第96話 毒からの目覚め
あとがきまでご覧いただけると嬉しいです。
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――エリックは優しいから、僕と戦うときに動揺すると思ったんだ。だからこんな簡単に倒せたよ。
俺が膝をついて、目の前の人はそう言った。
うっ……!
――僕は真っ直ぐじゃ生きてこれなかったから。曲がって、ねじれて、腐って生きてきたから。
今まで無表情だった人が、そのときだけ目の中に感情が揺れ動いているのが見えた。
腐って、生きてきた……?
――僕は『目的』のために、君を攻撃できた。君は優先したものが友達だったのかもしれないけど、僕は『目的』が優先だった。
その揺れ動いている感情の中に、確固たる目的があるのを感じた。
目的、ってなんだよ……!
――今まで楽しかったよ。またどこかで会おうね。そのときは、敵同士だけど。
力を失って倒れていく中、最後に悲しそうな笑顔を見た気がした。
本当に、楽しかったのかよ……! それも、嘘じゃねえのかよ!
「エレナ、さん……!」
無意識にそう口にしながら、とても重たい瞼を無理矢理開いていく。
瞼も重いが、頭の方がもっと重く、そして酷く痛む。
頭を直接誰かに殴られているような感覚を持ちながらも、なんとか上体を起こす。
「エリック! 大丈夫か!?」
隣からそんな声が聞こえた。
俺を心配しているだろう声だが、大きすぎてより一層頭が痛んでくる。
「ユリーナ、さん……」
声でもなんとなくわかったが、隣にいる顔を見てそう口にする。
「ああ、私だ。待ってろ、水を持ってくる」
ユリーナさんはそう言ってから、俺から離れていった。
俺は周りを見渡して、まだあまり考えられない頭で頑張って状況を確認してみる。
まず俺が寝転がっていたのは、固いベッドだった。
周りを見る限り、ここは病室のようだ。
王宮の側に、とても大きな病院があると前に説明された覚えがある。
だが、なぜ俺はこの病室に……?
頭が痛すぎて、思い出しそうで思い出せない。
少し狭い病室で、ベッドが三つほどしかない。
俺の隣に一つベッドがあり、そこには今は誰もいない。
おそらくユリーナさんのベッドだろう。
そして俺の前に、もう一つベッドがある。
まだ霞んでいる目を凝らして見ると、そのベッドにはティナがまだ眠っていた。
「ティナ……!」
ここでようやく、今までのことを全てを思い出すことができた。
この王都が襲われていると知り、ビビアナさんと共に戻ってきたこと。
途中まで順調だったが、突如起こった爆発で一気に形勢が逆転してしまったこと。
そして……エレナさんのこと。
そうだ、俺がエレナさんに倒されたあと、どうなった?
俺が倒れた後ろには、ティナがいたはず。
もしかして今目の前で眠っているように見えるティナは、エレナさんに殺されて――!
俺は重い身体を無理矢理でも動かしてティナに近づこうとしたが、
「エリック! 無理をするな!」
戻ってきたユリーナさんに止められた。
起き上がろうとする身体をそっと抑えられる。
ユリーナさんからは少しの力しか感じられないが、それを押し返せないほど俺の身体は動かない。
「ティナは……!?」
「眠っているだけだ、死んではいない。安心しろ」
俺の心配を察してくれたのか、そう答えてくれた。
よかった、本当に……。
安心したからか、力が抜けベッドにもう一度寝転がりそうになるのを我慢する。
「私たち三人は、傷は深くないがずっと目が覚めなかったようだ。丸一日ほど眠っているらしい」
「一日……」
あれから、そんなに眠っていたのか。
「私は、ある人に毒でやられた。おそらくそのせいで、これほどまで眠っていたのだろう」
その言葉で、エレナさんが言っていたことを思い出した。
確か、ユリーナさんも……。
「エリック……お前は、エレナさんにやられたのか?」
「……はい、そうです」
「そうか……じゃあティナもそうなのか」
「おそらく、そうだと思います。
倒れたあとのことはわからないが、俺の後ろで気絶しているティナに傷をつけるぐらいは容易いことだろう。
俺にそう確認すると、ユリーナさんは顔を歪ませて下を向く。
「エレナさんは、何者なのだ? 私が倒れる寸前に、あの人は自分が魔族側だということを口にしていた。あの人は、裏切り者なのか?」
苦しそうに、心の中でずっと思っていたことを吐き出しているユリーナさん。
それは、俺もわからない。
エレナさんが一体今までどういう気持ちで、俺たちと一緒に過ごしてきたのか。
あの屈託の無い笑顔は、全部嘘だったのか。
「エリックは、何か知っているか?」
「……俺は、エレナさんと少し話しました」
「なんと言っていたのだ?」
俺はあの時に聞いたことを、ユリーナさんに話した。
エレナさんは魔族で、この国にはスパイとして来たということ。
疑われないために、騎士団見習いになり三年をかけて騎士団に入団したこと。
今回の急襲のために、情報を流したのはエレナさんだということ。
そして次会うときは、もう敵同士になっていると言っていたこと。
「そうか……」
俺の説明に顔を歪ませながら、最後まで聞いたユリーナさん。
「裏切られたのではなく、最初から味方ではなかったのか……」
今にも涙が零れてしまいそうなユリーナさんに、俺はかける言葉が見当たらない。
おそらく、エレナさんと一番仲が良かったのはユリーナさんだ。
見習いのときから仲良くしてもらっていたらしく、ユリーナさんが尊敬できる数少ない先輩だっただろう。
エレナさんも色んな人と仲が良かったが、ユリーナさんとはとても楽しそうに、一番仲良さそうに話していた。
『楽しそう』、『一番仲良さそう』
断言できないのが、こんなにも苦しいなんて。
「私には兄や弟はいるが、家族に母以外に女性はいなかった。だからか、エレナさんのことを勝手に姉だと思って慕っていた気がするよ。ふふっ、あの人は男性なのだが女性らしいからな。失礼だとは思っていたが……」
微かに口を緩ませてそう言ったユリーナさんだったが、堪えられなかったのか目から涙が零れていた。
「嘘、だったのだな……! 私に向けられた優しさも、笑顔も、全て……!」
絞り出すようにそう吐き出した言葉が、俺とユリーナさん、そしていまだに眠っているティナがいる病室に、虚しく響いた。
前にも言いましたが、新作を出しました。
「憧れへの転生 〜普通の鳥じゃない?〜」
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そちらは毎日投稿をしています。
物語も面白いところに入ってきたので(自分で言うなよ)、よかったらお読みください。
よろしくお願いいたします。




