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六一段 ただの偶然とは思えないな


「……」


 ここはどこだ? やたらとぼんやりとしているが、宮殿のような場所だとわかる。隣には、やはりぼやけているものの少女の姿があった。こんなに近くにいるのに、顔がよく見えない。どんなに目を擦ってもダメだ。それでも彼女が煌びやかな飾りに彩られ、目が眩むような純白のドレスを着ているのはわかった。


「リセス……?」


 不思議なことに、顔も見えないのに俺はそれがリセスにしか思えなかった。


「シギル兄さん、ごめんなさい、もう……」

「え……?」

「ここでお別れだから……」


 周囲の景色とともに、リセスの姿が掻き消えていく。


「――り、リセスッ!」


 あれ……?


 周りを見渡すと、まだ薄暗さが室内に漂う中、冒険者たちが簡易ベッドで横たわっている姿が見えた。夢だったか……。枕元にある時計を確認したら午前4時ということもあって誰か起こしてないかと不安になったが、ベッドの周りに張られた結界内にいれば鼾も叫び声も漏れないようになっていることを思い出す。


 それにしても、あのドレスを着ていた少女がリセスだと、何故俺はわかったんだろう。そもそも、彼女は捨てられたんだ。両親が宮殿に住めるほどの金持ちならそんなことをするわけもない……。


『シギル兄さん、どうしたの?』

『リセス、良かった……』

『……何が?』

『何がって、心配したんだぞ。昨日の夕方頃から全然応答がなかったから……』

『……ごめん。寝てた』

『なんだ、そうだったのか……』

『寂しかった?』

『ああ。最初は違和感あったけど、こうして心の中でリセスと会話すること慣れちゃったからな』

『……そっか』

『あと、変な夢を見た』

『変な夢?』

『ああ。リセスがどっかのお姫様みたいな恰好しててさ。それに俺が話しかけてるんだけど……』


 言いかけて止めた。そのあと消えたなんて不吉だしな……。


『けど?』

『そこで終わったよ』

『そっか。確かに変な夢だね。孤児院にいた私がお姫様だなんて』

『そうだよな……』

『そういえば……』

『ん?』

『……あ、ううん、なんでもない』

『リセス、話してくれよ……』

『ごめん。前に話したことあったよね。私の横に知らない男の人と女の人がいたって』

『ああ』

『二人ともね、とても立派な服を着てたんだ。まるで、どこかの貴族みたいな……』

『……不思議だな』

『だね』


 俺とリセスの夢の内容が一致しているように感じる。ただの偶然とは思えないな。リセスが俺の中にいるから、その影響を受けた形なんだろうか。……謎が多い夢だ。考えてもわかりそうにないし、眠くて頭がくらくらするしもうちょっと休むか。約束の午前十時まではまだ時間があるしな……。


『リセス、もう少し寝るよ』

『うん、おやすみ……』






 ◆◆◆






 アシェリが午前十時から10分ほど遅れて溜まり場にきて、俺たちはようやく十七階層へと出発したわけだが、リリムとティアが言うにはこれでも早いほうらしい。なるほど、遅刻魔と言われるだけあるな。ダンジョンに行けないセリスでさえ、みんなを見送ろうと早起きしたというのに……。とはいえ、今度遅れたらみんなの前でお尻ペンペンですよとティアに言われて褐色肌が白くなるほど青ざめてたから、多分改善してくれることだろう……。


 ――セリスと黒猫のミミルに見送られながら十七階層に到着すると、なんとも嫌な音に耳を撫でられた。カサカサと地面を這うような耳障りな音と水滴の音が妙にマッチングしていて不気味だ。至るところに糸が張り巡らされていて視界も非常に悪い。


 ここは小型で毒属性のモンスター、イエロースパイダーが巣食う階層なんだ。小型といっても人間の子供くらいの大きさなので、外にいるものと比べたら結構大きめである。ノンアクティブなのがせめてもの救いだが、蜘蛛の巣に触れれば容赦なく襲い掛かってくる。この糸、触れれば動けなくなる厄介な障害物なんだが、かなり丈夫で物理でも魔法でもなかなか壊すことができないらしい。ただ、《イリーガルスペル》があれば問題ないだろうし、ラユルの超強力な《テレキネシス》でも吹き飛ばすことができそうだ。冒険者が行きたくない階層ランキングで第三位に入るほどだし、生理的な嫌悪感までは払拭できないだろうが……。


「んじゃ、ラユルはここで《無作為転移》を頼むよ」

「はい、師匠ぉ!」


 いつも通りラユルを安全な隅のほうに置いて、俺たちだけで狩りをすることにした。


「――ひっ……」


 ここに来てからティアがかなりびびってる。蜘蛛というか、昆虫自体が苦手のようだ。しかも点在する水溜まりにそれが映ることもあるから恐怖も倍増している様子。こういう構造は明らかに意図的で、この階層を作ったやつの意地悪さがよくわかる……。


「あははっ。ティア、蜘蛛なんて全然怖くないんだから安心しなって。むしろ可愛いくらいじゃないか」

「うむ。アシェリどのの言う通りだ。そもそも蜘蛛は益虫とも呼ばれる存在なのだしな」

「……そっ、そんなのダンジョンでは通用しません。ここじゃただの害虫でしょうが……」


 多分、ティアの感覚が一般的なんだろう。実際、ここでたまにパーティーを見かけるが女性陣はみんな縮こまるようにしていた。うちではラユルも平気そうだったし、露骨に怖がってるのはティアくらいだが……。


「ラユルの《無作為転移》が成功するまでの辛抱だ。頑張ろう」

「「「はい!」」」

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