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九一段 これはある意味邂逅だ


 髭面の殺し屋、それに【ディバインクロス】の面々が一斉に手を上げてからまもなく、俺たちも全員手を上げた。赤蠅のメシュヘルまで真似をしてるのがなんとも微笑ましい。これでいよいよ決戦までのカウントダウン開始ってわけだ。自分がやるわけでもないのにやたらと気分が高揚してくる。あっという間に十秒経った。


 ――残り五秒。四、三、二、一……。


 なんだ……? 戦いが始まったというのに、レイドも髭面の殺し屋も微動だにしなかった。これだけ距離があるにもかかわらずだ。そのことが、まるですぐ近くにやつがいるかのような異様な緊迫感を生み出していた。これが殺し屋の間というやつなのか……。


 あ……まもなくレイドが動いた。あれ?《微小転移》による移動ではなく、普通に歩いている。髭面の殺し屋もそれに呼応するかのようにゆっくりとこっちに向かって歩き出していた。


 ……奇妙だ。腹の探り合いというより、何か見えない障害物を掻き分けて進んでいるような、そんな重厚感のある進み具合なのだ。一体二人の間にはどんな景色が見えているんだと思えるほどに独特な歩き方をしていた。少なくとも、最早二人の中ではここがビーチだという意識はとっくに消え失せていると確信できた。実は傍観者である俺でさえもそうなりそうになっている。


 本当に少しずつだが、やつとの距離が縮まっていく。そんな中、俺も二人の空気に吸い込まれるようにして周りの歓声や景色があたかも初めから存在してないかのように気にならなくなっていった。


 ――そうか、わかったぞ。どうして二人があんな歩き方をしていたのか……。それは自分を周りの世界から切り離し、自分だけの世界に没入させるためなんだ。激しく戦うイメージを深めていく過程で、見えないものでさえ見えるようになっていたんだろう。だから障害物があるように見えていたんだ……。その障害物というのは相手を含む自分を攻撃する何かとしか思えないな。もう戦いはとっくに始まっているということだ。しかしなんという二人の豊かなイメージの幅と濃さ。殺し屋の世界は想像以上にユニークでシビアだった。


 ……お、大分接近してきたな。大体5メートルほどか。もうそろそろ接触する……というのに、お互いにまったくそれまでと動きが変わらない。これはおそらく準備が出来ているからなんだろう。常に自分の集中力を100%にしているかのような動作だったから、接触なんて大したことではないんだ。それまでに戦うイメージを充分に蓄積してきたから、直接戦うのもその延長でしかないということだ。当然その境地に至ることができるのは殺し屋として積み上げられた経験があるからこそだろうが、本当に世界が違うと思い知らされる……。


 二人の遭遇はこれから戦う者同士の必然的なものだが、これはある意味邂逅だ。思いがけぬ出会いでもあるのだ。そんな本来ならありえない言葉すら浮かんでくるのも、二人はそれだけ他人を寄せ付けないほど独自性に満ちた殺し屋であり、しかも巡り合おうとしているからだろう。これは偶然としか言いようがないしまさに奇跡だと思う。


 だからなのか俺は気持ちがすこぶる高まっていた。次々と湧き出てくる万能感。興奮が意思を持って独り歩きしそうなんだ。喜怒哀楽の感情が入り混じり、わけがわからなくなって目を見開いた。眼球が飛び出しそうだ。それに痛いほど歯軋りだってしている。アドレナリンが止まらなくてもう爆発しそうだ。全身の穴から熱湯が溢れ出てきて皮膚が焼け爛れそうなんだ。


 畜生、畜生畜生畜生畜生ッ。戦いたい、やり合いたい殺したい倒したい捻り潰したい……。ん? なんだこれは。俺は一体何を考えているんだ。冷静になれ、冷静に……。俺は何もしていないのに二人の間に発生した謎の渦に巻き込まれそうになっていた。


 ――来る。ついに憎たらしいやつめが来る……。間近に迫った殺し屋が心底嬉しそうに目を細めるのがわかった。生きているという実感はこの刹那にしか味わえないとでも訴えているかのように、本当に活き活きとした表情だった。きっと今頃レイドもそんな表情をしているに違いない。俯瞰しているかのようにそれが確信できるのだ。彼女の気持ちに乗せた俺の執念も相俟って、この瞬間の為だけに生きてきたんだと相手に思わせるほどの笑顔を浮かべているはずだ……。


 まるでスローモーション。宙を泳ぐように俺は歩いていて、すぐ近くまで来たやつの動きも一つ一つ手に取るようにわかるようになっていた。もう、俺にはなんの音も届かなくなっていた。視野も極端に狭まり、汚い髭を生やした男の姿しか見えなくなっていた。


 それでもいい。会いたかった……。そんな言葉さえ浮かんできて、俺はだらしなく涎を垂らしそうになっていた。とにかく気持ちがいいのだ。しばらく離れていた恋人と再会したような幸福な気分。会いたくてたまらなかった。生きてくれていてありがとう、絶対に殺してあげるからという言葉を投げかけたくて仕方がなかった……。

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