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七八段 これならどっちを取っても異論なしだろう


《イリーガルスペル》《微小転移》《念視》《集中力向上》《マインドキャスト》というスキル構成だったが、《念視》の使い過ぎで精神的に疲れてきたので《マインドキャスト》の代わりに《リラクゼーション》を入れた。これでかなり精神が楽になる。


「う……」


 お、湖の傍らで横たわっていたティアが起きてきた。ラユルはまだ夢の中だ。


「起きたか、ティア」

「ティアどの、おはよう」

「おはよう……ってどこなんですかここは……」

「実は、百一階層なのだ……」

「ええ……?」

「ティア!」


 またも倒れそうになるティアをリリムが支える。


「寝させてください。まだ夢の中のようですし……」

「いや、これは現実なのだ、ティアどの……」

「……ま、また随分飛んじゃいましたね……」

「うむ……」


 ティアのやつ、ようやくこれが現実だと認識してくれたようだが、強い衝撃に対する防衛本能が出てるのか眠そうだ。


「ティア、また眠ってもらっちゃ困る。ラユルを起こしてやってくれ」

「……あ、はい……《アストラルヒール》!」

「……はぅ?」


 ラユルが上体を起こして目をぱちくりさせる。一発であそこまで目覚めるなんて、結構熟練度を上げたっぽいな。倒れるまでやったんだからそりゃそうか……。


「あ、師匠ぉ。成功したみたいですねえ……」

「ああ、よくやったよ」

「えへへ……あの、それに私とうとう熟練度マックスになったんですよ……!」

「おお、そうか、おめでとう」


 やはり《無作為転移》の熟練度が10になったことで移動できる幅が極端に広がった形か。いきなり百一階層だもんな……。


「ところで師匠ぉ、ここは何階層なんですか……?」

「百一階層だ」

「わ……わわっ!? むぐっ……」


 急いでラユルの口を塞いで正解だった。《念視》で周りを見ると、思いっ切り囲まれていたからだ。しかもみんなこっちを向いてじっとしている。もしかしたらこいつら、大声に反応するのか……。


「ラユル、大声は出さないほうがいい」

「もご……?」

「姿を隠したモンスターに囲まれてるんだ」

「も、もごご……」

「だからやつらを刺激しないように、いいな?」

「もごっ……」


 顔が赤くて息苦しそうだから手を放してやった。これくらいしないとまたすぐ大声出しちゃいそうだったからな……。


「あの……シギル様」

「ん? どうした、ティア」

「冷却時間が終わるまで待ってからテレポートで帰ったほうがいいのでは……」

「シギルどの、私もティアどのに同意します。ここはあまりにも危険です……」

「……」


 ティアとリリムの言うことは一理ある。安全を重視するならそのほうが確実だろう。ただ、こんなチャンスは二度とないかもしれないしな……。とはいえ、百一階層はあまりにも極端だ。仲間を危険な目に遭わせてしまう可能性もある。


『リセス、どうしたらいい?』

『……』


 応答がなかった。また寝てるのか。最近多いな。


『シギル兄さん』

『お、リセス、また寝てたのか。最近どうしたんだ……』

『起きてたよ』

『え、でも返事が……』

『わざとスルーしちゃった』

『スルーって、酷いな……』

『ごめん……。でも、そのほうがいいと思って』

『リセス……?』

『私に頼ってばかりだと、いないときに困るだろうから。いつも起きてるわけじゃないしね』

『……それもそうか』


 リセスはお節介な性格だから本当はそうしたくないんだろうが、あえて俺のためを思って突き放したってわけか。


『ラユルを助けたときもそうだけど、あれだって私が凄いんじゃなくてシギル兄さんが冷静ならすぐわかったことだと思うから』

『……ああ。俺はあいつの魔法の威力の凄さを知ってるわけだしな。ありがとう、リセス』

『……シギル兄さん』

『ん?』

『……あとで話したいことが……』

『今じゃダメなのか?』

『こういう状況だから……』

『ああ、それもそうだな……』


 今はこの苦境をどう乗り切るか決めないと……。ただ、パーティーならメンバーの意見も繁栄させなきゃいけないと思うし、残りの二人に聞いてからだな。


「なあ、ラユルはどう思う?」

「……んー、折角ここまで来たんですから、戦うべきですっ……」

「そうか。アローネは?」

「私もラユルちゃんと同意見よ。メシュヘルちゃんも大分慣れてきたみたいだし」

「……」


 確かにあの蠅、湖の上をブンブン飛んでるし動きが活発になってきたな。今のところ2対2か。これならどっちを取っても異論なしだろう。


「……よし、ボスを倒そう。攻略するんだ」

「……や、やるのですね。わかりました。私はそれでも構いません……」


 ティアはマゾだからか、意外にもすんなり受け入れてくれた。


「……むう。不安はあるが、シギルどのならば打ち勝てると信じております……」


 リリムも渋々ではあるが納得してくれたみたいだ。


「ラユルちゃん、あなた可愛いわね。本当に15歳以上なの?」

「そ、そうですよぉ……」


 アローネがラユルの頭を撫でている。母親と娘でも成立しそうだ。


「悪ケミ、奥方どのにその扱いは失礼だろう……」

「本当に奥方なの? ラユルちゃんにはまだ早いんじゃない?」

「そ、そんなことはないですよお……」

「ねえ、私があなたのママになってあげるわ。シギルさんがあなたのパパでもいい?」

「しょ、しょんなぁ……」


 アローネの煽り方えぐいな……。ラユルがすっかり幼女然としちゃってる。


「悪ケミ! 調子に乗るなああぁ!」


『来るよ。シギル兄さん』

『……え……』


 リリムの大声に反応したのか、俺たちを囲んでいた大量のワームが一斉に向かってくるのがわかった。

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