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六七段 これが彼女にとっての自然体なのかもしれない


 ボス討伐後に送られた二五階層の転送部屋では、みんな俺のメモリーフォンに収まった黄金の卵に夢中の様子だった。眩いくらい輝いているので飾りとしても欲しがる人は沢山いそうだ。


「綺麗な卵ですねぇ。これでオムレツを作る人なんているんでしょうか!」

「……これを食材に使えるのは王様くらいだろうな」

「なるほどぉ……ゴクリッ……クンクンッ……」


 ラユルのやつ、座り込んで間近でじっと見つめるだけじゃなく匂いまで嗅いじゃって、今にも涎を垂らしそうな勢いだ。実際、物凄く美味しいらしいから食べられるものなら食べてみたいが、滅多に出ないものだしもちろんオークションで競売にかけるつもりだ。一体いくらになるんだろう……。


「はー……見てて飽きない卵なんてあたし初めてだよ……」

「うむ。実に神々しい卵だ……」

「おいくらいになるんでしょうねえ。この私たちの苦労の結晶は……」

「……ティア、あたしたちほとんどなーんにもしてないだろ……」

「そうだぞティアどの、まったくもってアシェリどのの言う通りだ」

「はいはい。貢献したの私くらいですしね……」

「「ティア!」」

「ああっ、ゾクゾクします……」

「……」


 ティアのやつ、もうマゾであることを隠す気もないらしい……。


『シギル兄さん、あいつらは探さないの?』

『……その前にこの卵を売ろうと思ってな』

『そっか……瞑想の杖が欲しいんだね』

『ああ。前も言ったっけ……』

『うん……卵、高く売れるといいね』

『そうだな。リセスも杖が売り切れないように祈っててくれ』

『うん』


 人気の杖だからもう売れちゃってる可能性もあるし、黄金の卵自体、ほかにも同時期に出したやつがいてそこまで高くならない、なんてことだってありうるわけだから過度な期待は禁物だけどな……。


「――オークションも残り三日となってまいりました。冒険者の皆様、決して後悔なさらないようにいたしましょう!」


 急いで会場まで足を運んだわけだが、瞑想の杖はまだ売れていなかった。巨大掲示板にちゃんと表示されている。よかった……。ただ、やっぱりあれから値段が上がっていて、開始額が1500ジュエルだったものに2500ジュエルの入札がついていて、それが最高額だった。確実に自分のものにしたいなら即決額の3000ジュエルで買うしかなさそうだが、厳しそうだな……。買えたらラッキー程度の気持ちでいよう。早速黄金の卵を競売品としてオークションにレンタル転送した。このレンタル転送は、売れなかった場合手元に戻ってくる便利な仕様になっているんだ。


「えー、皆様に重大なお知らせがあります。ただいま超人気アイテムを入荷いたしました! 本日の目玉アイテムは、あのスパイラルピジョンがドロップする黄金の卵であります!」

「「「おおおっ……」」」


 主催者のアナウンスでどよめきが上がっている。想像以上に人気みたいだ。こりゃ期待できそうだな……。一応、底値は2500ジュエルで、即決額は5000ジュエルにした。レアアイテムの相場も移り変わりが激しいわけだが、最近だと最低でも2000ジュエル、最高で4000ジュエルで売れたものだから欲張り扱いでも価格設定はこんなもんでいいだろう。もちろん売れたらみんなで公平に分ける予定だ。即決なら一人1000ジュエルだが、そう上手くいくかどうか……。


「――おおっと! 三十番の黄金の卵が早くも5000ジュエルで即決となりました! 落札した冒険者は、アローネさんです!」

「「「えええー!」」」


 おいおい、もう売れちゃったのか。悲鳴まで上がってるし凄まじい人気ぶりだな……。


『おめでとう、シギル兄さん』

「おめでとうです、師匠ぉ!」

「シギルさん、おめでとさん!」

「おめでとう、シギルどの」

「シギル様、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう、みんな……」


 ……ん? 壇上に立って卵を受け取った女の子、どこかで見たことがあると思ったら……十六階層にいたあの錬金術士(ワルケミスト)じゃないか……。しかも、しばらく周囲を見渡したあとで壇上から下りて、まっすぐこっちに向かってくるだと……?


「――あなたがシギルさんね」

「……な、なんで俺の名前を……」


 まさか、こいつ俺のことを調べてたっていうのか? ホムンクルスをやられて復讐するために……。


「なんでだろうね……?」

「あうぅっ……」


 ラユルが怯えて俺の後ろに隠れてしまうほど、女錬金術士は挑発的な凄みのある笑みを浮かべた。両手を腰に置いて堂々としたものだ。あれで懲りたと思ってたのに、威圧するような態度は変わらないんだな。これが彼女にとっての自然体なのかもしれないが……。


『……まさかの遭遇だね』

『ああ……何考えてるんだろう?』

『さあ……』


「おのれ、何をしに来た、悪ケミ!」

「ちょ、ちょっと、リリム、落ち着きなって!」

「そうですよ。卵をあんな高値で買ってくださったお客様なんですから……」

「止めるなああ、アシェリ、ティアァァ! シギルも金で魂を売るべきではないぞおぉ!」


 興奮したリリムがアシェリとティアに押さえ込まれている。俺でさえ呼び捨てにするくらいだから相当怒ってるな……。


「……シギルさん、あなたと二人だけでお話がしたいの。どこかいい場所はないかしら?」

「あ、ああ。じゃあこっちで……」


 正直俺も彼女の射貫くような視線に気圧されていて断れなかった。卵を買ってもらったっていうのもあるが……。

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