよ』という事なんだけど...」
「...ありがとうございます」
酒場をあとにする少年
「..........しょうがないか。どうしようかな? 3人があの調子なら間に合わないかな」
少年は1人宿屋へ向かい3人を待つのであった
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「焔竜...かなり大きくなったもんだ。でもこのサイズになるまではあと50年はかかると思っていたが...」
《ボクもいつのまにかこんなになっててびっくりしたよ。何年か前にご主人にボクが不眠症で困っていた所を解決して貰った後、何年か経ったある日一瞬チクッとしたんだ。何かと思って辺りを見渡したんだけど誰も居なくて、それからどんどん身体が大きくなっちゃって...しかも最近イライラが収まらなくなってしまって気づいたらご主人が目の前に》
「そのご主人ってのはやめてくれないか? 俺には『ヴァルツ』って名前があるんだ。呼び捨てで構わないからそう呼んでくれ」
《分かったよ、ヴァルツ!》
「それにしても竜を急成長させ凶暴化させる姿なき者、か...温厚な竜族を凶暴化させて何を企んでいるんだ?...まぁ俺が知ったこっちゃねぇが、これ以上竜族に手を出すなら.....話は変わってくる」
鍛冶屋ヴァルツは焔竜の背に乗り空を駆ける
竜族を襲った何者かの存在が気になりかけるもヴァルツは関わり合いをしないと決めたので取り敢えず保留にした
“第一章 壱幕” 完