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八五段 負けるつもりはさらさらない


「ふわあぁ……いよう。お前さん方、おいらに何か用かい?」


 ルファスたちの前に現れた髭面の殺し屋は、その場に流れる緊迫感とはまったく無縁であるかのように陽気かつ眠そうな声を上げた。


「ど、どうも。あれを見てください……」

「んん?」


 エルジェに指差されて掲示板を見上げる殺し屋の顔色は、リプレイで流されているボス戦を最後まで見届けたところでいささかも変わることはなかった。


「……あの。本当にあいつなんですか?」


 殺し屋の平然とした様子を見て、もしかしたら別人なのかもしれないという希望がエルジェの中に産まれていた。


「……そういえば、当時のシギル先輩とは顔が少し違う気もするよね? 名前とジョブがたまたま一致しただけかも……」


 それはビレントも同じだった。なんとしても別人だと思いたかったのだ。


「いや、本人さんだあね」


 髭をポリポリと掻きながら殺し屋は呟く。


「何故そうだと言い切れるんだ?」


 鋭い声を飛ばしたルファスにしても、自分が追い出したシギルがダンジョンの最高到達者レジェンドになったことは認めたくないことだった。


「シギルっていう転移術士テレポーターさんはさ、表情に癖があったんだよね。神経質なのか、眉間に皺を寄せることが多かったから跡が残ってる。ほうれい線の濃さのバランスが崩れてるのも、片方の口角だけ吊り上げて卑屈な笑みを浮かべた回数が多いからだとおいらは思ってるのさ。名前、ジョブ、それにこうした特徴が一致するんだからもう同一人物でしょ」


 本当に淡々と殺し屋は語った。まるで独り言であるかのように。


「……で、でも、そうだとしてなんで手足があるのよ? 目だってくりぬいてやったじゃない! ……あ……ごめんなさい……」


 一旦は感情に任せて詰め寄るも、相手が誰かを思い出して我に返るエルジェ。


「んー……なんでだろうねえ。おいらにはさっぱりわからないけど、義眼はともかく義手とか義足とか今は質のいいものだと本物とあまり変わらない動きができるんでねえ……」

「へえぇ。殺し屋さんってなんでも知ってるんですね」


 殺し屋の引き出しの多さにはビレントも脱帽だった。


「たまたまだよ。ビレントさん、できたらおいらのことは名前で呼んでほしいかなっ」

「あ、わかりました……えっと……」

「クェスションのクエスだよぉ」

「あ、はい。クエスさん」

「適当につけた仮名だけどさ、これが結構気に入っててねえ……」

「お、おい、お前……」


 殺し屋クエスの余裕の笑顔を見て、ルファスは苛立ちを抑え切れなかった。


「お前じゃなくて、クエスで頼むよ、ルファスさん」

「ふざけるなよ、おい……。そんな余裕こいた面してる場合なのか? そもそもお前がやつを殺し損ねたからこうなったんだろうが!」

「そう言われてもなあ、玩具にしてくれと頼んできたのはお前さんたちのほうなんだが……。それがなければとっくに殺せていたけどなぁ」

「あ……? 言い訳かよてめえ! 相手にはレイドっていう最強の殺し屋がついてるみたいなんだぞ! どうするんだよ!」

「へっ……?」

「「ルファス!」」


 エルジェとビレントに止められるも、それを振り切ってルファスがクエスの胸ぐらを掴んだ。


「おい、なんとか言えよ! 殺し屋のくせにびびったのか!?」

「……レイドだと……?」

「……うっ……?」


 クエスに凄まれて後退りするルファス。自分の足がガクガクと震えていることに気付いて目を剥いた。


「お、おお、俺の足が……。ば、バカな。俺がこんな……」

「「……」」


 エルジェとビレントが互いに驚いた顔を見合わせる。側でずっとルファスを見てきたが、ここまで怯える彼を見るのは初めてのことだった。


「おっと、すまんな。ほんの少しだけ本職に戻っちまったよ。お前さんがレイドなんて名前を口に出すもんだから、つい……。まぁそう慌てなくても大丈夫だ。おいらにいい考えがある」


 クエスは目を細めて自信たっぷりにそう言ってのけた。






 ◆◆◆






「えーっと、ここでみんなに話したいことがある……」


目立たぬよう、レストランの隅のほうで開かれた食事会も終わりに近づいたこともあり、俺は仲間の顔を一人一人見たあとそう切り出した。


「俺は近いうちに仇とやり合うことになるだろう。でも相手も手強いから負ければ確実に殺られる。俺が死ねばみんなにも危険が及ぶはずだ。だから、俺についてきてもいいというやつだけついてきてくれ……」


「は、はい、師匠ぉ! ずっとついていきます……」

「……そうか、ありがとう、ラユル」

「えへへ……死ぬまでずっと一緒ですから」


 ラユル、真剣な顔をしてくれるのはいいが口が汚れてるって……。まあ幼女だからそのままでいいか。


「シギルお兄ちゃん、私もついていきたい……」

「セリス、気持ちだけ受け取っておくよ」

「うん……」


 参加できないだけでセリスも大事な仲間だからな。


「シギルさん、ダンジョンに向かう以上、いつでも仲間とともに死ぬ覚悟はできてるよ!」

「……ああ、アシェリ、じゃあやってくれるか」

「もちろん……」


 さすがアシェリ、一応リーダーをやっていただけあって覚悟が出来ている。


「重いものなら慣れております……」

「……ああ、そうか。頼むぞリリム」

「合点」


 戦士リリムならこの重い話も抱えてくれると信じていた。


「運命共同体ってやつですね。受け入れます……」

「ああ、ティア、俺を信じてくれ」

「はい……」


 ティアはマゾだからこういう重い話は好きそうだ。酒も飲んでないのに酩酊したような顔になってるし……。


「アローネはどうする?」

「私もついていかせてもらうわね。シギルさんなら負けないと思うし」

「ああ、負けるつもりはさらさらない」

「絶対ね」

「ああ……」


 アローネの抉るような強い笑顔に笑い返す余裕が今の俺にはあった。


「ねえ、見て! あそこに最高到達者レジェンドがいるよ!」

「あ。ホントだ。すごーい!」

「「どこどこ!?」」

「……」


 うわ、周りに続々と野次馬が集まってきたな。顔を伏せ気味にしていたんだが、油断した……。


 ――というわけで、逃げるように溜まり場の女子トイレまでやってきた。まだ就寝時間の午後十時まで30分ほどあるし、ここで作戦会議をしようか。


 まず明日の午前十時になったら、やつらがいるであろう五一階層から六十階層にかけて見回りをするつもりだ。もちろん、仲間にも協力してもらう。さて、これから誰をどこに行かせるか決めようかな……。


『シギル兄さん』

『お、リセス、起きたのか』

『……何か嫌な気配がする』

『……え?』


 まさかと思って咄嗟に入口のほうを見た俺の目に映ったのは、悠然と佇む髭面の殺し屋と【ディバインクロス】のメンバーだった……。

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