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【破―⑤】


「違う! こんなの、僕の記憶じゃない!」


 忘れていた十年間の出来事。信じたくもない現実ばかりを押し付けた記憶。こんなものが、本当に自分の過去だなんて、信じられるわけがない。



『違わないさ。受け入れろよ。これがお前が知りたがっていた現実だ』


「嘘だッ‼」


『いくら言っても無駄だ。


 いくら逃げても無駄だ。


 いくら足掻いても無駄だ。


 過去は決して変わらない。過去は未来のように不確定ではなく、確定的で不変なものなんだ。


 どうあっても、変わりはしない。俺達の過去は絶対に変わらない』



 だからと言って、こんなものを受け入れろと言うのか。こんな破滅的な感情しか残っていないのが、自分だっていうのか? そんなのは――



『また、嫌がるのかい?』



 そう、いやだ。こんなのは違う。真実の優しさではない。


 恨みをぶつけたり誰かに八つ当たりしたり、でもそんなのただの憂さ晴らしだ。


 いや、いくらやっても、晴れる気分などどこにもない。希望がなければ、何処までいっても太陽の無い闇の世界だ。



『そうだ。俺達はもう地獄の果てまで逝ったって満たされやしないんだ。


 終わっちまったんだ。生きる意味もなければ、何かをする目的もない。だったら、あとは復讐するしかないだろ』


「そんな事をしても、何の意味もないのはわかってるだろ」


『意味はない。だけど楽しみではある。だろ? おいおい、とぼけたって顔するなよ。自覚がないとは言わせないぞ』


「何の話だ。どういう意味だ?」


『思い出せよ、あの老婆をぶっ壊した時のこと。


 腹の底から湧き出てくる程に煮えたぎった怒りで思う存分やったよな? 今までの痛みを倍にして返してやったんだ』


『思い返してみろよ、目の前で脳天破壊して吹っ飛んだクラスメイトの時を。


 あの勘違い男、心の底からムカついたよな。奴は先に消した本当の友達を俺の事だと勘違いして接してきたんだぜ。それを思うと、余計に腹が立ったぞ。でも奴を葬った時なんて、天まで上る様に清々しい気分だっただろう?』



『ホラ、目に浮かべてみろよ、他にもこの町の連中全てを呪いの渦にかき混ぜて、殺すサマを……。なあ、その顔だ』



 なんだ。なんなんだよ。何のことだ。僕の顔がどうしたっていうんだ。


 目の前に現れる僕と同じ顔の男。そいつがどんな顔をしていたのかというと、口を大きく開けて頬を釣り上げて、目を輝かせていた。喜んでた。喜んで、楽しんで、嬉しそうだった。




『諦めろよ。俺達、心なんかとっくに折れちまったんだ』

 


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