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犬と私の異世界転移  作者: 白いハル
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プロローグ


 祖母の家の玄関で私は、味噌と醤油を持ってくると言って小屋に消えた祖母を待っていた。

 足元には、私を見上げてお散歩リードをくわえて尻尾を振る柴犬―コテツがいる。


 お日様の祝福を受けたかのようなオレンジの毛皮に、ぴんと尖った三角の耳。そして好奇心いっぱいの光を秘めたこげ茶色のアーモンド形の目と、クルンときつく巻いた尻尾は奥ゆかしくもプリプリと振られ……その全てが、私は由緒正しき柴犬ですと宣言している。唯一柴犬らしくないのは、その十五キロもある体躯だろう。いやゆる巨柴だ。


 私はコテツのくわえているお散歩リードに手を伸ばした。

「今日はお買い物はしないで、そのまま帰るか」

私の言葉にコテツは、尻尾だけではなく尻まで振る勢いで喜びを示した。


 コテツは私が学校に行っている間、祖母の家に預けている。家では両親も共働きのためにコテツが一人きりになっちゃうし、農作業や庭作業をする高齢の祖母の見張り番をコテツがしてくれるならと引き受けてもらっているのだ。


 コテツは賢いからね、祖母になにかあったらちゃんと周囲に知らせるのだよ。


 散歩の嬉しさからか、クルクルと喜びの舞を踊るコテツ。そのコテツをがしっと捕まえて、付けてある赤い革のハーネスにリードを付ける。

 このハーネスは迷子札がついている首輪とお揃いで、先々月の三月に二歳の誕生日をコテツが迎えた時に私が贈った物だ。お年玉の半分が消えたが後悔はしてない。


 コテツはびしっと正しいおすわりをし、まさにお散歩待機の状態だ。やっぱりお散歩は特別なのだろう、普段のおすわりはもっとぐでっと足を崩している。


「アリサー、こんなもんかねえ」

小屋のある庭の方から祖母の声が聞こえる。

 私は背にしたリュックからトートバッグにもなる買い物袋を出すと、そのままコテツを伴って玄関から出た。

 玄関から裏手にある庭へと向かう。

 農機具小屋と漬物小屋を過ぎて、大きな蔵が一つある。その影に寄り添うように、現役の井戸と祖母の出てきた小屋―味噌小屋が。

「味噌漬けするんでしょう?だったらこれくらいないとねえ」

祖母の手には、緑色のタッパがある。蓋にパッキンのついた丈夫なやつで、結構大きい。その中にはびっちりと明るい茶色の味噌が詰まっていた。多分二キロはある。

「うん。昨日、伊勢谷のおッちゃんに姫筍もらってさ。家で湯がいておいたんだけど、味噌漬けの方がパパ好きでしょ。やるしかないかなって」

私はタッパの蓋が閉まっているのを確認すると、祖母から受け取って買い物袋にしまった。


 姫筍は今が旬で、煮物や汁物に入れても美味しい。でも柔らかで上品な身を味醂を混ぜた味噌で一週間ほど漬物にしてしまうと、味噌の風味が移って美味しいのだ。ご飯を持てぃ!と叫びたくなる旬の贅沢品である。


 祖母はころころと笑って、足元に置いていた醤油の入った一升瓶を手にした。

「相変わらずアンタはまめだねえ。直子はアンタに頭が上がらないでしょ。娘にオバアの味を継がせて自分はキャリアウーマン気取ってるんだから。はい、醤油。そろそろなくなるでしょ」

「ありがと。ママは仕事が好きだからね。それにほら、向き不向きってあるから。ママにご飯任せるとコンビニの惣菜だらけになるし、私がやった方が健康的だしね」

醤油を受け取って、これも買い物バックに入れる。

 うん、重たい。


 家は両親が共働きで、しかも二人そろっていわゆる『社畜』だ。私が生まれても仕事に情熱を向け、早十五年。私は祖母に育てられ、今やすっかりこの集落のアイドルになりつつある。幼い頃から祖母についてまわり、祖母のすることに興味を持ち、ついでに集落の横のつながりに可愛がられている。祖母の入っている老人会は『アリサちゃんを愛でる会』という別名があるくらいになっている、らしい。

