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七七段 信じられなくて二度見してしまった


「――こ、ここは……?」


 気が付くと、俺たちは暗い森の中に立っていた。


「ら、ラユル、ティア!」


 さらにラユルとティアがすぐ近くで倒れていた。本当に二人とも気絶するまでやるなんて……。そういえば崖のステージの次は森林のステージらしいから、三一~四十階層のどこかに飛んだっぽいな。


「てぃ、ティアどのは私が!」

「ラユルちゃんは私が担ぐね」

「ああ、頼む」


 リリムとアローネに倒れた二人を背負ってもらう間、俺はここがどの階層なのか見ようとメモリーフォンを取り出す。


「め、メシュヘルちゃん……?」

「ん?」


 冷静なアローネが珍しく、動揺した顔を見せた。どうしたかと思いきや、近くにあの蠅型ホムがいない。


「アローネ、ホムはどうしたんだ?」

「後ろにいるわ……」


 見ると、アローネの背負うラユルの背中にメシュヘルがリュックのようにくっついて離れようとしなかった。しかもブルブル震えちゃってるし……。


「……この子がこんなに怖がるのは初めて見たわ……」

「所詮はハエだ。臆病なのだろう」

「バカ言わないでよ。メシュヘルちゃんは超攻撃的な子なのよ……」


 そう言われてみれば、確かにこの赤蠅、心臓を奪った俺に対しても臆することもなく挨拶してきたわけだから、臆病どころか超攻撃的と言えるのかもしれない。それが怯えるっていうのは一体……。妙な胸騒ぎを覚えつつメモリーフォンでパーティーの位置情報を見たわけだが、そこから開いた口が塞がらなくなってしまった。


「シギルさん?」

「シギルどの……?」

「……ここ……百一階層だ」

「「え?」」


 水と油のはずの二人が声を合わせる。俺も信じられなくて二度見してしまった。どんだけ進んだんだよ……。冒険者の最高到達階層は現段階じゃ九五階層だったはずだから、それを六つも更新したことになる。もちろん、攻略したらの話だが……。


『シギル兄さん、おはよう』

『……あ、リセス。おはようって言いたいところだが、それどころじゃないんだ』

『どうしたの?』

『《無作為転移》が成功したのはいいけど、百一階層まで飛んじゃったんだよ。どうすれば……』

『……まず、落ち着いて。それから周りに敵が隠れているかどうか《念視》で確認してみて』

『あ、ああ』


 こういうとき、リセスは異常なほど落ち着いてるから本当に助かる。有名な殺し屋なんだから当然なんだが、最高のタイミングで戻ってきてくれたもんだ……。


 何度か深呼吸したあと、《念視》で周囲の様子を窺うと、何やら小型のワームのようなモンスターがうろうろしているのがわかった。……なるほど、存在自体完全な透明だから見えなかったのか。アローネのホムが怖がるわけだ。サイズはちょうどこの赤蠅くらいの大きさで、芋虫を巨大化させたような感じだから弱そうに見えるが、なんせ百一階層のモンスターだから油断できない……。


『あと、この辺障害物多いからなるべく広いところに行ったほうがいいと思う。モンスターを刺激しないように慎重に進んで』

『ああ、わかった』


 薄暗いし、何よりずっと《念視》を使い続けるのはとてもきついので、リセスの言うように障害物が周りに少ないところなら負担を軽減できるはずだ。師匠の元で修行してたときもそうだったが、これは結構精神力を消耗するものなんだ。しかもこれがあれば一気に視界が広がるというわけでなく、見ようと集中した場所が見えるというだけのスキルだからな。姿を隠した敵を見るのと、障害物の後ろにいる敵を見る行為は別々にやる必要がある。これのおかげで目が見えるようになって嬉しかった一方で、普通に目が見えるということのありがたさもよくわかったものだ。


「リリム、アローネ、周りに見えない敵が沢山いて危険だから、なるべく視界の開けた場所に行こう」

「ええ」

「合点」


 慎重に森の中を歩き始める。《無作為転移》が成功すれば、《微小転移》を除いた転移系のスキルはしばらく冷却時間が発生して使えなくなるということはアローネにも既に説明済みだ。


 とにかく周りで蠢いているワームの数がやたらと多くてドキドキするが、やつらはノンアクティブなのか襲ってはこなかった。とはいえ、何かのスイッチが入ると切り替わる可能性もあるので、なるべく近寄らないように慎重に歩いていく。見た目はともかくなんの情報もない未知数の化け物というのがひたすら不気味で、ただのモンスター相手にこれだけ警戒するのも久々の経験だった。


「――あ……」


 しばらく歩いていると、暗い森の中で比較的明るい空間があるのが見えてきた。近くに小さな湖があり、しかもそこだけ木々が密集していない、砂漠でいうオアシスのような奇跡的な場所だった。


「あの辺はどうかな?」

「あら、いいわね」

「うむ、同意……しません」

「リリム……」

「い、いや、シギルどのには同意したが、悪ケミには同意しないというだけの話なので……」

「「はあ……」」


 俺とアローネの溜息が重なる。それってつまり同じことだろうと。でも、言い方に今までのような鋭さはあまり感じなかったし、前よりもリリムとアローネの距離はほんの少しだけだが縮まっているように見えた。

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