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第79話 戻りの直後


「イレーネ、必ずもう一度会いに来る」


 私に一言、そう言ってからエリック様は行ってしまいました。


 懇意にさせていただいているベゴニア王国がリンドウ帝国に襲われていると情報が入り、ハルジオン王国に来ているという王子に伝えにここまで来ました。


 クリストファー王子がいつもこちらに来る時は少数の兵士の方と来ていると知っていましたが、まさかエリック様がいらっしゃると思いませんでした。


 フェリクス・グラジオを倒した方の名前を前にお父様に聞いたら、すぐに調べて教えてくれました。


 エリック・アウリン様。

 私や、お父様達の恩人。もはやハルジオン王国を救ってくれたと言っても過言でありません。


 あの方がフェリクスを倒してくれなかったら、この平和な国は崩れていました。


 なのでいつか、エリック様にお会いしてお礼を申し上げたいと思ってましたが、ここでお会いできるなんて……。


「イレーネ様、一つお聞きしても?」


 少しぼうっとしていると、クリストファー王子から話をかけられた。


「は、はい、なんでしょうか」

「イレーネ王女がエリックを知っている理由はなんとなくわかります」


 クリストファー王子はエリック様がフェリクスを倒したということを知っているのでしょう。

 そしてフェリクスがハルジオン王国にとってどのような存在だったかも。


「はい、私達はエリック様にとても感謝しております」

「イレーネ王女はエリックに会ったことはあるのでしょうか?」

「私が、ですか? 先程お会いしたのが初めてです」

「そうですか……」


 王子はそう言ってから何やら考えてこんでしまう。


「どうしてでしょうか?」

「エリックが貴女を知っていたようなんです」

「そうなのですか? ですが、私は王女なので……」


 私の名前は他の国、特にベゴニア王国の人達に知られていると聞いています。

 なのでエリック様が私のことを知っていても、不思議ではないと思いますが……。


「いえ、そういうことを知っていたわけではないようです。どうやらエリックは個人的に貴女を知っていたようです。まるで会ったことあるように」

「えっ……ですが、私は先程初めてお会いしましたが」


 もしかして、昔に会ったことがあるのでしょうか?

 私が覚えていないだけで?

 そんな、それでしたら私はなんて恩知らずな者なのでしょうか……。


「さっきの反応を見る限り、エリックが一方的にイレーネ王女のことを知っているようでしたね」

「そ、そうなのですか?」

「ええ、あいつは貴女にとても会いたがっていましたから」


 エリック様が、私と?

 そんな、私の方こそお会いしたかったです。

 命の恩人と言っても過言ではない人に、とてもお礼が言いたかった。


 だけど、先程の一言。


『イレーネ、必ずもう一度会いに来る』


 あの発言は、確かに前から私のことを知っているような感じでした。


 どこかで会ったことがあったのでしょうか?

 本当にわかりませんが……。


 あの時の目、顔などを思い出すとなんだか私の頰が熱くなってきてしまいます。


 イレーネ、だなんて……。

 私、お父様以外の男の人に呼び捨てで呼ばれることなんて初めてでした。


 いえ、その、嫌だったわけじゃなくて。

 嫌じゃなかったことがなんだか問題な気がして。


『イレーネ、必ずもう一度会いに来る』


 お、思い出しちゃダメです!


「どうしたのですか?」

「い、いえ、なんでもないです」


 自分の顔が赤くなってることを気付かれてしまいました。


 落ち着くために、一回深呼吸をする。


「しかし、クリスト。あいつなんであの王女に『ホの字』なんだ?」

「さあ? あからさまだったよな」

「戻ったらからかってやろうぜ」

「ああ、もちろん。俺もやられたからな、絶対してやる」


 クリストファー王子とお付きの兵士の方が何かを話しています。

 少し聞こえてきましたが、『ほのじ』とはどういった意味でしょうか?


「あの、大丈夫なんでしょうか? リンドウ帝国は一万の軍勢に魔物使いがいます。エリック様ともう一人の方が戻っても、そこまで戦況が変わるのでしょうか?」


 エリック様はフェリクス・グラジオを倒されたのでとても強いということがわかりますが、あの女性はどれだけ強いのか私にはわかりません。

 あの二人が戻っても、戦況がどれだけ覆るのか予想がつきません。


「この中で戻るとしたらあの二人がベストだった。あとは信じて待つしかねえだろうな」


 王子のお付きの人が私の問いに答える。

 乱暴な言い方だけど、とても真面目に考えているようです。


「あの二人ならやれることを全てやってくれるだろう。あの二人が戻って戦況が変わらなかったら――ベゴニア王国は滅ぶ」


 その言葉はとても重く、この場に響きました。


「申し訳ありません。もっと早く私がお伝えできれば……」

「いえ、本来なら私達は王国の危機も知らずにのうのうと旅をしてしまうところでした。イレーネ王女のお陰で王国の危機を知り、手を打つことができたのです。とても感謝しております」


 私が後悔しているところに、王子が笑顔でそう言ってくれました。

 とても優しい方だとわかり、こんな方が王子であるベゴニア王国は滅ぶべきではないと思います。



「ねえ、あんた王女様なの?」


 突如、後ろから声をかけられました。

 そちらを向くと、私と同い年くらいの女性が立っていました。


「はい、そうです」

「そうなんだ。あんたと話したいことあったんだよね」


 あまり同年代の女性とお話ししたことがない私ですが、こんな口調で言い寄られると少しムッとしてしまいます。


「貴女様はどなたでしょうか? 私は少しお忙しいので手短にお願いします」


 少し言い返すようにそう言ってしまいましたが、彼女の次の言葉に驚愕しました。


「あたしはニーナ。フェリクス・グラジオの妹よ」



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