 実際におすそ分けはよくもらうし、色んなことも教えてもらえている。漬物から田舎料理、籠の編み方や山の入り方。それはもう多岐にわたる。終いには同級生から「俺のじいちゃん、おまえの方が可愛いってよ」と何度も言われてしまった。

 まあその辺が縁で、二年前に猟師をしている川崎のオジジから、生まれたばかりのコテツを譲ってもらったのだが。


「そうそう、アリサ。これ、渡しておくわね」

ふと思い出したかのように、祖母は割烹着のポケットからなにやら取り出した。

 それは小袋に入った白い粉三つと、鶯色の粉二つ。

 白い粉は多分白麹の種で、鶯色のは醤油麹の種……かな?


 麹は生のやつと乾燥のやつに分けられるが、それはあくまでも米や豆、麦に付着した麹だ。スーパーでも見かける。だが祖母が私に渡したこれは、麹菌そのもの―いわゆる種麹というやつで、麹菌だけを集めたやつだ。この小さい小袋ひとつで、確か五キロくらいの麹ができる。

「今の時期に?」

私は受け取りながら首をかしげた。

 どっちも仕込み時期は基本冬だ。実際去年祖母と味噌と醤油は仕込んだし、今の季節あんまり用はない。

 祖母は少し首をかしげ、歳のわりに可愛らしく笑った。

「麹は便利よー。テレビで見たけど、最近は塩麹でお肉を漬け込んだり、甘酒でアンチエイジングとか色々するんだって。余ってたし、アリサもその辺興味出る歳でしょ?それだけあったら何度でも失敗できるからね」

私は祖母の言葉に少し首をすくめた。

 どんだけ失敗させるつもりなんだ、その程度の利用法の中で。

 田舎基準の量の感覚は、一般の感覚を遥かにしのぐ。

「アンチエイジングは私よりオバアじゃん」

とりあえず私はもらった麹を買い物袋に入れた。

 祖母はわりとテレビに影響されやすい。ここで受け取り拒否したら、母に麹のいいところを祖母が説明して、母が私に麹美容法の実践をせっついてくるのが目に見えてる。母はナチュラルっぽいものが好きだけど自力実践できない偽ナチュラリストだし、私が結局面倒なだけだ。ならばとりあえず難色を示さずに受け取っておけばいい。私が実践していなくても、テレビから麹ブームが去れば祖母も何も言わなくなるのだ。


「……甘酒好きじゃないのよねえ」

はふぅとため息混じりに祖母が呟く。

「つぶつぶが微妙だよね」

私はよいしょと買い物袋を肩にかけた。

 にわかにコテツがそわそわしだす。

「ん、そろそろ帰るね。ありがと」

お散歩リードを引っ張り出しそうなコテツを制して、私は祖母に軽く手を振った。

 祖母はにっこりと笑い、しわだらけの手を振った。

「はいはい、じゃあまた明日。気をつけてね。コテちゃんもまた明日ね」

祖母がコテツの頭を軽く撫で、母屋へと向かう。

 私はそれを見届け、自宅へと足を向けた。

 ここから一キロちょい離れた場所に、自宅のある団地がある。いわゆる新興住宅地というやつで、スープのギリギリ冷めない距離に祖母と家は別居をしているのだ。別に同居してたっていいと思うのだが、両親の都合である。


 ちなみに祖母は一人暮らし、そして母方だ。父の両親はそもそも県外にいるのであまり会った事がない上に、どこで聞いたか忘れたがあんまり仲が良くないらしい。

 まあ、私にはあまり関係のない話だと思う。父の実家は叔父さんがすでに継いでるし、孫だっている。私は外孫にあたるので向こうもあまり私に興味がない。女の子だしね。


 コテツはふんふんと道端の匂いを嗅ぎながら進んでいく。

 道端の雑草、電信柱、小石……と、まさに興味は尽きない様子だ。もちろん飼い主として落ちてるマナー違反の干からびたウンコや虫の死骸などからは、リードで合図して遠ざける。


