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七四段 居心地が良すぎてもっと眠りたくなってしまう


 待ち合わせの時間――午前十時――はとっくに過ぎていたが、いつまでたっても溜まり場にアシェリは来なかった。


「……アシェリのやつ、遅いな……」

「ですねえ……」


 ラユルが早くダンジョンに行きたいのかそわそわしている。それまで寝ていた黒猫のミミルがじっと見入るくらいお下げ髪も右往左往していた。おそらく、昨日《無作為転移》が悉く失敗したから成功させたいっていうのと、その熟練度を早く10まで上げたいっていうのもあるんだろうな。多分成功率はあんまり変わらないだろうが、行ける階層については今までより幅が広がるような気がする。


「うぬう……アシェリどのは遅くても20分くらい待てば来るはずなのだが……」

「でも、もう30分も過ぎちゃってますよね……はあ……」


 リリムとティアも落ち着かない様子。彼女たちからしてみたら、かつて自分たちのリーダーだったアシェリが迷惑をかけている状況だからいてもたってもいられない心境なんだろう。


「ねえ、シギルお兄ちゃん……アシェリさん風邪かもしれないよ。最近流行ってるみたいだから……」

「……セリス、そうなのか?」

「うん。マスクつけてる人多かったから……」


 ホールに滞在してる時間は当然セリスのほうが多いわけだから説得力はある。誰かが発症したものが広がって、不運にもアシェリがうつされた格好かもな。


「バカは風邪ひかないって思ってました……」

「ティアどの、それは禁句だ……ククッ……」

「……」


 リリムとティアの様子からしてあんまり心配しなくてもよさそうだが、一応行ってみるか……。


 ――というわけでみんなでホール二階の北側にやってきた。この一帯には割高だが宿泊施設が沢山あって、アシェリは中でも冒険者に人気のあるカプセルタイプの宿に泊まっていることが多いそうだ。俺もここに来たばかりの頃、一度だけ泊まったことがあるが、いつもの宿に比べると二倍の料金がかかるのでそれっきりだった。確かに値段が割高なだけあって快適でぐっすり眠れるんだが、居心地が良すぎてもっと眠りたくなってしまうのが問題だったんだ。


「多分この辺りかと……」

「ですね……」


 宿に入り、リリムとティアの足が止まる。パーティーの位置表示を見てもわかるようにアシェリがこの辺にいるのは間違いなさそうだ。ただ、俺がいつも利用している宿と違って個室の様子が見えない仕組みになっているため、奥のカウンターにいる受付嬢にお願いしてアシェリが泊まっている宿の小窓を開けてもらった。宿泊客がパーティーメンバーかあるいはフレンドであることを証明できれば特別に許されるようになっているんだ。


「……」


 それをみんなでおそるおそる交代で覗いたわけだが、見終わったときにはアシェリを心配する気持ちや、勝手に見て申し訳ないという罪悪感は吹き飛んでいた。風邪どころか、豪快に寝ちゃってたからな……。リリムとティアも同じ気持ちだったのか、大体似たような呆れ顔になっていた。お子様のセリスとラユルは逆に羨ましそうだったが……。


「ラユルちゃん、なんだかアシェリさん見てたら私眠くなってきちゃった……」

「セリスお姉さん、私もですぅ……」

「……おいおい、これからダンジョンなんだからラユルは寝たら困るぞ。ま、アシェリは昨日頑張って献身してくれたから爆睡するのも仕方ない……」


 この程度で許さねえと怒鳴り散らすようではルファスと変わらないからな。


「申し訳ない、シギルどの……」

「私からも謝ります。ごめんなさい、シギル様……。アシェリを素っ裸にして、小窓を開けたまままま放置してもいいくらいの暴挙ですよ、これは……」

「いやいや、それはさすがにやりすぎだって……」

「いえ、私もティアどのの意見に同意です。アシェリどのはそうでもしないとまた繰り返しますぞ……」

「……そうは言ってもなあ。じゃあ、こうしよう。これから10分以上遅刻したらメンバー交代ってことで」

「はーい!」

「おー、それいいですね」

「――ちょ、ちょっと待って頂きたい、シギルどの……」

「ん? リリム、どうした?」

「えっと、その、つまりあの悪ケミと交代ということなのかと……」

「ああ、もちろんだ」


 リリムの顔が見る見る青ざめていく。


「で、ではこれから……?」

「ああ。アローネを呼ぶよ」

「……こ、今回だけは4人でというわけには……?」

「ダメだ」

「リリム、そんな我儘はやめましょう」

「リリムさん、私のダーリンに逆らったらダメですよぉ」

「ラユルちゃん、めーだよ、シギルお兄ちゃんは私のダーリンなんだから!」

「あうぅ……」

「……くうぅ……アシェリどののバカタレ……」


 色々とカオスな状況の中、がっくりと片膝を落としたリリムの落ち込み具合は特に目立っていた。なんか可哀想になってきたが、アローネだって仲間なんだからこれから少しずつでも仲良くしていってもらわないとな……。


『……リセス、起きてるか?』


 しばらく待ったが、リセスからの応答はなかった。多分、まだ寝てるんだろうな。楽しい夢を見てるかもしれないし無理に起こさないでおくか……。

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