【序―➂】
「くぁああーーーー⁉」
見苦しく間抜けな叫び声を上げながら目が覚めた。そこは紛れもなく外で、空は少し白み始めていて明朝を告げており、街灯の青白い光はあまり必要そうにもなく、空気は冷え込んでいた。
だがそれ以上に、身体に行き渡る不可解な数々が僕に襲い掛かっていた。
とにかく痛い。骨という骨が砕かれ、肉という肉が粉みじんに潰され、頭の中身を電動ミキサーでかき乱されてるんじゃないかという程に痛い。
目も変だ。ほぼ三六〇度を見渡せるような視覚、いつもとみている風景に何か一色足りないような暗さがある。本当に頭に異常が起きてるんじゃないかと心配してしまう現象だ。
「起きたんだ、おはよ」
小気味よく挨拶したこの声は、先ほどまで夢……心世界の方で聞き覚えのある空杯さんのものだった。周辺を見たが、どうやら桜花の方は近くにいないようだった。
まあ桜花も石の門の中に居たのだ。僕と同じく現実で目が覚めているだろう。
……それにしても、どうして僕は空杯さんの太腿で横になってるんだろうか?
「おっと、包帯してるから翼はうごかせないんだぞ、まっ黒さん」
「くぅぅあ?」
まっ黒さん? どういう事だろう。なぜ空杯さんは僕の事をそんな風に呼ぶのだろう。第一、翼に包帯とは、どういう意味だろう。人間に翼なんぞついている話、聞いた事がない。
「……? どしたの?」
なんか、妙な感じだ。しかもこの変な感じは、心世界で夢の中を漂っていた時に似ている様な感じだった。どこか他人との認識がズレている時に生じる感覚。
「カ……アガァア」
言葉が全く紡げない。まるで自分が人間ではなく、別のナニかになっている。
「やっぱり普通のカラスじゃないよね、キミ」
いや、まるで……なんて比喩じゃあない。あぁ、なんてこった。
「カラスの姿をしているキミは、ユウマ君? それとも桜花ちゃん?」
変な夢みたいな世界で殺されかかって、記憶もなし、状況もわからない、挙句の果てに霊長類の体までも忘れ去り、僕は鳥類になってしまったらしい。