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第55話 王子


 おっさんが訓練でヘマ……というか、俺が一対一で頭に一発入れてしまったからなのだが。

 まあ俺も悪いが、集中してなかったおっさんも悪い。


 昨日と同じような訓練をして、一度部屋へと行きシャワーを浴びる。

 ここでは急がないといけないので同居人と一緒に浴びることを推奨されている。


 昨日はユリーナさんとだったからさすがに一緒に入らなかったが、今日は一応……おそらく、同性なので、一緒に入った。

 いや、もう男ってわかってるんだけどね。


 そしてその後は各自、自分の仕事へと移っていく。

 俺の今日の仕事はまだ伝えられてない。これからイェレさんの元に行かないといけないのだ。


「じゃあ僕は街の見回りだから」

「わかりました、じゃあこれで」

「うん、初めての仕事頑張ってね」


 そう言ってエレナさんに笑顔で見送られると、とてもやる気が出る。

 結婚して妻のために仕事を頑張る夫ってこんな気持ちなんだろうなー、とか考えてしまう。


 そして俺はイェレさんがいると思われる執務室へと向かった。

 そこへ着き、ドアをノックする。中から声が聞こえ、入っていいと許可があったので「失礼します」と言ってドアを開ける。


 ドアを開けて真正面に綺麗で高級そうな机があった。そこでまたも少し高価そうな椅子に腰掛けているイェレさんがいた。

 机に置いてある書類に何か書いていて、まだこちらを見ない。


 しかしすぐにその書類が片付いたのか、パッとすぐに顔をあげる。


「お待たせしました、エリック君」

「いえ。それで、自分の仕事はなんでしょうか?」


 俺がそう尋ねると、イェレさんは少し言いづらそうにしながらも答える。


「ええ、内容なんですが、王子の護衛というものです」

「はっ? ご、護衛? 王子の?」

「そうです」


 イェレさんは淡々とそう言ったが、俺は突然のことすぎて驚愕してしまう。


 なんで俺なんかに王子の護衛の仕事を?

 王子って、王子だよな?

 王様の子供、だよな?


 王様、レオ陛下の……まさか。


「レオ陛下のご指名です」


 やっぱりか! あの人ならやると思った!


 たった一時間しか会っていないが、こういうことやりそうな性格だと思った。


「自分でいいんですか? そんな、大事な仕事を」

「私もさすがに反対したのですが、陛下のご命令とあれば私が言えることはあまりなく……すいません」


 どうやらイェレさんの反対を押し通してレオ陛下が俺を指名したらしい。


 まじか……適当な人だと思っていたが、これは適当で済まされることか?


「なんでも自分の息子、つまり王子とエリック君が同い年だから、話が合うのではないかという理由です」

「やっぱり適当ですね、レオ陛下」

「エリック君、不敬ですよ……私もそう思わざるを得ないですが」

「イェレさんも不敬ですね」

「お互いに黙っておきましょう」


 そう言って顔を見合わせて頷く。

 というか、レオ陛下なら直接言っても笑って許してくれそうだけどな。


「私ももちろん同行します。今日の仕事は私と二人で王子の護衛となります」

「わかりました」

「初日から少し特殊な仕事ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そして俺とイェレさんは執務室から出て、王宮へと向かう。

 今回は二人なので馬車ではなく普通に馬に乗って移動する。


「エリック君、乗馬はできますか?」

「問題ないです」


 村では少ししかやらなかったが、前世では結構やったことある。

 久しぶりに乗ったから少し緊張したが、しっかりと出来たから安心した。


 そして王宮へ着き、デカイ扉から中に入る。見たのは三度目だが、まだこの大きさに慣れない。


 イェレさんの後ろをついて行くと、昨日と同じ部屋にたどり着く。


「陛下、いらっしゃいますか?」

「いるぞ」

「イェレミアス・アスタラです。それと……」


 チラッとこちらを見られて、その意図を汲み取る。


「エリック・アウリンです」

「うむ、お前らか。入っていいぞ」

「失礼します」


 イェレさんが扉を開けて中に入る。俺も「失礼します」と言ってから後に続く。


「よく来たイェレ、そしてエリックよ」

「お待たせしてしまい申し訳ありません」

「いや、それくらい大丈夫だ。しかも肝心なあいつが来てないしな」


 あいつって……ああ、王子のことか?

 王子の護衛として来たはずなのに、その本人がいないなんてことはありえないだろう。


「すぐ来る、今メイドが呼びに行ってるところだ」

「そうですか。それで陛下、まだ今日の護衛内容を聞いていないのですが」


 えっ? イェレさんも聞いてなかったの?


「ああ、そういえば言ってなかったか?」

「言ってません。『その時に言った方がサプライズ性があるだろ?』と、陛下が」

「そんなこと言ったか?」

「はっきりと」


 自分でも覚えてないのかよ、適当すぎるだろ。


「ああ、なんか言った覚えあるな。すまん、忘れていた」

「いえ、いつものことなので」


 ああ、やっぱりいつもなのか。

 ボケているわけではないんだよな……?


「今日はあいつが久しぶりに魔物を狩りたいと言ってな。それの護衛をエリックに頼みたいのだ」

「魔物狩りですか?」


 一国の王子が魔物の狩りなんてするのか?

 あー、だけどレオ陛下も握手した時に剣をやっていた手をしていたんだよな。

 暇潰し、って感じでやっていた手ではなかったぞ、あれは。


「この国を守っているのは我が騎士団だ。その者達への感謝を忘れないよう、我が国の王族の男として生まれた者には騎士団に匹敵する訓練をさせている。護衛といっても、あいつは結構強い。そこまで難しく考えないでいいだろう」

「は、はい、わかりました」


 レオ陛下が剣をやっていたのはそういう理由か。

 というか、凄い王族だな。騎士団への感謝を忘れないように同じぐらいの訓練をするって。


「というか、なんでイェレも来たんだ?」

「私も同行しようと思ったのですが」

「いらん、エリックだけで十分だ」

「わかりました」

「えっ?」


 話がポンポンと進みすぎてよくわからなかったが、今俺にとってダメなことが決まらなかったか?


「あいつももう十六だ。本来なら護衛もいらないくらいだ」

「それは王族としてどうかと思いますが」

「エリックが同い年だから仕方なくつけてやろうと思ったのだ」

「お、俺一人ですか?」

「ああ、任せたぞ」


 話の内容がわかって確認のために問いかけたが、やはり俺一人で護衛することになっていた。

 俺、護衛なんてやったことないから慣れてないのだが、危なくなったら助ければいいんだよな?


 俺が不安になって考えこんでいると、扉の外から声が聞こえた。


「陛下、お待たせしました。王子のご準備が終わりました」

「ご苦労、入れ」


 レオ陛下がそう言うと、扉が開く。

 昨日レオ陛下と言い合いみたいなものをしていたメイドさんが先に入ってきて、その後に続き男の人が入ってきた。


 おそらくその人が王子なのだろう。

 もう少し服が豪華だと思っていたのだが、狩りに行くから結構身軽で地味な格好をしている。

 革の鎧に黒っぽいマントを羽織っている。


 しかし――俺が一番気になったところは服装ではなく、その顔だった。


 はっ……? ちょっと、待て……嘘だろ?


 俺の記憶にある顔とは少し違う。

 だが――見間違えるはずがない。



「紹介しようエリック、こいつは俺のバカ息子――クリストファー・レオ・ベゴニアだ」



 ベゴニア王国の王子は、俺の親友――クリストだった。



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