 ふと集落の狭い道を、そよ風が通り過ぎた。

 今は五月の初め。そろそろ冬の制服である紺のブレザーが暑くなってきた。

「微妙な季節だよねー。まだ肌寒い日もあるし、コテツも生え変わり終わってないし」

電柱の匂いを入念にチェックしているコテツの毛を、私はなんとなく手で梳いた。猫の毛かと見紛う毛が指の間にうっすらついてくる。

 家の中で飼う犬は、どうしても毛の生え変わりがすっきり行かない。外飼いの犬ならごそっと固まって抜けるらしいけど、家の子はじりじりと年中生え変わり状態だ。当然家には粘着シートのコロコロが常備されている。

 私は手の中のコテツの毛を風に流した。

 半分白いオレンジ色の毛は、空に向かって吹き上げられていく。


 今日もいい感じに晴れている。

 田んぼの代掻きが終わり、そろそろ田植えだなーと、広がる田んぼを眺めて思った。

 田舎のよくある景色で、ゴールデンウィークを前後して田んぼに水が入り、田植えが行われる。農業に関わりがなかろうと、その景色で季節を知るのは、きっと私だけじゃないはず。


 高校に上がっても、感じることは中学生の頃とさして変わらない。中高一貫教育の学校に行っているからそう思うだけかもだけど。


 ふとコテツが顔を上げて私を見る。

「どしたの、コテツ―ぅッ!?」

一瞬、私の息がひゅっと詰まった。

「―ッひあっ」

そして変な声が出た。

 突然目の前がガクンッと下がり、足元から確かな感触と体を包む重力が消える。

 こける―違う、落ちる!

 なぜだかはっきりとそう分かった。

 リードをぐっと握る。

 コテツが何かに挑むように鼻にしわを寄せて、空に向かって唸って吼える。その体は私と同じように落下していた。


 視界の全てが、真っ黒になる。


 これってよくテレビで芸人さんたちがはまるヤツ……お、落とし穴ですかッ!



☆☆☆


なんか……心地よい。


 ゆっくりとぼやけた頭に、意識が浮上してくる。

 姿勢はうつ伏せ。頬にはふんわりとした芝生のような瑞々しさ。そして耳には清らげな小川のせせらぎと、そよ風の奏でる草木の揺れ動く音。まるでこれはそう―自然の癒し系BGM……

「…………いやいやいや。大自然ってどういうことよ」

うつ伏せの姿勢のまま覚醒した私の目に映った光景に、私は思わず口の中でつぶやいた。というより、ツッコんだ。

 私はがっつりと日本の現役女子高校生だ。あの田舎に生まれ育って約十五年。いくらなんでも目の前に広がるこの光景に出会ったことはない。

 森の畔の聖なる泉と、やたら日当たりのよいキラッキラした淡い色調の花畑。

 それが眼前に広がっていたのだ。

「うわぁ……」

なんか爽やかな甘い良い匂いまでする。


 私は思わず息をつき、体を起こした。寝起きは元々良いほうだし、わりと頭の中もすっきりしてきている。


 赤や黄色、ピンクや白といった花たちが可愛らしく咲き乱れ、空気までもがキラッキラしてそう。空を見上げるとちょうどくり貫いたような青空が木々の間から見え、そこから木漏れ日が差し込んでいる。

 なんというか……少女漫画的な夢の花園っていうか、妖精たちがキャッキャウフフと戯れてそうなロケーションだ。

「すごいな……」

感嘆しかでないとはまさにこのことだろう。

 とりあえず私は立ち上がり、制服のスカートを軽くはたく。紺のニーソックスに軽く草の切れッ端がついている程度で汚れはなかった。


 ちなみに制服は紺のブレザーとエンジのリボンタイ、そしてひざ上のフレアースカートだ。夏服になれば上だけ薄い水色のセーラー服なのに、冬服はブレザー。少し残念感のある制服だと巷では言われている。

