【破―②】
僕にはわからなかった。
空澄さんの言葉の意味が。
「嫌らわれたからと言って、好きになってはいけない……なんて事はない」と言い張る空澄ヒカリはいう。本当に彼女は理解しているのだろうか? 嫌われたら、全部否定されるというのに。良かったこと全てを無にされるというのに。それはとてつもなく痛いんだ。胸を割かれる痛みがある。全てが無意味になると言うのはそういった辛さがあるのだ。
なのに、彼女はそんな態度を見せることなく、この場の空気を乱さまいと何もなかったように振る舞う。現実に目を向けないさまを見せつけ、夢を語る様に、道化を演じる。
そんな様子を見せられると、頭の中でうずくんだ。嫌な記憶が迫ってくるような、そんな気分にさせられるんだ。
どうして僕がこんな事を思うのか。失った記憶がそうだったのだろうか。それとも僕自身の性質とでも呼ぶべき根底の部分がそう思わせているのか。
わからない。僕にはわからないことだらけだ。
『……そろそろ、戻ってきてもいいんじゃないのか?』
どこからか、呼び掛けられたが気した。音ではなく、頭の中に情報が流れてくる感覚だ。例えるなら目の前に文字が浮んで見えるみたいな、そんな感じだ。
「誰だ?」
『言わなくてもわかっているだろう?』
知らない。僕は何も知らない。
『悲しい現実から背を向けて、辛いこと全部を忘れたフリして、一体何を手にした?』
わからない。今の僕は空っぽだ。手の中には何もない。
『どうせ、わかってるんだろう? 本当は全部、自分がやってる事なんだって』
「知らない。わからないんだ。何も思い出せないんだ」
目を塞ぎ、耳を向けず、心を閉ざす。それしかこのウンザリする語りを止める方法がなかった。
『逃げ続けて、わかった事はあったかい?』




