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第105話 裏が取れない


 エリック君とティアさんが出て行ってから、私の執務室に二人が残った。


「で、あのエリックは使えるの?」


 アンネは私にそう問いかけてくる。


「はい、彼は強いですから」

「へー、別に辞めたければ辞めさせた方がいいんじゃないかしら? 覚悟が無い者がいても、足手まといになるわ」

「別にあいつは覚悟がねえわけじゃねえよ」


 リベルトは壁に背を預けながらそう言った。


「ただ俺らと違う覚悟をしていて、それに従って退団をするってことになっただけだ」

「へー、どういった覚悟なの?」

「イェレ、説明してやれ」


 リベルトはめんどくさいのか、私に話を振ってきた。


 少しため息をつき、先程のエリック君の話を聞いてなかったアンネに説明する。


「裏切ったエレナ・ミルウッドに会いに行く? それで退団しようとしてたの? 馬鹿なのかしら?」

「ああ、馬鹿だな」

「会ってどうするのよ。裏切り者を殺しに行くってこと?」

「いえ、彼らはエレナ・ミルウッドの本当の気持ちを知りたいということらしいです」

「よくわからないけど、それを許したの?」

「ええ、退団してもらっては困りますから」


 アンネは頭に手を当てて、深いため息をつく。


「特別扱いにも程があるでしょ。たとえリベルトを超える実力を持っていたとしても」


 確かにそうですね。

 ベゴニア騎士団の歴史の中でも、ほとんどない待遇と言ってもいいでしょう。

 エリック君はそれだけの価値があると、私とリベルトは思っています。


 アンネがそれをわからないのは、その実力を目で見ていないから仕方ないでしょう。


 だから不満を言っていますが、エリック君が抜けて困るのはアンネも同じことです。


「アンネ、エリック君が退団すると、確実にティナさんも退団することになりますよ」

「っ! どうして……?」

「ティナさんはエリック君の隣に立つことを目標にしています。彼がいないこの国の騎士団には、用はないでしょう」

「……」

「いくら団長のあなたが引き止めても、絶対に無理です」


 私が彼らの村に行ったとき、ティナさんは私に、


『私はエリックの隣に立ちたいので、すぐに魔法騎士団に入りたいんです』


 そう言ったのです。


 おそらく彼女はエリック君のことが好きで、守られるだけじゃなく、対等な立場で一緒に戦いたいと願う人なのでしょう。


 そんな彼女が、退団してこの国から出て行くエリック君に、ついていかないわけがありません。


「エリック君が退団して困るのは、あなたもですよ。ティナさんの実力を見て、そうは思いませんか?」

「……そうね、その通りだわ」

「アンネがティナさんに対してしている評価が、私とリベルトがエリック君に対してしている評価だと思ってください」


 エリック君が、騎士団最強のリベルトを超えているように。


 ティナさんが、魔法騎士団最強のビビアナさんを超える才能を、秘めているように――。


「そうね、それなら良い判断ね」

「ユリーナもなかなか強いからな。あいつも抜けられたら困る人材だ」


 リベルトはあまり人の名前を覚えないが、強い者の名は覚える。

 ユリーナさんは前に戦ったことがあるらしく、それで覚えているようだ。


「まあ良いわ。それで、裏切り者の名がエレナ・ミルウッドだったかしら? それは確かなの?」


 やはりそこは気になるところだろう。

 エリック君はそう言っていたが、それを鵜呑みにはできない。


 しっかりと確認しないといけない。


「私が調べていた中で、裏切り者の可能性がある数人。その中にエレナ・ミルウッドがいたのは確かです」

「そうなの、じゃあ決まりかしら?」

「まだわかりませんが、いろいろ調べないといけませんね」

「めんどくさいわね。だから裏が取れてない人は、入団させないようにすればいいのに」


 アンネは私の机の上にある書類を見ながらそう言った。


 裏が取れていないということは、素性がわからないということ。

 アンネが言いたいのは、素性がはっきりしている者しか、入団させない方がいいということである。


 裏切り者の可能性がある数人というのは、その素性がはっきりわかっていない人しかいないのだ。

 エレナ・ミルウッドもその内の一人だ。


「魔法騎士団は裏が取れない者は、入団を許可していないわ。騎士団もそうすれば、今回のような裏切り者が出ることもない」

「そうですね、その通りでしょう」

「今回を機に、そういった者たちを退団させるのはどうかしら?」


 今回の急襲だって、エレナ・ミルウッドを入団させなければ起こらなかったかもしれない。

 裏がわからない人を入団させる際は、本当に気をつけないとまたこういうことが起こる可能性が高い。


 だけど裏がわからない者でも入団を許可するというのは、私が団長である限りしないといけないのです。


 なぜなら――。


「――それなら、私も退団しないといけませんね」

「っ! いや、その……そういった意味で言ったわけじゃ……」


 私の言葉を聞いて、アンネは言葉を詰まらせる。


 少し、意地悪をしてしまいました。


「いえ、大丈夫です。わかっています」

「……ごめんなさい」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません」


 執務室に、嫌な沈黙が流れる。


「じゃあイェレ、俺とアンネはもう行くぜ」

「っ! え、ええ、そうね。そうするわ」


 今まで黙っていたリベルトが、そう声をかけてきた。


「ええ、お疲れ様でした」

「おう、お前もしっかり休めよ」

「お疲れ様、また」


 二人が執務室から出ると、廊下から少し声が聞こえる。


『バーカ、地雷踏んでやがんの』

『うっ……言わないでよ、反省してるんだから』


 そんな声を聞いて、少し口角が上がってしまう。


 リベルトに気を使わせてしまいましたね。

 彼も慣れないことをしている自覚はあるでしょうが。


 私はその後、執務室で仕事を続けた。



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