第67話 優しさ
遅くなり申し訳ありません。
現実世界が少し忙しかったです。
ハルジオン王国に入国して一時間ほど。
俺達はまだ草原の中、馬車を走らせていた。
ハルジオン王国は王都以外はほとんど村や集落で、部族みたいなもので固まっている。
集落によって数は違うが、多いところでは数万の人が固まって住んでいる。
魔族は前にフェリクス・グラジオも言っていたが、弱肉強食という考え方をする奴がほとんど。
色んな集落があるが、戦って勝ち残っている集落ばかり。弱い集落は他のところに滅ぼされてしまう。
それを数十年前に、ほとんどの集落などを従えて国にしたのがセレドニア・ハルジオンだ。
数百万もの人が住んでいる、王都ハルジオン。
その周りに虎視眈眈とセレドニア国王の首を狙っている集落の人達がいる、というのがハルジオン王国だ。
関所を通り過ぎて道なりに五時間ほどで王都に着く。
まだまだ結構先だ。
「あんまり集落が見つからないな」
クリストが馬車の中で周りを見渡しながら言う。
俺も御者をやりながら見渡すが、草原が続いていて集落の影はない。
「ここまで来たら集落の一つぐらいあった気がするんだけどな」
前にこの国に来た時のことを覚えているらしい。
「魔族の集落は結構移動するからな。同じ場所に一年もいやしない」
「そうなのか?」
「ああ、俺も何度か魔族の集落に行ったことあるからわかる」
リベルトさんが馬車の中で寝転がりながら答えた。
よくめっちゃ揺れているその中で寝転がれると思うよ。背中痛くねえのかな。
「私は何気に魔族の国初めてなんだよねー」
「そうなんですか?」
「そうだよー、副団長ってあんまり外での任務ってないしね。最近は書類仕事ばっかりで嫌になっちゃうよ」
「超同感。書類仕事は団長だけやってろって思う」
騎士団と魔法騎士団の副団長二人が愚痴を言っている。
やはりそういう仕事は大変なんだろうな。二人とも書類仕事とか向いてなさそうだし。
そしてその後も馬車を道に沿って走らせると、一つの集落が見えてきた。
クリストが覚えてる限り、あんなところに集落はなかったらしい。
王都までの道を完全に塞ぐように集落が作られている。
「というかあれって……」
まだその集落は遠くで、鮮明に見えるわけではないが。
「襲われているな」
リベルトさんがそう断言する。
俺も同意見だ、あの様子は確実に襲われている。
「まじか? いや、まずここから見えるのか?」
「私も見えなーい」
クリストとビビアナさんは目を凝らして見ようとしているがあんまり見えないようだ。
「俺とエリックは近接戦闘に慣れているから目が良いんだよ。クリストにもこのくらい見えるようになって欲しいがな」
「いやいや、半分寝ながら魔物の大群を倒すお前らと一緒にしないで欲しい」
あれは目の良さはあんまり関係なくて、ただ戦闘の勘が鋭いってだけだと思うぞ。
「しかしどうする。道をほとんど塞がられていて、その塞いでる集落は襲われている。めんどくさいことこの上ないな」
「なあリベルト。あそこで戦ってるんだよな? だったら今の内に迂回すればいいんじゃないか?」
「そうするのが一番良いか。あとクリスト、あれは戦いじゃないぞ」
「え? 戦ってるんじゃないのか?」
「襲われているって言ったろ?」
そう、あれは戦いではない。
「一方的な殺しに近いな、あれは」
「っ! そう、なのか」
俺とリベルトさんが見えている光景はほぼ同じと思う。
完全に武装した奴らが、何も抵抗できない人達を切り殺している。
恐らく、あそこの集落に住んでいる人達が襲われている側だろう。
魔族にも弱い人はもちろんいる。
そういう人達にとって、セレドニア国王は救世主なのだ。
王都に住んでいれば国王がいるから、戦いは起きない。
しかし、王都にも住む人の数に限度があるだろう。
そういう人達は王都の外に住むしかない。
そして戦いを好まない、弱い人達がいる集落は、狙われてしまうのだ。
「まあまだこっちには気付かれてないし、迂回するなら今しかねえだろうな」
リベルトさんが集落の様子を見ながらそう言うが、クリストは迷っている。
普通に考えればここは迂回した方がいい。
俺達があの戦いに巻き込まれても特に得るものは無いし、普通に危険である。
王子の護衛となれば、なおさら巻き込まれないように行動するべきだ。
しかし、その王子が迂回しようかどうかを迷っている。
「どうするんだクリスト。今回の旅の主役はお前だ。俺達はただの護衛で、お前がこの国を見て学ばないといけないんだ」
リベルトさんがクリストに厳しい口調でそう言う。
今回のリーダーは副団長のリベルトさんやビビアナさんではなく、クリストだ。
俺達はクリストの指示に従う。
「くっ……!」
クリストは集落の様子を見る。さっきまでクリストには見えなかったが、今はもう少し近づいているから多少見えるだろう。
集落では今もなお、一方的な殺しが行われている。
クリストはその様子を見て悲痛な面持ちになっている。
そして、クリストは一度顔を伏せ、どうするかを決めたかのように顔をあげて言う。
「……迂回を――」
「助けに行くか、クリスト」
その言葉を遮って俺は告げた。
「は、はぁ? いや、迂回を……」
「そんな顔で指示されても従えねえよ」
とても悔しそうな、絶対に後悔するって顔だったぞ。
クリストは多分、俺達の安全を考えたんだろう。
もしあれを助けに行って、敵の方が強かったら。そう考えて、あの集落を見捨てようとしたのだ。
お前は優しい奴だよ、クリスト。前世から全く変わらない。
困ってる奴を見ると助けないと気が済まない。人のために自分を犠牲にできる奴だ。
だからこそ、俺はお前に助けられて、俺とお前は親友になったんだ。
「助けたいんだろ? じゃあ助けに行くぞ」
「……っ!」
その優しさが、お前の良いところだ。
俺はそういうところが好きなんだ。
だから、その優しさを捨てさせないように、俺が行動しないとな。
「ほら、指示をくれよクリスト王子」
俺は御者の席から降りる。
ここからなら全力で走った方が、馬車より速くあそこに着くだろう。
「はぁ、仕方ねえな」
ため息をつきながら馬車の中からリベルトさんが降りてくる。
「俺とエリックで十分だ。ビビアナは御者を代わりにやれ」
「はーい」
「お前ら……!」
馬車で立ち上がっているクリストは俺達の行動を目を見開いて見ていた。
しかし、次の瞬間にはフッと笑い。
「ありがとな、エリック」
「それは任務を遂行してから聞きたい言葉だな」
「そうだな。エリック、リベルト! あの集落を助けてこい!」
さっきまで迷っていたとは思えない、堂々とした立ち振る舞いで俺達に指示を出した。
「わかった!」
「任せろ」
俺の親友の優しさを守るために、絶対に助けないといけない。
クリストの指示によっていつもより自分を奮い立たせ、あの村へと助けるために駆けた。