 どんだけセーラー服好きが多いんだか……。


 周囲を見渡す。

 背にはリュックの感触。私の倒れていた場所には買い物袋。

 屈んで買い物袋を手にして中身を検めると、緑色のタッパに入った味噌と、醤油の入った一升瓶、それに白と鶯色の粉の入った小袋がいくつか。


「ん……えー、と」

オバァにもらった味噌と醤油だ。後ついでに種麹。

 味噌は姫筍を味噌漬けにするからだし、醤油はそろそろなくなるからもらった。種麹は祖母がテレビに影響されたから……。


 私は周囲をゆっくりもう一度見渡し、首をかしげた。


 確か祖母の家に寄って、コテツを連れてそのまま私は家に帰ろうとして……なぜか落とし穴に落ちた気がする。

 ここはどう見たって落とし穴の底ではない。大自然の秘密の花園みたいなところだ。空を見上げてみても当然穴らしきものなどあるはずもなく、きれいな青空が広がっていた。


 なにやら犬の遠吠えが遠くから聞こえる。ついでに花火が打ちあがっているような音も。


「あ……そういや、コテツは……?」

ふと思い出して右手を見る。右手にはなにもない。何も持っていなかった。

 犬の遠吠えで思い出したわけだが、コテツが周囲にいない。散歩中であれば右手に持っている赤いリードもなかった。

 首を傾げながらも、リュックのポケットに入っている散歩グッズを確かめてみる。

 散歩グッズとは、トイレに流せるポケットティッシュとポリ袋の入ったポーチだ。犬の散歩をすれば、トイレは外派である犬なら当然必要になってくる。


 糞の持ち帰りは飼い主のマナーである!


 まあ、それはともかく。


 ポーチの中は減っていない。ポリ袋も予備を含めて三枚あるし、ティッシュも新しいのを入れたばかりだった。コテツの散歩をしていたなら減ってるはずだし、私が糞を放ったらかしにするはずがない。つまり―


「これは……夢!?」

「アリサー!!」

私が答えを出したその時、私を呼ぶ嬉しそうな男の声がした。

 少し艶を含んだ脂の乗った男盛りなバリトンボイスで、一度聞いたら忘れられないやつだろう。

 私はこの声を知らない。

 だけどその声は私の名を呼んでいて、なにより私に愛着すら持つような響きがある。

 声のした方を見る。 森の暗がりからゆっくりとこちらにやってくる、巨大な獣。

 私は目を見張った。

 それ以外に何ができたというのだろう。息まで一瞬止まった。


 暗がりからやってくる巨大な獣は、まるで日の光に祝福されているかのようなオレンジ色の毛並みをしていた。ぴんと尖った三角の耳は天を突き、クリンと硬く巻いた尻尾は誇らしくも堂々と尻を衆目にさらして―そう、その全てが私のよく知っている柴犬だった。しかも背にうっすらと走る黒毛も、好奇心に輝く釣りあがったアーモンド形の茶色の目も、何もかも見間違うはずもない。

 それはまさしくコテツだった。

 首と胸に付けている真っ赤な首輪とハーネスだって、間違いようのない。祖母の家を出た時の姿そのままだ。

 ただし―私の知っているコテツよりも何倍もでかい。動物園にいる虎やライオンくらいの大きさをしていて、確実に後ろ足で直立したら私より大きいだろう。気のせいかコテツの毛並みがフワフワと陽炎めいている。


 どうしよう、本当にどうしよう。


 コテツのドヤ顔を目にすると、一瞬止まった息がなぜかため息になった。


 なんだかよく分からないけど、胸に湧いてくるのは困惑と、そしてなぜか飼い主としての責任だった。

 コテツが悪さをしたわけではない。

 だけどなぜだか居心地の悪さがお尻の辺りをムズムズとさせる。


「アリサ、目が覚めたんだな」

無駄に格好いい、しかも色気のあるイケメンボイスを発してくるコテツ。

 聞き間違いではない、その声は間違いなくコテツが発しているのだ。


 もう、なんていうか……身悶えを通り過ぎて転げまわりたい。


「どこか痛くはないか?気持ち悪いとかは?」

コテツは私の側まで来ると、以前と変わらぬ目で私を見上げてお座りをする。その目は間違いなくコテツで、私だけを見つめている。そう、飼い主だけを真摯に見つめる、私だけに向けられるコテツの目だ。


