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第21話 夢


 俺たちは――ある街で宿を取っていた。


 そこはいつも俺たちが取っていた宿より少し高級であり、防音がしっかりしている宿であった。


 そこのベッドで、俺と彼女は隣に座って話していた。


「私は……魔族なのです」


 彼女は俺の顔見ずに、泣きそうな顔で俺にそう告げた。


「すいません、今まで黙っていて……貴方に嫌われることを考えてしまったら、言い出せなくて……」


 彼女の身体は少し震えている。

 俺に話があると言ってから、この宿に来るまでもずっと不安そうにしていた。


「私は魔族のハルジオン王国……今はグラジオ王国という名前に変わっていますが、そこの元王女です」

「新たな王、フェリクス・グラジオという方が王位に就いた際に、私はその方へ嫁ぐという約束がありました……しかし、そのフェリクスという方はとても好戦的で、元国王の父とは全く違う考え方をしておりました」


 彼女はその時のことを思い出して涙ながらに語る。


「私はその方に嫁ぐのが嫌で、逃げてきたのです……その時に私を逃がしてくれたお父様やお母様、メイドや執事が……フェリクスに、殺されたのです……」


 口を押さえ、涙を流しくぐもった声になりながらも彼女は話す。


「私は命からがら、国から逃げ出しましたが……生きる意味が、見当たりませんでした……」

「私の命は、家族に、皆んなに助けられたので、今まで生きてきましたが……何度も死にたいと、思いました」


「だけど――」


 ここで顔を上げて、頰を濡らしたまま隣にいる俺の顔を見上げる。


「――貴方に会えて……生きる、楽しさ……生きる意味が見つかりました」


 彼女は俺の胸に身体を預けて、顔を埋めて涙声で言う。


「貴方を、愛しています……! こんな、魔族の私でも……貴方の側にいることは、出来るでしょうか?」


 その愛の言葉は、子供が「見捨てないで」と泣いて懇願するような必死さを感じる。


 俺は彼女の肩を優しく抱いて、安心させるように優しく話す。


「俺は……君が魔族だってことは、知っていたよ」

「えっ……?」


 俺の言葉に顔を上げて見つめてくる彼女を、俺も見つめ返す。


「前に魔物との戦いの時に、君の目が赤くなっているのを見た」

「そう、だったんですか……」

「だから、君が魔族なことは俺には問題じゃない。君はずっと、俺が大好きな――愛しているイレーネ・ハルジオンだよ」


 彼女の目を真っ直ぐと見て、頰に流れる涙を指で拭ってあげる。


「エリック様……!」


 イレーネは感極まったように俺の背中に手を回して、強く抱きしめてくる。

 俺もそれに彼女の身体を強く、離さないように抱きしめる。


「貴方に会えて良かった……! 本当に、良かった……!」

「俺も、イレーネと出会えて良かった……俺も生きる意味を失っていた。だからもう――君を失わない、必ず護る」


 彼女は一度抱きしめる強さを緩めて、俺の目を見つめてくる。

 その顔はとても綺麗で、とても魅力的に俺の目に映る。

 潤んだ瞳で見つめられ、彼女が求めていること――そして俺も求めていることのために、顔を近づける。


「エリックさま……」

「イレーネ……」


 俺とイレーネの顔の距離は近づいていき――。



「んあっ……?」


 何故か眩しいと感じた俺は――目を開けた。


 重いまぶたをまた閉じないように、何度か目をパチパチとまばたきする。


 あれ……ここどこだ……?

 さっきまで俺はイレーネと宿で……。


 そこまで考えて、俺はあれが夢だったと気づいた。


 そして上体を起こして周りを見渡すと、俺は自分の家の部屋のベッドで寝ていたということが分かった。


 えっと……何でこんな身体が重いんだっけ?

 そんなに訓練頑張ったんだっけ?


 俺は記憶を探り……フェリクスという男と戦っていたことを思い出す。


 そうだった……俺はあいつと戦って、勝ったんだ。


 そしてその後すぐに気絶してしまって、今まで寝ていたということか……。


 眩しいと感じたのは俺の部屋に日が入っていたからだ。


 俺は久しぶりに見た夢の内容を思い出し、懐かしい気持ちになる。


 あの夢は俺が前世で、初めてイレーネとキスをした時だった。

 ……ってかあそこまで見せたならキスまでさせろよ!


