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第1話 絶望の終わり

2作目です。

よろしくお願いします。



「あ、うあああっ――あああぁぁぁ!!」



 その男は――荒れ果て焼き焦げた荒野で絶望の叫びをあげていた。


 周りは見渡す限り――血の海である。

 何百、何千人もの人であったものがこの荒野を紅く染め上げていた。


 男はその血の海の真ん中で紅く染まっている地面に膝をついて一人の女の亡骸なきがらを抱きかかえていた。


「イレーネ……! すまない……っ! まも、れなかった……」


 男がこの戦場に着き何十人、何百人もの人を殺して女性の元に辿り着いた時には手遅れであった。


「護ると……誓ったのにっ……! 今度こそ、失わないと……」


 ――その女性は綺麗な人であった。

 腰まで届く長い漆黒の髪が紅い地面に流れていた。

 その漆黒の髪と相対するかのような透き通るほどの白い肌には、飛び散ったであろう鮮やかな血の色が目立って見えていた。

 閉ざされたまぶたは――もう二度と開くことはない。


「イレーネ……! イレーネ……!」


 男はまだ温かみが残るその女性を胸に抱いて泣きながら名前を呼び続ける――。

 ――許してくれ、すまない。

 そう言うように、懇願するかのように名前を呼び続けた。



 何分、何十分――何時間、その男はそうしていただろうか。


 涙はもう枯れて流れることはなく、ただ茫然と彼女の顔を見ていた。



 ――全てを、失った。



 男の胸中はその言葉、想いに囚われていた。


 小さい頃には両親を失い――姉のように慕っていた幼馴染も失った。


 その後、絶望に打ちひしがれていた自分を支えてくれた親友もいた。

 その親友も――自分の判断ミスで死んでしまった。

 あの時違う選択をしていればあの親友は生きていた。


 そして自分が生きた先に一つだけ残されたもの――彼女、イレーネがいた。


 両親、幼馴染、親友を失った自分をずっと支えてくれた。

 自分は彼女を愛し、彼女も自分を愛してくれた。


 しかし――今、彼女は死んだ。

 自分の目の前で――。



 ――もう、いいだろ……。


 ――何もかも失った自分には……もうこの世を生きる意味などない。



 男は持っていた短剣を逆手に持つ。



 ――ごめんな、イレーネ……共に生きると誓ったのに……。


 ――今そっちに逝くから……待ってろ……。


 そして男は――自分の首を掻っ切った。



 男は自分の身体から急速に血が失われるのを感じながら仰向けに倒れる。

 口の中にも血の味がしてきて、喉からこみ上げる液体を咳き込むように吐き出す。

 最初から真っ赤だった地面がより鮮やかな紅に染まる。


 男が上を見ると、空はあおく、そして綺麗な白色の雲が流れていた。

 この真っ赤な血の海と対比して蒼く、澄んだ空は綺麗であった。



 ――イレーネ……お前と出会った日もこんな蒼空だったな……。



 男は死の間際に走馬燈そうまとうを見ていた。


 全ての嫌な記憶、幸せな記憶が頭をぎっては一瞬にして消えていく。


 男は隣を見ると先程まで抱きしめていた愛する人がいる。



 ――死ぬときにはお前に見送られて逝きたかったが、お前が隣にいるだけで俺は満足だ……。



 そう思っていると急激に痛みや感覚が遠のいていく。

 意識も遠のいていき、全てが無になっていく感覚を最期に感じて――。



 その男――エリックは息絶えた。



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