表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/140

七十段 上手くいってないときこそ人間性が問われるんだ


 今にも目を開け放ちそうな大きな眼球が俺の目前にあった。午前十時、ソロでエルジェたちを探しにダンジョンに向かう間、何度もメモリーフォンの武器欄を確認してしまうほど瞑想の杖は美しい造形をしていた。復讐も大事だが、それが終わったら仲間に恩返しをしないといけないな。そういう意味でも彼女たちには休憩してもらっているところだ。ラユルは私も行きたいですと言ってきたが、無理矢理にでも休ませることにした。


『シギル兄さん、仇を探すならみんなに手伝ってもらえばいいのに……』


 リセスは明らかに不満そうだった。


『あんな眠くてフラフラな状態じゃ危ない』

『そうだけど……』

『もし見つけたらみんなを呼びにいくよ』

『みんなでやっつけるんだね』

『いや、みんなには手を出させない。見届けてもらうんだよ、俺の復讐劇をな……』


 これには覚悟の意味合いもある。もし俺がやられれば仲間の命が危なくなるわけで、より負けられなくなるんだ。単純な話、俺が勝てば【ディバインクロス】のメンバーは全員死ぬし、逆なら俺たちはみんな殺されるということ。当然だが、そのことに対しての同意がなければ連れていかないつもりだ。


『あの髭面の殺し屋は私がやるから』

『ああ、それは頼んだ』


 やつに関してもできれば俺が殺したいという気持ちはあるが、リセスの心の声にはそれを絶対に許さないと思えるくらいの迫力があった。毒を以て毒を制すというし、殺し屋の始末は殺し屋に任せるべきだろう。


 ――まず俺が向かったのは十八階層だ。ジャイアントスパイダーを倒したときに本来はここに転送されるはずが、そのタイミングでラユルの《無作為転移》が成功して二四階層まで運ばれたんだよな。


 確か、ここはゴブリンたちが巣食う階層だったはず。緑色の肌、鋭い双眸、大きな耳が特徴の地属性小型モンスターだ。臆病で狡賢く、一匹だけだと逃げて仲間を呼ぶが集団だと強気に襲ってくるという、ある意味人間的なモンスターだといえよう。地形を見ると穴が開いた岩場が多く、やつらの隠れ家にはうってつけのように思えた。この転送部屋からゴブリンを追いかけるパーティーの姿もちらほら見られるが、そのたびにいちいちドキッとさせられるので心臓に悪い。


 一度深呼吸して瞑想の杖を取り出す。重そうに見えたが、意外にも軽いしすぐ手に馴染んだ。デザインも最高だしますます気に入った。スキル構成は精神容量キャパシティが1割増えたこともあり、《イリーガルスペル》《微小転移》《念視》《集中力向上》《マインドキャスト》にした。これなら万が一妨害されて詠唱を中断させられるようなこともない。


「……」


 もしかしたら、やつらがここにいるかもしれない。そう思うだけで心臓バクバクになって全身から汗が噴き出そうだ。蒸し暑い洞窟のステージに舞い戻っただけに、余計に。


『《微小転移テレポート》――!』


 転送部屋から一歩踏み出して《微小転移》を使ったとき、俺はようやく本格的な復讐への道を歩み出したように思えた。






 ◆◆◆






 破裂しそうなまでに膨らんでいたワクワク感だったが、今では完全に萎んでしまっていた。十八階層から二五階層まで丹念に見て回ったが、どこにもエルジェたちの姿がなかったからだ。あんだけ緊張していたのがバカみたいだ……。無駄に寿命が縮んだ気がして本当に腹立たしかった。


 ……見落とした可能性は考えにくい。俺には感覚が研ぎ澄まされた殺し屋レイドだってついてるんだ。タイミングが悪かっただけなんだろうか? それとも、やつらは二六階層より先に進んでいるとでもいうんだろうか?


「――クソッ……!」


 地上に帰還して当てもなくホールを歩く際、イライラが極まって宙を蹴り上げたんだが、通りがかった回復術士のおじさんから露骨に眉をひそめられてしまった。いかんいかん。これじゃ帝王ルファスみたいだ……。


『シギル兄さん、これからどうするの?』

『……いないものは仕方ない。また夜に行ってみよう』

『うん……』


 そうは言ったものの、深夜とか朝に狩りにいくやつらもいるからな。その時間帯まで探した結果、もし無駄骨だったらと思うと吐き気さえしてくる……っと、いかんいかん。こういう状況をむしろ楽しまなければならないはずだ。焦るな。上手くいってないときこそ人間性が問われるんだ。


『夜がダメなら深夜、それでもダメだったら朝早く行ってみるよ』

『……うん。機嫌治った?』

『……悪かったのわかるか』

『あの回復術士さんもわかったはずだよ』

『……俺もまだまだ甘いってことだな』

『師匠に叱られちゃうよ』

『ああ。俺は師匠の一番弟子なんだ。厳しくなければ修行じゃない……』

『そうそう。それでこそシギル兄さんだよ。でも、なんでも自分でやろうとするんじゃなくて仲間に頼ることも大事だと思う』

『……そうだな。こういうときこそ仲間の大事さがわかるな』

『うん。みんなで探すのもありだよ。一人でできることなんてたかがしれてるからね』


 ……リセスのほうがよっぽど大人だ。反省しよう……。


「――シギルお兄ちゃん! リセスお姉ちゃん!」

「……あ……」


 セリスが駆け寄ってきた。どうしたんだろう。


「……はあ、はあ……。あのね、重大発表があるの……」

「重大発表?」

「うん! みんなが起きたら溜まり場に来てね!」

「あ、ああ。重大発表ってどんな……?」

「それまでの秘密! またねー!」


 ……なんだろう。セリス、あっという間にいなくなっちゃったけど、やたらと目が輝いてたな……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらの投票もよろしくお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=83299067&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