 俺は夢に少しの怒りを覚えたが――ふと思い出す。


 もう、あの前世とは違う未来になったということに。


 前世ではフェリクスが王になり、結婚を迫ってきたのをイレーネが逃げて、それで俺と出会ったのだ。


 しかし――フェリクスは死んだのだ。

 つまり、イレーネは国を逃げる必要は無くなり、俺とイレーネが出会うという未来は無くなったのだ。


 ……俺はそれに少し、いや、相当な寂しさを感じながらも、これでいいんだと自分を納得させる。

 イレーネがあの悲しい涙を流した理由を、俺は取り除いたのだ。


 それによって俺とイレーネが出会えなくなっても、後悔は……ない。


 いや、強がるのはやめよう。本当はめちゃくちゃある。


 イレーネと会えなくなるなんて、絶対に嫌だ。


 だが、フェリクスを殺したことによってイレーネと俺は出会えなくなるのではなく、あの出会いがなくなるだけだ。


 俺はイレーネがハルジオン王国という国にいるということは知っているし、会えなくなったなんてことはない。


 絶対に会いに行く。

 俺はイレーネを、愛しているのだから。



 ――????side――


 私は今、とても気持ちが沈んでおります……。


 王宮の自室のベッドで寝っ転がり、ふて寝のようなものをしています。

 王族としてありまじき行為だと理解しておりますが……そんなことをして気を紛らさないとやってられません。


 何故なら私は……嫌いな殿方と結婚しないといけなくなりました。


 そのお方はお父様の次に王位に就くとされている方で、とても強い方です。


 現国王のお父様と決闘場で一対一をして、軽く勝利をするほどでした。

 この国で一番強い……いや、一番強かったお父様にそんな簡単に勝てる人がこの世にいるとは私は思いもしませんでした。


 そしてそのお方が王位に就く時に、私がその方に嫁がなければいけないのです……。


 とても強いということは認めますが、私とは性格がとても合いません。絶無です。


 あの方は何故あんなに好戦的なのかわかりません。

 お父様やお母様の考えは友好的にいろんな国の人と交流していきたいというものだったのですが、それはあまり結果は出ていませんでした……。


 しかし、私はそれが良かったのです。

 血なんか流さなくても、生きていけるという考えがとても好きでした。


 だけどあの方が王になると同時に、いろんな国を堕としに行くと宣言しています。


 そんな方に嫁ぐなど我慢なりません……!


 そう思ってため息をつきベッドに寝っ転がっていると、扉を叩かれる音が聞こえてきた。


「……はい」


 私はベッドから上体を起こして、気怠げに返事をする。


「……私だ、愛しの娘よ」

「お父様!?」


 扉の外から、低く威厳ある声が聞こえてきた。

 お父様だと気づいて私はベッドを飛び降りる。

 全身を見れる鏡の前に立ち、シワがついた服を手で伸ばし、髪を整える。


「ど、どうぞ、お父様」


 慌てて準備をして、一息入れてから声をかける。


 すると扉が開いてお父様が入ってくる。


「すまないな、いきなり来てしまって」

「いいえ、大丈夫です」

 

 お父様は最近何か考え事が増えたのか、少し老けて見えてきてしまっています。

 それもこれもあの方のせい……!


「お父様、何かご用でしょうか?」

「ああ……いきなり言われても、信じられない話かと思うが……」


 お父様は少し躊躇いながらも私に衝撃の事実を伝えた。


「――フェリクスが、死んだ」


「……えっ?」


 私はお父様の言葉を理解するのに、少しかかってしまいました。

 そして理解しても、その事実は本当か疑ってしまいます。


「フェリクス、様が……? どうして……?」


 お父様より強いお方が死ぬなんて、一体何が……?

 もしかして、急な病か何かで?


「フェリクスがベゴニア王国を堕とすために、拠点にしようとした村があったのだが……そこに住んでいた青年に倒されたのだ」


 あのフェリクス様が……人族の少年に、倒された……?

 にわかには信じられない話です……!


「死体は持ち帰ることは出来ないらしいが、死んだことは確認されている……私も信じられない話だが、事実だ」


 まさか……! 思ってみませんでした……!

 あの方が死ぬなんて……!


「……すまなかったな、イレーネ」


 私がその事実に驚き、戸惑っているとお父様はなぜか私に謝ってきた。


「えっ……な、何がでしょうか、お父様」

「お前を……私は守れなかった。フェリクスに負け、お前との結婚を認めさせられ、何も出来なかった私をお前は恨んでもおかしくない」

「そんな……! 私、お父様を恨んだことなど一瞬もありません!」


 お父様は私のために勝ち目がなく、死ぬかもしれないのに迷わず戦いに挑みました。

 そんなお父様を、恨むなんて……!


「言い訳をするようで悪いが……お前が逃げたいと願っていたのを知って、私たちはお前を逃がすために計画を立てていた」

「えっ……初めて、聞きました」

「死ぬのを全員が覚悟しての計画だからな。お前に知られたら絶対にお前は逃げないで、私たちのために結婚をするだろうと思ったからだ」


 お父様は近づいてきて、私の頭を撫でて胸に抱き寄せるようにした。


「お前に辛い目を合わせた……すまなかった。もう大丈夫だ。あいつは死んだのだ」

「っ! おとう、さま……!」


 私は抱き寄せられて今まで溜めていた不安や辛さが無くなると実感することができ、思わず涙が出てくる。 


「よかった、です……! お父様や、お母様……皆んなとまだ、一緒に暮らせます……!」

「ああ……そうだな。お前が離れたいと思う日まで、私たちはお前の側にいるぞ」


 私は我慢出来ずに涙を流し続けた――。



 私の涙がやっと止まり、お父様の胸から離れる。


「その村の青年に、感謝しないといけないな……間接的にとはいえ、私たちはあの青年に救われたのだ」


 そうでした……フェリクス様を倒したお方がいるお陰で、私たちは救われたのです。


「その青年の名前はなんていうのでしょうか?」

「知らないな……私の部下に調べさせよう」

「もし会えたらお礼を申し上げたいです……」


 まだ名前も顔も知らない、とてもお強いお方に……私は感謝してもしきれないほどの気持ちをいつか必ず届けようと思いました。



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[良い点] フェリクス死んだら喜ばれまくるなんて可哀想すぎるw
[一言] フェリクス・グラジオはどこかの国を落とせば魔王になれるという言葉はどこから来たんだろう 所属してる国の王は好戦的ではない…… もちろん軍部なんだろうけど
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