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【急―②】

『あの、ヒカリさん。こんな事いうのはヘンって思うんですけど、センパイの事、よろしくお願いします。わたしじゃ、どうもあの人とはうまくいかなかったみたいなんで……』



 携帯電話を耳に当てると、声の主でなるほどと思った。


 桜花からだったのか。桜花には色々と迷惑を掛けてしまったので、負い目みたいなものもあってか、なんて声を掛ければいいのかわからなくなっていた。



『いや、違うんですよね。わたしの力不足……というよりかは意思が足りないんですよね。心のどこかでやっぱり他人だからって線引きしてて、踏み込まないんですよね。だからわたしじゃ人は助けられない。自分のこと、ホントはわかってたんですねけどね。わかってたつもりだったんですかね』


 なに言ってんだコイツ。


「もしもし」


『えわッ⁉ ちょ――ちょ――ちょ――……』


 電話越しでも桜花の顔が目に浮かぶような反応だ。きっと驚きすぎて口をパクパクさせて心臓が止まってしまいそうな顔でもしているのだろう。


『……どこから聞いてました?』


「どこからだっていいだろ。というか、なんでお前が負い目を感じてんだよ。


 むしろ迷惑かけちまったのって俺の方だし、俺の方が謝らないといけないだろ。


 だから、お前がお願いすることも謝ることも無いし――て、なんで俺こんな説教臭いんだよ。なんか、ごめん。というか、悪かったな」


『え? え? な? なんで謝られたんですかわたし? というか、迷惑というならわたしの方がいっぱいしてきた訳で……謝るなんてセンパイらしくないですよ! というか、わたしに謝られる権利なんてないですし』


「そりゃ少し卑屈すぎないか?」


『まあ、センパイはわたしの心の中を覗いたから知ってるでしょうけど。センパイの事、過去の罪滅ぼしの為のしょく罪にしようって考えてましたし。結局、センパイを利用しようとしてただけで……だからセンパイはわたしに冷たかったんですよね』


「そりゃ初耳だな。というかそんな風に思ってたのか。知らなかったよ」


 冗談や嘘ではなく、本当に知らなかった。


『とぼけないでください。知ってるんですよ、センパイはわたしの記憶覗いてたこと』


 しかし桜花はそんなはずないと、完全に決めつけていた。


「……なんでそう思うんだ?」


『だってセンパイ、わたしの面倒くさがりとかちっぽけなプライドの事とか、知ってたじゃないですか。それって心世界で記憶を覗いたから』



 なんだそれ。「お前バカかよ」と本音が頭で考えるよりも先に勝手に口から飛び出ていた。まあ言ってしまったからにはしょうがない。続けて弁明することにした。



「ちょっと自分の思考が読まれたくらいで心世界の所為にしてたら、お前絶対詐欺に引っかかるぞ。別にそれくらい、無駄に一緒に居たら少しはわかる事だろ。一応、相棒……て奴だったんだろ」


 正直なところ、少しもそんな風に思ってもいなかったけれど、口にしてみるとそうだったのかなと思う。


 口に出すほど躊躇うくらいなのに、なんでそんな風に思ったんだろうな。


『そ、そう言われてみれば確かに。うわぁ、センパイなんかにバカって言われた上にその通りだったからハズカシィ。ちょっとセンパイどうしてくれるんですか』


「俺のせいかよ」


『当たり前じゃあないですか』


 妙な反感が混じっているが、こんな風に会話するのが少しらしいなんて思っていた。


 そうか、いまさら気が付いた。意外にも俺は桜花としゃべるのが気に入っていたのか。自分の事というのは案外とわからないもんだな。まあ、いまさらな気もするけど。


 そんな事を考えていると、妙にしんみりとした沈黙が続いていた。居心地が悪いという訳じゃあなかったけど、別れの告げ時ってものを感じた気がした。誰かとの関係に名残惜しいと感じる日が来るなんて自分にはないのだと思っていたけれど、それもどうやら違ったようだ。


「まあなんだ。元気でな」



『えっと、その、センパイも……――いえ、優真さんもお元気で』



 センパイと呼ぶ事をやめた彼女の真意を思うと、やはりすこしだけ寂しかった。


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