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【序―①】

 これは記憶だ。


「愛だとか正義だとか世界の為とか、そういう話しを聞くのは大っ嫌いなんだ」


 誰に言った言葉だったのか、今ではあまり覚えていない。でも確かに俺はそんな事を言ったし、実際に思っている。


 愛なんて所詮は生殖活動の影響で脳内分泌されたPEA(フェニルエチルアミン)というホルモンが及ぼす幻想だ。正義なんて、そもそも善も悪も人間の中でしか成立しない概念だし、生物が生きる上で何の価値すらない。


 世界の為とか、どんな絵空事だと怒鳴ってやりたい。本当に世界の為になるとしたら、そりゃ人類が地球上から綺麗さっぱり消えてなくなっちまう事だ。どうせ出来もしない事だろうけど。



 俺には善性ととれる言葉が、どれもこれもうすら寒く聞こえる。どうせそんなモノ、人を煽情する為の建前だろうに。


 なんでこんな事を思っていたのか、いまやっと思い出した。


「我々の愛する今のこの世界を守るために、君の力を貸してほしい」


 そんな話だった。そうだ、秘密結社『プロメテウス』日本支部『日ノ國』にスカウトされた時の事だ。


 スカウト……というのは聞こえはいいかもしれないが、要は都合のいい手先になれって言われているだけだ。冗談じゃない。付き合ってられるか。


 そもそも奴らの言っている話がイマイチ理解できなかった。というか、突拍子が無かった。


「今、この世界ではマインドハックと言われる恐ろしい犯罪が行われる可能性がある。


 簡単に言うと、人の記憶を改ざんしたり、感情をコントロールして自由を奪う。そう言った卑劣な犯罪が起きようとしている。


 いや、もしかしたらすでにどこかで起きているだろう……」



 そりゃあすごい話だ。そんな事が起これば実際に犯罪が起きても、証拠隠滅も簡単だ。警察も被害者も、みんな記憶を消せば捕まりっこない。


 いや本当、素晴らしい犯罪だ。いや、それどころの話じゃない。国の規模でそれを行えればたやすく人為操作が出来る。デストピアも夢じゃない。


 だが大前提でなんでそんな事が可能となったのか、原因はなにか? という事がわからない。そしてそれを聞くと。


「すまないが、全てをありのまま話す事は我々にも出来ない。少なくとも君が我々に協力してくれさえすれば、少しでも教えても構わないとも思っている」


 という主張らしい。


 簡単に教えたくないのか、信用などされていないのか。たとえ本当に協力したところで、彼らはきっと俺なんかに真実を教えたりしない。


 養殖の魚にエサをまくように、少しずつ与えていき、思いのまま誘導され、最後には網で捕られて食べられるだけだ。そういったことをされるのは単純に不愉快で嫌だった。



「だがこれだけは覚えていてくれ」


 デスクの引出しから現れたのは安価で手に入りそうなプラモデルの銃の様な見た目だった。


 四角い単純なフォルムで、グリップ、トリガー、バレル、それくらいしかなかった。銃の作り物としてはかなり手間を省いたものだ。


「これは『コネクター』という道具だ。こんな形をしているが、心の扉を開く万能鍵だ。


 ゼロ距離で頭に銃口を当て、引き金を引くと相手の記憶や感情が具現化した世界『心世界』に入り込むことができる。まあ『心世界』については、君の方が詳しいんじゃないかな?」


 何かと含みのある言い方をしてくる。たぶん先天的にとでもいうのか、俺はそういう事ができるからそんな風に言うのだろう。


 相手の感情や意思を読み解く超能力、テレパシーなるモノだ。でもそんな力、あまり使いたいとも思わない。なぜならこれは人の心の中に土足で踏み込める卑劣な手段だからだ。


「コイツを所持している奴には注意してくれ」


 だが話は理解した。男がコネクターと称した銃。人の心に侵入し、好き勝手出来る道具が出来てしまった。


 誰でも他人の記憶の改ざんが可能となった。だから対策が必要だ、と。


 で、なぜ俺に何の関係がある? と言い返したかった。



「正義の味方ごっこがしたいんなら好きにすればいい。でも俺を巻き込むな」



 困った時だけ助けてくれ、だなんて都合のいい話は嫌いだ。何が気に入らないって、勝手すぎるだろ。俺には縁のない話だ。関わりあいたくもない。


「キミが何故、そこまで頑なに嫌がるのかは我々にはわからない。だが、キミだってこの状況がよくない事だと理解できるはずだ。人が当たり前の様に生きていくのに、コネクターは悪用される危険性がある。


 まだ一部の研究者や我々のような結社しか知られていない事だが、突然悪の時代が始まることだってある。そうなってからでは全てが遅いんだ」


 今度は理屈だ。そう言えば賢い奴は首を縦に振ってくれるだろう。


「優真くん、キミが頼りだ。キミのその才能を、世界の為に使わせてもらえないか?」



 どうでもいい。



 世界の為とか言われても、それは誰かさんにとって都合のいい世界の話だ。その世界に、きっと俺は含まれてはいない。単なる被害妄想かもしれないけれど、別にいいだろ。これだって俺の意思だ。


「嫌だね。どうしてもというなら、そのおもちゃの銃で無理やり従わせりゃ良いだろ」


 その後の事はあまり覚えていない。なにぶん、早くこの下らない問答から解放されたい一心だったのだ。



 それか……もしかしたらコネクターなるオモチャで、すでに俺は記憶をいじられてしまったのかもしれない。



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