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九段 普通であることさえも尊大に見えていたというのか


「……」


 何も見えない。どうやら目隠しをされているようだ。しかも、体もぴくりとも動かせない。喋ることさえも……。というか、感覚というものがないんだ。意識でさえぼんやりとしている。一体どうなってるんだ……?


「さすがはエルジェ。こうなること予想してたんだね」


 この声は、ビレントか。やつらが近くにいるようだ。……ダメだ。声が出ない。俺は猿轡までされているのか……。


「そりゃそうでしょ。こいつ、あの会話聞いてたんだろうし、あたしたちの命を狙ってくるのは簡単に想像できるって」


 ……エルジェにしてやられたな。変装して溜まり場の近くに立っていたのもバレていたか。だとしたらあの会話も、俺を挑発するためにわざとやっていたことになる。どこまで腹黒いんだ、この女……。


「……うっ。こりゃ酷い……」


 ……ん? この声はグリフか。なんか具合悪そうだが、どうしたんだろう。


「これ、まだ生きてるんだよな? でももう生きてる意味ねえな。これじゃ……」


 ルファスだ。一体誰のことを言ってるんだ……?


「あぁ。こんなんでも意識はあるはずだよ。ま、止血はしてあるしおいらの手に掛かればこんなもんさ」


 ……この声……あの拳闘士モンクの殺し屋か。ま、まさか……。


「もう聞こえてるだろ? お前さん、今どうなってると思う?」


 ……俺は一体……何をされた……?


「感謝しておくれよ。お前さんの両目も両手両足も、歯も舌も声帯も綺麗に取り除いたんだけどさあ、せめて痛みだけはないようにしてあげたんだ。おいら、優しいだろ?」


 ……そんな……。じゃあ、俺はもう二度と歩くことも、話すことも、見ることも、味わうこともできないっていうのか……? ……嫌だ、そんなの……絶対に嫌だ……。


「ねえシギルさん、聞いてる? 今、最高に絶望してるよね? 憎い? でもね、仕方ないのよ。あたしたち、本当にあんたのこと嫌いだったんだし。何故だかわかる?」

「……」

転移術士テレポーターのくせに、古参面して偉そうにしてたでしょ?」


 ……エルジェは何を言っている……? いつ俺が偉そうにしたっていうんだ。……あれか。転移術士そのものを見下してるから、普通であることさえも尊大に見えていたというのか……?


「ねえねえ、ギリギリまで戦えるからって、それがなんなの? それでパーティーに何か貢献してきたつもり? いつもテレポートで帰還するだけでドヤ顔しちゃってさ。あたしたちなんて凄く疲れてるのに……うぅ……」


 ……こいつ、なんで泣いてるんだ? 味方を無事に帰還させる、ただそのために俺は転移術士のスキルを磨き続けた。それの何が悪いというんだ……?


「エルジェどの、もう泣くな。正義は必ず勝つのである! 実際、シギルのやつは悪の寄生虫として、こうして惨めな最期を……おえッ……」


 ……悪の寄生虫か。なるほどな。グリフもなかなか言うじゃないか。知らない間に楽をしていると思われてかなりヘイトを集めてしまっていたようだ。


「……僕、本当にみんなが不憫でしょうがなかったよ。こんな役立たずがのさばってるのに、ずっと分配方式でやってたんだし」


 普段からずっと辛口だと思っていたビレントの言葉も、今は甘くさえ感じる。……しかし随分な嫌われようだ。聴覚を奪わなかったのは、こうしてしょうもない愚痴を聞かせるためか。


「エルジェが声を上げなかったら、こいつどこまで増長してたのか、考えただけでもぞっとするよな」


 ルファスにそれを言われるのはさすがに心外だった。どうやら、増長していたのは俺らしい。どんなギャグだこれは。声を出せないことがこれほど歯痒いことはないな……。


「お前さん、随分な嫌われようだなあ。さて、もう言いたいことは言えたかな、みなさん」

「そうね。正直、こんなやつとこれ以上関わりたくもないし」

「う、うむ。見た目も最早化け物並だし、不愉快すぎる。うっぷ……」

「ちょっと待って。最後に僕に試させて。《ヒール》! ……あれえ、ヒール砲が効かないアンデッドなんて初めて見た!」

「精神的には効いてるんじゃねえの?」

「なるほど! ルファス上手い!」


 やつらの笑い声が遠くに感じる。これから俺が何をされるのか、なんとなく想像できた。


「――そらっ」

「……」


 殺し屋の声とともに何か両側頭部に不快な感触がしたかと思うと、それ以降何も聞こえなくなった。どうやら聴覚まで奪われてしまったようだ。あとは嗅覚くらいか。もう味わうことさえできないというのになんの意味があるんだ……。


 ……役立たずと思われていたのは仕方ないにしても、かつては仲間だった俺に対してよくここまで惨いことができるな。ここまでして満足なのか。俺を寄生虫や化け物扱いしてるが、お前らこそ本当に人間なのか……?


 俺はこれから玩具としてたっぷり時間を掛けて甚振られた挙句、殺されるのだろう。今は朦朧としているが、痛みも徐々に解放されて、声すら出せずに苦しみもがいたあと、ようやく息絶えるのだろう。


 ……だが、俺の心までは絶対に殺せない。


 このまま命尽きて、灰になり、魂だけになったとしても……エルジェ……グリフ……ビレント……ルファス……お前たちを、俺は呪い続ける……。決して、逃しはしない。決して、幸福になどさせはしない……。

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