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第75話 王都へ?


 朝日が昇り、俺とニーナはそれぞれの家に戻った。

 ニーナの家は元々フェリクスが住んでいた家らしい。今はフェリクスの家族もいないので、一人でそこを借りて住んでいるようだ。


 俺が家に戻ると、ビビアナさん以外は起きていた。

 彼女はベッドの布団を暑かったのか退かして、シャツも少し捲れてお腹が見えている。


「エリック、おはよう。大丈夫だったか?」


 戻ってくるなりクリストが俺にそう問いかけてくる。

 おそらく俺がいない理由をリベルトさんに聞いたのだろう。


「おはようクリスト。ああ、特に問題ない」

「そうか、お前が襲われたと聞いて肝を冷やしたぜ」

「王子様はぐっすり眠っていたようで」


 俺が襲われている間も眠っていて気づかなかったクリストに嫌味のようにそう言うと、ばつが悪そうにほおを人差し指でかいた。


「普通、殺気を感じ取って起きられないだろ」

「まあそうかもな」


 俺は殺気を向けられたし、それに腹に股がられたからわかったが、ただ殺気を感じ取って起きたリベルトさんの方が凄い気がするな。


「ん? なんだお前ら、こっち見て」


 俺と同じことを思ったのか、クリストもリベルトさんの方を見ていた。


「いや、何も」

「そろそろビビアナを起こそうぜ」

「誤魔化すの下手かお前ら」


 リベルトさんの問いかけを適当に流しながら、ビビアナさんを起こす。



 そして俺達は出発する準備をした。

 ビビアナさんは寝起きは使い物にならないので、放って置いて三人でほとんど準備し終えた。


 外の馬小屋に行き、馬を出していると集落の人達が近づいてきた。


「もう行くのですか?」

「まだ恩返しが出来ていないのですが……」


 なかなか住人達は律儀な人が多いようで、恩を返すことを考えてくれていたようだ。


「私達はたまたま通りかかって、助ける力があったので助けただけです。そこまで恩を感じることはありませんよ。それにもう情報などを貰ったので、それで十分です」


 クリストがそう説明して住民達を納得させる。

 住民達は最初は不満そうにしていたが、また来ると約束すると引き下がってくれた。

 この後、俺達は王都に行って何日か滞在した後帰るので、おそらく帰り道にまたこの集落に寄れるのだ。


「今度はもっと豪勢な食事を用意しますので、どうかお寄りください」

「はい、お言葉に甘えて」


 長とクリストが握手をしながらそう言っているのを、馬と車を繋げて馬車の用意が終わり眺めていると、服の裾を引っ張られる。

 そちらを見ると、ニーナが服を引っ張っていた。

 村にいた頃のティナを思い出すような光景だったが、ニーナの方が身長が高いからなんか変な感じだ。


「おはようニーナ。よく眠れたか?」

「眠れるわけないわ。襲撃して、襲撃した相手とずっと話してたんだから」

「だろうな」


 ニーナは手を口に覆うが、欠伸を隠しきれていない。


 ビビアナさんとリベルトさんが俺達を警戒して見ていたが、目配せをして大丈夫だと伝える。


「もう行くの?」

「ああ、俺達は旅人だからな」

「まだそういう設定なんだね」

「設定って言うな」


 こいつは何故か俺達が旅人ではないと気づいているようだ。


「兄さんを殺した奴が、ただの旅人なわけないでしょ」

「そうか、それで気づいたのか」

「いや、その前に気づいてたけど、確信を持ったのはそれが理由だわ」


 そういえば昨日、クリストが旅人だと説明していた時に嘘って見抜いてたな。


「どこに行くの?」

「この国の王都に行く」

「そう……」


 ニーナは俺達の行き先を聞いて下を向いた。

 王都の地下街に住んでいたから、少し思うところがあるのだろう。


「人族のあんた達が王都に行く理由は、王都の様子を見るため?」

「まあ、正解だな」

「あたしも兄さんと一緒に旅をして色んな所を見て回ったからなんとなくわかるけど……王都に行ったら、表だけじゃなくて裏も見て欲しい」


 彼女は少し震えた声でそう言った。

 裏、ということは地下街なども見てくれということだ。


「裏も見て、何を感じたかあたしに教えて。戻ってくるんでしょ?」

「ああ、多分な」

「じゃあその時に教えてくれたらいいわ」


 俺達はその国の色んなところを見て、クリストが王子として何かを学ぶというのが目的だ。

 クリストが学ぶと同時に、俺もその時に何かを感じることができるだろう。


「わかった、約束する」


 しっかりと目を合わせてそう言うと、ニーナは満足そうに微笑んだ。



 俺達が話し終えると、クリストも長や住人達と話し終えたようで、出発することになった。


 最初は俺が御者をやるので前の御者席に乗り、三人が後ろに乗る。

 三人が乗ったことを確認すると、住民達が「ありがとうございました!」などと言って頭を下げてくる。


 俺も軽く会釈をしながら馬車を動かそうとした時。


 目の前から馬に乗った集団が来ているのが見えた。

 その数はまだ遠くだからわからないが、二十人以上はいるようだ。


「なんだ、あれ?」


 俺がそう言うと、後ろから頭を出して前の集団を見たリベルトさんが顔を歪ませる。


「武装しているな。また襲いにきたのか?」


 リベルトさんは馬車から降りて戦闘の準備をしようとする。

 俺も御者の席から降りて、剣の柄に手を置く。


「大丈夫よ」


 ニーナがリベルトさんの後ろからそう言っているのが聞こえた。


「あ? 何がだ?」

「あたしの守護魔法が張ってあるわ。この集落には絶対に入れない」

「そうなのか?」

「内側から出ることはできるけど、外側から入ることは至難よ。あたし以上の魔力を持っている人じゃないと無理だわ」


 確かにニーナの魔力はとても強力で、それを破るのは困難だろう。


「あれは……?」


 その集団が近づいてきて、格好などが見えてくると長が驚愕の声をあげた。


「どうしたんですか? あの集団に見覚えがあるのですか?」


 クリストがそう問いかけると、長はもう一度しっかりと集団を見てから答える。


「あの鎧を見る限り、王国の兵士だと思われます」

「王国の兵士? 本当ですか?」

「はい、あの鎧は王国の兵士が着ているものです」


 俺もよーく見てみると、確かに関所で見た兵士達があんな格好だった気がする。


「おそらくこちらの集落に向かって来ていますが、何か心当たりが?」

「今現在王都の兵士は周辺を回って、集落や村の安全を確認していると聞いたことがあります。おそらくそれでしょう」


 フェリクスが死んでから治安が悪くなったので、それを治めるために兵士が動いているということか。



 ――っ!?


 王国の兵士の集団、俺がそれを眺めているとあることに気づく。


 心が震える、身体が震える。

 あの集団がなんなのか、何を目的に来たのか俺にとってどうでもよくなった。


 ああ、まちがい、ない……。


 見間違うはずがない。

 俺が彼女の顔を忘れることなんて、ありえない。


 あの集団の中。

 一人、たった一人武装をしていない女性がいる。


 前世からこちらの世界に生まれ変わって。

 一番、この世で会いたいと願った女性。



 ――イレーネ・ハルジオンが、そこにいた。




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