五六段 お前自身の愚かさが殺したんだ
釣り役同士の諍いは、やはりパーティー同士の抗争に発展しようとしていた。アシェリからそのことを聞いたときに、もうやり合ってる可能性すらあると危惧していたが、間に合ってよかったと心底思う。抗争というか、これじゃ一方的だけどな……。女戦士、女回復術士の二人組に対して、相手は女錬金術士、男弓道士、男聖騎士、男回復術士、女魔道術士と戦力が整っている。人間の頭より一回りでかい蠅みたいなホムンクルスも含めたら数の暴力で圧倒されてしまうだろう。
「あら。逃げたお仲間が帰ってきたみたいね。しかも一人増えてるし……」
「逃げるわけないだろ! 頼りになる仲間を連れて帰ってきたんだよ!」
「……へえ。救世主さんか。でも、ジョブがよくわからないけど、何……?」
「聞いて驚くな! この人は無敵の転移術士なのさ!」
「……む、無敵の、転移術士……?」
女錬金術士を含めて、やつらのパーティーはみんな顔を見合わせてしばらくきょとんとしたあと、まさに爆笑といった様子で豪快に笑い始めた。嫌な感じだが、紛れもなくこれが昨今の転移術士の一般的な評価だろう。
「に、逃げるが勝ちってことなのかな? それなら確かに無敵だけど……」
「あんたたちにはわからないかもしれないけど、この人は超攻撃的な転移術士さんなんだよ!」
「……ちょ、超攻撃的な、転移術士……?」
……まーたさっきと似たような展開で笑われてしまった。違うのはみんな笑いすぎて苦しそうなところくらいか。
「……わ、笑い殺す気……? もしかして、攻撃的ってそういう意味なの……?」
「あんたたち……今のうちに謝っておいたほうが賢明だよ」
「そうだ。この方は本当に強い」
「そ、そうですよ。モンスターで試してみますか……?」
「……モンスターで?」
こっち側の回復術士の発言に錬金術士が眉をひそめた。なるほど、俺は今すぐやつらの体から内臓を抜いて軽くしてやるか、あるいはレイドに任せようかとも思っていたが、皆殺しだとアシェリたちにとってはトラウマになるかもしれないし、転移術士の凄さをモンスター討伐でアピールするのもありかもしれない。それで相手が退かないなら話は別だが。
「ティア、それいいね! 転移術士さん、こいつらの前でスケルトンを一発でバラバラにしちゃって!」
「……はあ? ちょっと頭が変な子たちだとは思ってたけど、ここまでとはねえ……」
「おのれ、悪ケミ……」
「何? 戦士ですらないただの悪人さん」
「き、貴様……」
「リリム、やめなさいって……」
「す、すまない。ただ、転移術士どのも一緒にここまで侮辱されたとあっては……」
「俺は別に構わんよ。こういうのは慣れてるからな。というか、言っただろ、もうあとは俺に任せるんだ」
「「「はい!」」」
「……そこの転移術士さん、随分自信がおありのようで。それとも、頭が完全にイカれちゃってるだけ……?」
『シギル兄さん、こいつ殺さないの?』
『……今のところは考えてない。殺すなら、全員殺さないといけなくなるしな。それでもいいが、転移術士の評価はいつまでたっても上がらない』
『……そうだね。じゃあティアって子の提案に乗るの?』
『ああ。もちろん、それでも相手が退かないなら殺す』
『うん。そのときは私に任せて』
『……わかった』
リセス、心の声色は変わらないが結構怒ってるっぽいな。ずっと一緒にいるせいか、そういうのもなんとなくわかってきた。
「転移術士さん、早くやってよ。それとも、やっぱり怖くなってテレポートしちゃうのかな?」
……ケミの言葉に反応して後ろの仲間がいちいち笑うので本当に癪に障る。そりゃリセスも怒るはずだ。
「ああ、その通りだよ。怖くなるのはお前らのほうだが……」
「……ん?」
「《微小転移》――!」
近くに自然発生した骸骨を瞬時にバラバラにしてみせた。アシェリたちから歓声が上がり、対抗のパーティーが一様に呆然とした面持ちで静まり返っているのがわかる。
「……へ? 何今の……。ま、まさか、オリジナルスキルだとでもいうの……?」
……お、結構鋭いのかな。まあ転移術士でこんなことするんだし普通に考えればわかるか。
「ああ……その中でも特に珍しい、一人しか覚えられない固有スキルというべきものだ。念のために言っとくがプロテクションは無駄だからな。あのスケルトンと同じようになりたくなかったら謝ることだ」
「……」
この女、ようやく自分の立場に気付いたようだ。表情にはまだ強さが残ってるが、怯んだのか右足を一歩下げてるし、やつの仲間たちもどうしようと言わんばかりに青い顔を見合わせているのがわかる。
「そうだよ、早く謝りな!」
「謝るのだ、悪ケミ」
「早く謝ってください……」
「……」
屈辱なのか、うつむいて両手を握りしめてるな。理不尽と戦っていたこの女戦士の気持ちがようやくわかったか、悪ケミストめ……。
「……ご……なさい……」
「聞こえない」
「……あ、あああああっ!」
やつが頭を抱えながら座り込んで甲高い声をあげたかと思うと、蠅型のホムンクルスが突っ込んできた。何かしてくるのは予想していたが、滅茶苦茶速いなこいつ……。《微小転移》で避けるのがやっとだった。素早すぎて姿が見えないくらいなんだ。しかも、体力を吸う特徴があるのか、どんどん疲労が蓄積していくのもわかる。悪ケミストのやつ、ホムが暴走した振りをしてあわよくばってところなんだろうが、綻んだ口元がはっきり見えてるぞ……。
「ぐう!」
とうとうホムの体当たりを腹に受けて俺はその場に倒れ込んだ。
「転移術士さん!?」
「転移術士どの!」
「転移術士様!」
「……だ、大丈夫だ……」
体当たりしてくるところを見計らい、《微小転移》で心臓を飛ばしたんだが、それでも重くて眩暈がするほどだった。こっちは相手の姿を見なきゃ攻撃できないから、そのために正面に隙を作ってわざと食らったんだけどな。こういうこともあろうかと、《念視》であらかじめホムの心臓の位置は確認してたし。
「……え……?」
消えかかるホムンクルスを見て、持ち主はようやく察したらしい。
「う、ううぅ……うわあああんっ……!」
やつは死にゆくホムに駆け寄り、抱きしめて子供のように泣きじゃくっていた。
「こいつを殺したのは俺じゃない。お前だ。お前自身の愚かさが殺したんだ」