 私は自分の心が落ち着いてくるのを感じた。


「大丈夫だよ。それよりコテツはそれ、どうしたの?なんか体、大きいよ。それに喋ってる」

コテツの頬に私は手を伸ばし、いつも通りに撫でる。ふくふくしたほっぺたの感触、柔らかい毛の心地よさはなにも変わっていない。

 コテツは気持ちよさそうに目を細め、私の手に身を預けてきた。

「うん。落とし穴に落ちた時、()()が俺を大きくしたんだ。アリサとも喋れるし、これならアリサを守れるからちょうどいい」

にっこりと犬的にコテツは笑い、嬉しそうにいきなりとんでもないことを言ってきた。

「か、神、さま?」

「うん、神様って言ってた」

つっかえる私に、コテツは深く頷く。

「本当は俺だけ呼んだんだけど、うっかりアリサも一緒に落ちちゃったらしいよ。『ごめんね』って伝えてくれって」

コテツは私の手にうっとりしながら、さらにとんでもないことを言い出した。


 うっかり?

 ごめんね?


 全てのワードが不穏すぎる。

 普段であれば何を熱に浮かされたゲーム脳なことをと一蹴できるのだが、今の状況がそれをさせてくれない。

 周囲を見渡せば、どこの絵画の中だと思わせるキラキラした花畑と泉。さらに日本の山にある杉やヒノキとは違う馬鹿でかい木々に―なぜか巨大化した家の飼い犬。しかもかなりダンディボイスで流暢に喋る。

「ちょ……え、なに?神様が?」

徐々に体が冷えていくのと、頭の中が許容オーバーになるのが分かった。

 コテツが話せたらいいなーとか思ったことはある。でもそれはあくまでも夢物語で、決して現実になるものではない。


 まさか、散歩中に白昼夢でも私は見ているのか?

 成長期や反抗期とかで、心身のバランスを崩した?


「アリサ?」

コテツがこてんと首を傾げて私を見つめ―

「……ッわひゃっ」

思わずびっくりして変な声が出る。

 コテツが私の頬を下から上に舐めたのだ。もうベロンと、大きな舌で。

 私は撫でられた……いや、舐められた頬に手を当てた。

 コテツの舌は生暖かくて、くすぐったかった。

 そう思うと、周囲の草花の匂いが鼻についた。

 匂いがある。

 爽やかで甘いような花と、森林特有のとても現実的な匂い。


 ちょっと生足部分が痒いな……。


「ねえ、コテツ。これって夢?」

聞くと、コテツは耳を前後に動かした。

「夢じゃない。夢は嫌だ、せっかくアリサと喋れるのに。俺はアリサと話したかった。だから神様の言うことを聞いたんだ」

コテツはまっすぐ射抜くような真剣さで、私はひたと見つめた。

「神様の言うこと?」

「うん。俺たちのいた世界じゃないこの世界に行ってくれって。ここにくればアリサと喋れるし、ちゃんと俺がアリサを守れるようにするからって。それに、アリサの作る料理がなんでも食べれるよ!」

コテツはそう言って、今まで見たこともないレベルのドヤ顔をした。

 子供が親に褒めてほしいと報告する時、おそらく今のコテツみたいな顔をするのだろう。

 例えその内容が、とんでもないことだとだとしても。


 私はコテツの顔を見つめたまま、顔が引きつるのを感じた。

「な……なによ、それええぇぇぇ」

私は息を深く吐き出しながら、その場に座り込んだ。

 コテツはそんな私を見ながら、硬く巻いた尻尾をプリプリと振っていた。






よろしくお願いします

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